「月に囚われた男」2010/06/01 11:37

 タイトルは、原題の「MOON」の方が好き。
 先日、久しぶりに映画を見に行きました。
 SFです。地球のエネルギー資源が枯渇した未来。人類は月の地下からエネルギーを掘り出すのですが、何故かそこで働くのは、主人公のサムただ一人。基本、機械で採掘するから、メカニックだけいればいいってことなんでしょう。
 究極の単身赴任な3年契約もあと2週間で終わるというとき、サムは事故に倒れる。目覚めたサムが、AIのガーディの制止を聞かず事故現場へ行くと、事故車の中に、死に掛けたもう一人の自分を発見して……
 自分しかいないはずの基地内で女の幻を見るようになるところや、長距離通信のつながらない感じとか、極限下でのサイコホラーっぽくて面白かったのですが、クローンが出てくるあたりからなんか普通になってしまって。
 クローンの人権を問うのか、非人道的な操業をする企業批判なのか、焦点がぼやけた感じです。ロボットのガーティの存在も、中途半端で。
 雰囲気は好きなんですよねえ。未来的というよりむしろレトロな、月面世界の冷たい荒野。

「アリス・イン・ワンダーランド」 Alice in Wonderland2010/06/02 13:59

 そしてヒロインは、穴の下のへんてこなワンダーランドから、地上にあるへんてこなワンダーランドへ帰還する。新しい冒険をするために。

 とりあえず、休暇中は映画観ようかと、昨晩ようやく観に行ってきました(一日はサービスデーですし)、話題のアリス。

 3D映画は初めてで、なるほど立体的に見えるなあ、って思いましたが、あの映像なら2Dでもちゃんと面白く見られたようにも思います。アクションの質によっては3Dのほうが迫力あるんでしょう(アクションじゃないですが、エルム街の悪夢がリメイクされるそうなので、あれを3Dでやられたらメチャメチャ怖いと思う)が、クライマックスである怪物との直接対決シーンは私、結構眠かったですし。
 字幕が浮き上がって見えてしまうのはどうも違和感があり、不思議の国の賑やかな映像を楽しむなら字を読まなくていい吹き替えの方が良かったかもしれません。

 地上ではなんだか冴えない顔色だったアリスが、ワンダーランドを冒険していくうちに段々生き生きとしてくるのが良かったです。ラストシーンで芋虫さんが美しい蝶になって舞う演出は素朴ですが素敵な感慨があります。
 アリス以外のキャラクターも、猫も兎も双子も蛙もみんな可愛かったです。暴君全開な赤の女王だって、頭でっかいのを気にして周辺を大きな身体パーツを持つ人で固めたり眼帯騎士にメロメロだったり人望ある妹に嫉妬したりと、こうして並べてみると本当に権力持たせちゃならない困った子供みたいな人物ですが、それでもなんか可愛らしかったです。
 帽子屋は異様に格好良かったです。もっとイカレタ感じを想像していたのですが。
 原作ではどうだったっけ?読み返してみようかなあ。

「春との旅」2010/06/03 07:51

 早春の、冷たい北の海。
 不機嫌な顔で、一言も喋らず家を出て電車に乗り、旅に出る祖父と孫。
 全編に流れる音楽の、哀愁。

 今私がおおいにハマッている大河ドラマでも、異彩を放っている香川照之さん。この俳優さんの出演映画って、今のところハズレがないんですよね。
 ヒロイン・春のお父さん役で映画の最後の方に出てきて、どうして自分と母親を捨てて行ってしまったのか、と娘に問われて答えます。
 人間が別れるのに理由なんて無いよ、ただ気持ちがすれ違っただけ。
 これってこの映画の中の人間関係全体に、言えることです。
 祖父・忠男の居候先を求めて、何年も合っていなかった姉兄弟を訪ねて行くのですが、どこへ行っても駄目。温かく迎えてくれるどころか、時にいがみ合いが起こるほど。
 それぞれの事情とか考え方の違いとかソリが合わないとかで、兄弟たちは忠男の伸ばしてきた手を取ることはしないのです。
 ところが、それでもどこかに、兄弟たちの絆というか、断ち切れない繋がりがちゃんとあるんですよね。
 それを感じたから、春は今まで会いたいとは思わなかった、父親を訪ねて行く気になったのですが。
 この映画、「人は気持ちがすれ違い離れていくことがあっても、その奥底では繋がっている」と思うか、逆に「繋がっている部分はあるのに、うまく噛み合っていけない現実」と取るかで、印象が違ってくるんじゃないでしょうか。
 私の感想は、後者なんですよね。現実の苦しさ厳しさが結構リアルで。
 忠男は女房に先立たれ一人娘に自殺され無一文で体を悪くして孫娘の負担になってしかも性格は偏屈なくせにどこか甘ったれているで、こうして書くと本当にいいとこ無し。孫の春は失職中、兄弟たちも決して順風満帆とはいえない状況、行く当ては見つからず、手持ちのお金が少なくなってドンドン侘しくなっていく食事。
 旅費にも事欠くなら、訪ねる前に電話するものでは?という疑問も浮かんだのですが、偏屈な忠男が勢いで飛び出して行ったのを孫娘がイライラしながらついて行く、といった感じ(最初は本当に、仲悪そうな二人でした)だったので、無計画に行っちゃったんでしょうね。
 そんな祖父相手ですら、春もムカついたりすることもあるのですが、結局は、おじいちゃんを捨てきれない。自分の父親のように、好きな人を、捨てきれない。
 おじいちゃんを好きな気持ちを、大事にしようとしたのに……

「キサラギ」2010/06/03 07:51

振り付け、ラッキー池田
 脚本がTVの「動物のお医者さん」や「相棒」なんかも手がけている人なので、そこいらがお好きな人にも楽しめるのではないでしょうか。
 映画「キサラギ」。ハートウォーミング・サスペンスと銘打っていましたが、コメディでした、とても良質な。ミステリとしてみればすぐに先が読めちゃいますが、ああいうつぎつぎと展開が変わっていく話は飽きてこなくて好きです。
 登場人物5人もそれぞれ面白かったですが、得にすてきだったのが小栗旬のいじけ演技。当人も、キャストアンケートの、自身の台詞で印象深いものに「虫けらだ・・・」を挙げていましたが、わたしもそれが一番笑えました。次が「無職」と「事件は現場で起きてるんだ」。
 映画に笑ったあとの、エンディングで踊るいかにもなD級アイドルの幼稚な歌声が、なぜかとっても可愛らしく聞こえます。そして踊りまくる5人の喪服男たち。エンディングで踊るのって近年の特撮とかで見かけますが、とってもハイテンション。一人息を切らしてふらつきぎみな人もいて、リアルです。 
  好きなモノがあるって、いいなあ。

「遠くの空に消えた」2010/06/03 08:21

監督は行定勲。
今年観た同監督の「今度は愛妻家」が大変よかったので、昔(2007年9月)書いた感想を引っ張り出してきたのですが。


 夏も終わりのこんな日は、なんか切なく青臭い映画でも観ようと思ったのですが、「遠くの空に消えた」、想像していたのとはちょっと違っていました。
 冒頭の甘ったるいモノローグで「失敗したかな」と引いてしまったのですが、本編は、コメディと言うか、ファンタジーと言うか、思ったより漫画的な空気でした。世界観や、演出が。たとえるなら、赤塚作品の世界のような(警官がいきなり発砲するし)。
 その村の名は「馬酔村」。西部劇に出てくるゴロツキのようなカウボーイハットの男たちが村を牛耳り、酒場の様子や外国人女性や演奏音楽はロシアっぽい。飛行場建設の公団と打ち捨てられた薬局のカエル人形のみがかろうじて日本的ですが。そんな異世界と、そこに暮らすなんか濃い登場人物によって物語は進みます。
 お話の中心は子供たちなのですが、脇を固める大人達のほうが印象的でした。こどものまんま大人になったような生物学者のお父さんや、酒場の女主人もかっこよかったですが。
 満月からゆっくりと舞い降りてくる夏帽子。
 UFOに導かれて月へと飛び立っていく男。
 その幻想的なこと。
 子供たちより、大人達のほうがファンタジーしてるんですよね。
 子供たちは、「信じることが大切」と、UFOと交信しようとし、星を捕まえようとしますが、「・・・・分かっている」と、幻想にすがりきれません。そして彼らは現実を前に、「奇跡は自分たちで起こす」的行動に移ります。
 それと平行して、ファンタジーによって、かろうじて救いを得られる大人たちが描かれるのですよ、切ないですね。
 主題歌はCocco。

「アサッテの人」2010/06/04 11:05

 ここ何年か、芥川賞作品は図書館の文芸春秋で読むことが多いです。辛うじて現代文学に触れている。短いので手に取りやすいんです。
 
 著者の諏訪哲史氏については全く知らなかったのですが、授賞式で歌った、というエピソードを何かで読んで、「うわー、そういう罪のないオモロイことする人かー」と、興味を持っていました。しかも、新人賞授賞式でドン引きされたのに、懲りずに芥川賞でも歌っちゃったという痛々しさ。
 ところが、受賞作を読んでみれば、そのエピソードが単に面白いとか目立ちたがりとか痛々しいとかいう行動ではなかったということが分かりました。それ、作品のテーマそのものです。
 自然の摂理やら世間の常識やら、普通の当たり前の流れに組み込まれてしまうことを恐れる「筆者の叔父」を、小説という形式を破綻させる表現方法(冒頭からして、「以前筆者が書いて自ら没にした原稿の引用」という面倒くささ)で分析していきます。作者は「歌」で授賞式を逸脱していますが、作中の叔父は「意味不明な言葉」を発することで、日常の形式を逸脱しています。
 自分自身をなんとなく既成の枠の中に入れてしまわず、そこからはみ出た「アサッテ」の中にアイデンティティを感じる。そこにこそ理屈を超えた真実があるということでしょう。しかし、授賞式で歌う、という突飛な行動も、何度も繰り返してしまえばそれも一つの「形式」になってしまいます。そんな感じで、病的に枠に嵌められることを厭う作中の叔父も「アサッテ」を無理に追い続ける狂気に染まっていきます。
 もう一つ。叔父が狂気に走るきっかけに、奥さんの死があります。この奥さんは至極まともな枠の中にいる人物で、夫の奇妙な言葉に戸惑いながらも、きちんと愛があります。
 バランス、というか、土台となる枠組みがあってこそ、それを破綻させる「アサッテ」も生きてくるのでしょう。

 この作品の面白くないところは、作者が全部分析しすぎて味も素っ気もない点でしょうか。ストーリーが無く、奇妙な作品構成もウザイうえにすぐに飽きますし、いびつな(だからこそ誠実でもある)解説が押し付けられているような。こういう哲学っぽい作品は、解説よりも問題提起的な感じのほうが好きです。

「あすなろ物語」2010/06/04 11:53

 井上靖はやっぱりイイです。(しみじみ)
 明日はヒノキになろう、そう願いながらも檜にはなれない翌檜。
 作者の分身である主人公をはじめとする人々を、そんな翌檜に喩えて、しかしそこにあるのは自嘲や自己憐憫ではなく、多少の哀切を帯びながら、温かい眼差しを向けられています。
 だから、歴史小説でも武田信玄ではなく彼に仕える軍師(しかも大一番で作戦失敗する)を描き、鑑真ではなくその周辺のほとんど無名の留学僧を取り上げます。
ところどころに詩人らしい叙情性はあっても、基本的な文体は簡潔で抑制されていて、それなのにどうしてあんなにも温かみのあるモノが書けるのでしょう。
 どんなに愚かしく、無力でままならぬ人生であっても、井上靖は決して否定しませんね。たとえヒノキになれずとも、あすなろな人々を信じているし愛しています。だから、歴史小説でも武田信玄ではなく彼に仕える軍師(しかも大一番で作戦失敗する)を描き、鑑真よりもその周辺にいる無名の留学僧を取り上げます。

 励まされます。

「となり町戦争」2010/06/05 00:53

 流されっぱなしの男と、業務一辺倒の女。
 休暇中は本当に、のんびりモードです。今日も真昼間から、先日録画していた深夜の映画放送を鑑賞。

 話題になった原作小説(未読)は集英社ですが、映画は角川。ラジオドラマで聴いたことあるのでなんとなくストーリーは覚えているのですが、断然、映画が面白かったです。
 町条例で歩きタバコ禁止になったなんていつの間に?っていうのと同じレベルでいつの間にか始まってしまったとなり町との戦争。
 という、ギャグのようで結構シリアスを含む原作の設定もさることながら、映像的にも面白く、可笑しかったです。原作よりエンタメ性強調されているんでしょうか、コミカルな演出多かったし、ラストはほとんどメロドラマ。
 というか、原田知世演じる香西さんがかわいすぎです、主演の江口洋介が惚れるのも無理ありません。舞坂長役場対森見町戦争推進委員会としてのいかにもデキル感じのスーツ姿、私服のワンピース、ワンピ姿でバッティングセンターでかっ飛ばし、戦時特任車両で激走し、敵の只中で手に汗かいたり、弟(瑛太、戦争に疑問を投げる姿も救出活動の爽やかさも光ってました)の出兵に涙したり、ステキすぎます。

 物語の方は、まあ、なんとういうか、自分たちの生活しているこの世界、確かに関わっているものなのにその実態はよく分からないまま進んでいるんだなってこと。となり町との戦争にしたって、何でそんなことしてんのか全然まっとうな理由が分かっていませんし。
 様々な事情があるってことですが、実際の戦争だって、そうですよね。なんで朝鮮半島の北と南で未だに戦争状態なのか、となりの国のことながら、分からないし。なんでイスラエルが救助船を攻撃しなきゃならんかったのかも、分からないし。
 よく分からないまま、それでも世界は私たちを包んで回っていく。

「時が滲む朝」2010/06/06 23:57

「狼が犬になっているぞ」とメールを送ると、
「狼の成長した姿さ。市場経済の秦都では愛嬌のある可愛らしいものが売れるんだ。非現実的で孤高な狼は、俺の胸の中にしまってある」と返って来た。

 ちょっと記憶があやふやな上記の文章ですが。そういう話です。
 高校時代からの親友同士が、念願の大学進学。ここから希望に満ちたキャンパスライフが始まるのですが、彼ら二人に限らず、中国の大学生めっちゃ本読んで勉強します。バイトとかコンパとか全然なし。早朝から勉強し、詩の朗読に嵌ったり有志で文学サロンを開いたり、文系アカデミックな学生さんたちのその根底にあるのが、しっかり勉強してこの国の役に立つ人材になろうという志!もう驚くというか感心するというか。
 で、そんな純粋な熱意は、勉学から民主化運動に移行していくのですが、ご存知のとおりの天安門! 運動は挫折し、酒場で運動を批判されて喧嘩になって、大学も退学という転落人生の始まり。
 彼らの情熱は、その後何年もかけて、少しずつ折られていったように思えます。一人は自分がかつて批判した政府の元でデザイン業として成功する。もう一人は日本に移住して現地中国人の団体に参加しますが、運動の矛盾や金儲けの場となっている現実が見えてきます。あの情熱は、なんだったのか。昔はただ純粋に、人を、祖国を愛する青年でいられたのに。
 現実を生きるのに、若き日の高揚した気持ちが置き去りにされてしまう。彼らは尾崎豊を歌い、その熱を吐き出していく。(尾崎に限らず、作中に詩がたくさん出てきます)
 熱くて、飽きることなく一気に読めましたが、たくさんの要素がぎゅっと押し込められた作品で、長編小説としてじっくりしっかり書いてもらいたかった気もします。

6/6の決勝戦で、報徳学園が6-0で優勝しました。2010/06/07 00:27

 6/6の決勝戦で、報徳学園が6-0で優勝しました。
 履正社は、いつも堅守で勝ち上がり貧打で敗れるというイメージが強いのですが、この春は、大阪府予選でも近畿大会に入ってからも調子よく打ってくれていたので、「今年はひとあじ違うかな」と思っていたのですが、決勝では3安打で完封されちゃいました。
 うーん。
 毎度思うのですが、大阪府予選でも、8強に残るチームはいつも同じ、固定されてしまって。
 そして、甲子園で勝てるのは大阪桐蔭かPLで、それ以外のチームでは全国レベルで勝てなくなってきているのですよねえ。
 なんか、変に偏ってしまうのはマズイと思うのですよ。いつも同じじゃなくって、いろんな学校が強くなってシノギを削っていかないと、大阪府全体のレベルは上がっていかないんじゃないでしょうか。