「誰もがそれを知っている」2019/06/22 06:47

イラン人監督が、スペインでスペイン人大物俳優を起用して撮った映画。
以前観たファルハディ監督の作品(「別離」「セールスマン」)はイランの都市を舞台にしていたのが、スペインの田舎町、それも不景気感漂う古い土地を持ってきた。
映像的には、ドローン使った結婚式の空撮が今風で、探偵マンガみたいにその映像の中に事件解決のヒントか何かあるのだろうと思っていたのだけど。
そういう、決定的なことには、ならない。
ペネロペ・クルス演じるヒロインには就学前くらいの男の子と高校生くらいの娘がいて、誘拐されるのはてっきり男児の方だと思って観ていたのに、予想に反してお転婆娘ちゃんが消えてしまった。犯人の狙いは何なのか、その秘密を知っている者が犯人だ!……でも、小さい村の中では、誰もがうすうすその秘密を知っていたのだった。
サスペンスの手法で物語を作りつつ、シェイクスピアを思わせる巧みな人物描写でゾクリとさせる。感じの良い和気藹々とした人々が、事件をきっかけにポロポロと不平不満を炙り出されてしまう、「イヤミス」の一種とも見える。
しかし、シェイクスピアほどのカタルシスはない。前に観た二作と比べても何か物足りない感じで、それは一体何なのか。
火を噴くようなバチバチの、ぶつかり合いかなあ?
ハビエル・バルデム演じるヒロインの元彼が、一方的に不条理に割を食ってしまう物語になってしまっていて、彼はもっとキレていいと思うのだけど「金より大事なことがあるさ」とでも言わんばかりに静かに受け入れてしまう。
狭い田舎社会で、大爆発は起こらず、「犯人はお前だ」と正面切って指摘されることもない。
でも、タイトル通りだとすれば、真実は「誰もがそれを知っている」ことになるのだろう。