「春との旅」2010/06/03 07:51

 早春の、冷たい北の海。
 不機嫌な顔で、一言も喋らず家を出て電車に乗り、旅に出る祖父と孫。
 全編に流れる音楽の、哀愁。

 今私がおおいにハマッている大河ドラマでも、異彩を放っている香川照之さん。この俳優さんの出演映画って、今のところハズレがないんですよね。
 ヒロイン・春のお父さん役で映画の最後の方に出てきて、どうして自分と母親を捨てて行ってしまったのか、と娘に問われて答えます。
 人間が別れるのに理由なんて無いよ、ただ気持ちがすれ違っただけ。
 これってこの映画の中の人間関係全体に、言えることです。
 祖父・忠男の居候先を求めて、何年も合っていなかった姉兄弟を訪ねて行くのですが、どこへ行っても駄目。温かく迎えてくれるどころか、時にいがみ合いが起こるほど。
 それぞれの事情とか考え方の違いとかソリが合わないとかで、兄弟たちは忠男の伸ばしてきた手を取ることはしないのです。
 ところが、それでもどこかに、兄弟たちの絆というか、断ち切れない繋がりがちゃんとあるんですよね。
 それを感じたから、春は今まで会いたいとは思わなかった、父親を訪ねて行く気になったのですが。
 この映画、「人は気持ちがすれ違い離れていくことがあっても、その奥底では繋がっている」と思うか、逆に「繋がっている部分はあるのに、うまく噛み合っていけない現実」と取るかで、印象が違ってくるんじゃないでしょうか。
 私の感想は、後者なんですよね。現実の苦しさ厳しさが結構リアルで。
 忠男は女房に先立たれ一人娘に自殺され無一文で体を悪くして孫娘の負担になってしかも性格は偏屈なくせにどこか甘ったれているで、こうして書くと本当にいいとこ無し。孫の春は失職中、兄弟たちも決して順風満帆とはいえない状況、行く当ては見つからず、手持ちのお金が少なくなってドンドン侘しくなっていく食事。
 旅費にも事欠くなら、訪ねる前に電話するものでは?という疑問も浮かんだのですが、偏屈な忠男が勢いで飛び出して行ったのを孫娘がイライラしながらついて行く、といった感じ(最初は本当に、仲悪そうな二人でした)だったので、無計画に行っちゃったんでしょうね。
 そんな祖父相手ですら、春もムカついたりすることもあるのですが、結局は、おじいちゃんを捨てきれない。自分の父親のように、好きな人を、捨てきれない。
 おじいちゃんを好きな気持ちを、大事にしようとしたのに……

「キサラギ」2010/06/03 07:51

振り付け、ラッキー池田
 脚本がTVの「動物のお医者さん」や「相棒」なんかも手がけている人なので、そこいらがお好きな人にも楽しめるのではないでしょうか。
 映画「キサラギ」。ハートウォーミング・サスペンスと銘打っていましたが、コメディでした、とても良質な。ミステリとしてみればすぐに先が読めちゃいますが、ああいうつぎつぎと展開が変わっていく話は飽きてこなくて好きです。
 登場人物5人もそれぞれ面白かったですが、得にすてきだったのが小栗旬のいじけ演技。当人も、キャストアンケートの、自身の台詞で印象深いものに「虫けらだ・・・」を挙げていましたが、わたしもそれが一番笑えました。次が「無職」と「事件は現場で起きてるんだ」。
 映画に笑ったあとの、エンディングで踊るいかにもなD級アイドルの幼稚な歌声が、なぜかとっても可愛らしく聞こえます。そして踊りまくる5人の喪服男たち。エンディングで踊るのって近年の特撮とかで見かけますが、とってもハイテンション。一人息を切らしてふらつきぎみな人もいて、リアルです。 
  好きなモノがあるって、いいなあ。

「遠くの空に消えた」2010/06/03 08:21

監督は行定勲。
今年観た同監督の「今度は愛妻家」が大変よかったので、昔(2007年9月)書いた感想を引っ張り出してきたのですが。


 夏も終わりのこんな日は、なんか切なく青臭い映画でも観ようと思ったのですが、「遠くの空に消えた」、想像していたのとはちょっと違っていました。
 冒頭の甘ったるいモノローグで「失敗したかな」と引いてしまったのですが、本編は、コメディと言うか、ファンタジーと言うか、思ったより漫画的な空気でした。世界観や、演出が。たとえるなら、赤塚作品の世界のような(警官がいきなり発砲するし)。
 その村の名は「馬酔村」。西部劇に出てくるゴロツキのようなカウボーイハットの男たちが村を牛耳り、酒場の様子や外国人女性や演奏音楽はロシアっぽい。飛行場建設の公団と打ち捨てられた薬局のカエル人形のみがかろうじて日本的ですが。そんな異世界と、そこに暮らすなんか濃い登場人物によって物語は進みます。
 お話の中心は子供たちなのですが、脇を固める大人達のほうが印象的でした。こどものまんま大人になったような生物学者のお父さんや、酒場の女主人もかっこよかったですが。
 満月からゆっくりと舞い降りてくる夏帽子。
 UFOに導かれて月へと飛び立っていく男。
 その幻想的なこと。
 子供たちより、大人達のほうがファンタジーしてるんですよね。
 子供たちは、「信じることが大切」と、UFOと交信しようとし、星を捕まえようとしますが、「・・・・分かっている」と、幻想にすがりきれません。そして彼らは現実を前に、「奇跡は自分たちで起こす」的行動に移ります。
 それと平行して、ファンタジーによって、かろうじて救いを得られる大人たちが描かれるのですよ、切ないですね。
 主題歌はCocco。