「風に舞い上がるビニールシート」2010/06/14 02:23

 森絵都の、直木賞受賞の短編集。
 ざっとあらすじを述べると、
「器を捜して」
<ヒロミはただその場その場の気分でものを言っているだけなのだ。そしてその背後には必ず男の影がある>
 そんな我儘パティシエに振り回され、イブのデートもフイにしてしまったヒロイン。
 しかし彼女は確固たる使命感を持って、ケーキを盛る最高の美濃焼を求めて…
「犬の散歩」
 平凡な専業主婦が、スナックのホステスに。
それは、捨て犬保護のための資金稼ぎだった。犬達の運命は過酷で、彼女達ボランティアの力は決して現実に対抗できるのもではないが、<疲労と隣り合わせの充実感>な日々は…
「守護神」
 生真面目で凝り性な社会人大学生。筋金入りの文学青年な彼は、しかし仕事に勉強に、圧倒的に時間が足りない。何としてでも四年で卒業したい彼は、二宮金次郎のストラップを持つ女、ニシナミユキにレポートの代筆を頼みに行くが…
「鐘の音」
 仏像命、な仏像修復師が、心酔する仏像を、自らの過ちで破損させてしまう。誇大妄想気味な自尊心は木っ端微塵にくだかれ、彼は仏の世界から離れてしまった。
 そして25年の月日が流れ、彼が得たものは…
「ジェネレーションX」
<今はせいぜいバントでつないでるくらいっすけどね、たいした仕事もしてないし。けど粘って粘ってつないでいけば、そのうち四番打者にもなれるかなって>
 そんな彼が、高校時代の仲間たちと交わした約束。十年に一度、みんなで野球をしよう。
 しかしその日、社長命令で仕事が入ってしまい…
「風に舞い上がるビニールシート」
 表題作が一番、複雑なはなし。ビニールシートの比喩は「DIVE!」でも使われていて、人の存在の不安定さを表す。
 国連難民高等弁務官として日々危険と隣り合わせで難民達のために働く男と、平和な日本でそれなりに充足した人生を歩んできた女。二人の価値観はかみ合うことなく、自然、離婚に向かう。
 数年後、男はアフガンで殉職して…

 各登場人物たちは、皆何かに心を捕らえられています。それゆえに、しんどい道を行き、割に合わないような苦労を背負うことになるのですが、しかしその中にこそ、彼ら彼女らにとってかけがえの無いものがある。
 どの話もおおむね読後感が良い。しかしなんかモヤモヤしてしまうのが「風に舞い上がるビニールシート」です。私が、人が死ぬのが苦手っていうのもありますが、扱う問題が非情に厳しい現実、世界の闇ですからねえ。
 人ではないですが、たくさん犬が死んでいく「犬の散歩」。その厳しさの部分は、作者のエッセイ集で語られています。
 かつて文学部に在籍していた身としては、尊敬の念を抱かずにいられない「守護神」。

 森絵都の作品はやっぱり良いです。