「パレード」2011/07/01 17:39

吉田修一、昨年流行った映画「悪人」の原作者と言ったほうがわかりやすいでしょうか。
 実は昨年はもう一本、吉田作品を原作にした映画があって、結構面白かったのですが、「悪人」に比べて注目度が低いことが私としては「惜しいんじゃないか」と思っているのです。
 まあ、確かに、役者も演出も秀でてはいたけど「コレ!」と言えるほど特別な要素が無くって、賞とかは取りにくいかもしれません。
 で、今回読んだのはその映画の原作小説の方です。映画のキャスティングが良かったので、そのイメージを壊したくなくて原作に手を出すのは控えていたのですが、読んでみたら「原作も面白い!」
 直接的な心理描写はなく表に現れる現象だけを積み上げていった映画版とは逆に、原作は主人公5人の一人称によって語られるので「この人この時こんなこと思ってたのか」と、なんか痒いところに手が届いた感じです。でもその代わり「もう一度この映画観てみたいな」と言うのは薄れちゃったかなあ、満足しちゃった分。
 一人は、イマドキなチャラい大学生で、世話になった先輩の彼女をどうしようもなくストーカーした挙句、浮気中。
 一人は、美人サンだけどふわふわした己の生き方に反発して、男(売出し中の俳優)を追って上京し、ひたすら男からの電話を待つ毎日を送る。
 一人は、酒飲みのイラストレーター。酒も、イラストも、彼女の秘蔵ビデオテープと同様、自分の中のモヤモヤを拡散させるためのものだと思う。
 一人は、自称18歳の男娼。物事に対し、クールで適当でその場のノリに忠実で自由奔放に見えるのですが、単に自分自身が無いだけかもしれない。
 一人は、健康オタクで自分を律し、面倒見がよくしっかりした兄貴分に見えて、でもこういうタイプが一番色々溜め込んでいる。
 いずれも、未来に明るい展望が望める感じではありません。そんな5人の生活は、相手に深く踏み込まない居心地の良さと、腹を割ってお話できない冷たさとがあるわけです。

「手塚治虫のブッダ―赤い砂漠よ!美しく―」2011/07/03 22:41

 この、サブタイトルのセンスは、なんとかならんかったんか…

 苦しみとは痛みのことではない。己の自由にならないこと。不自由なことをどうにかしようとすること。
 結構前に観た映画で、三部作の第一作。
 手塚治虫は中学高校時代に興味深く読んだものです。「火の鳥」とか「アドルフに告ぐ」とか「ブラックジャック」とか。なんか、深いです。生きることの根源を突き詰めていきます。
 映画の冒頭が、自ら火に飛び込んで我が身を食べさせたウサギのエピソードで。
 そのあとは、他を犠牲にして生きていく生き物達の姿です。
 ほとんど二人に接点はないのですが、王子と奴隷、のダブル主人公でお話は進んでいきます。しかし、何が何でもって感じでのし上がっていく奴隷の子の方が、善良だけど悩むばっかりで何にも出来ない王子(後のブッタ)の方がずっと好感持てるんですよねえ。
 そういうストーリー設定だからしょうがないんですが、声優さんのキャスティングの問題でもあるかもしれません。ぶっちゃけ私、堺雅人さん(奴隷の子が大人になってからの声)目当てのところがあって、この人はTVアニメで、声の出演でもお上手だということは分かっていたので安心していたのですが、他は微妙なところもあって。肝心のブッダ、声細すぎるやろ。
 でも、おおむね、よく出来た作品だったと思います。お母さん若すぎるやろ、とかどうしてもチョッパーの声に聞こえるよ、なんてことも思いましたが、やっぱり深いのです、手塚作品は。
 物事にちゃんと表と裏があることを見せて、簡単に善悪に分けない。例えば、毒矢で倒れた将軍を助けようと手を尽くしたことが、「一つの命を救うために幾つの命を犠牲にしたのか」って偉い坊さんに叱られることになったり。
 人間って悲しいですね。
 でも、愛しいですね。

「最期の息子」2011/07/12 06:17

 こないだ読んだ吉田修一が面白かったので、デビュー作も図書館から借りてきました。
 全部で三篇あって、「悪人」や「パレード」ほどのインパクトはありませんが、酒屋の息子とか、ホモとか、病んだ精神とか、長崎の田舎で方言使った会話とかは初期の頃からの特徴なんだなあ。

「最期の息子」
 97年、文学界新人賞受賞のデビュー作。
 主人公が過去の日記のページをビデオにおさめ、さらにビデオカメラに映った映像を改めて見返していく、という形式でお話が進んでいきます。
 なんでそんなことしているのか、というのと、風変わりなタイトルの理由は最期になって明かされるんですが、ホモの人と同棲してヒモやってる主人公の、「悪い人じゃないけどダメな人」っぷりが全然好感持てなくってイライラします。

「破片」
 父、兄、弟、そして居なくなった母。長崎の酒屋一家の物語。これも底に流れているのは結構暗くて曲がった病んだ川なんですが、「最期の息子」に比べれば、長崎の人々や風景の明るさがあってちょっと救われた気になりますが。
 それでも、きっとこの一家は、これからずっと母親を助けられなかった無念と無力感を抱えたままでいるのだろうと、出口の見えない印象です。

「Water」
 うって変わって、高校の水泳部の話。仲良しなんだけど、みんなそれぞれにやりきれない思いも事情もあって、という何だか甘酸っぱい爽やかさのあるお話です。青春です。
 水泳部主将の男の子による一人称なんですが、コイツがすごくいい子で、そういうキャラの話はやっぱり読みやすい。

復興?2011/07/17 12:27

 東京一極集中も、たいがいにしやがれ、と思う。
 震災復興を世界に見せるためなら、東北でオリンピック開催しましょうよ。 
おかしいやろ、東京でやるのは!?
 未だに水道も通ってないとこだってあるのに、原発だって全然コントロールできてないのに、一足飛びに復興後のイベントのことで騒がれても。
 これでは、オリンピック招致に震災被害を利用しているように思われても仕方ないでしょう。
 自粛のしすぎもよくないですが。
 どうせやるなら被災地のどっかを整備してやりましょうよ、その方が国民も盛り上がりますって。
 首都に集中しているあれやこれやも分散しましょうよ、国会議事堂を福島に移せば、被災者も世界も日本政府の本気を得心してくれますよ。
 そうだ、本気が見えないのだ。
 政争に明け暮れる国会といい、あくまでも原発をやりたいって主張し続ける経済界といい、被災地とこの国の建て直しなんてもうどうでもよくなってきているのじゃないかと思えて悲しくなります。

最後まで諦めず戦った結果2011/07/18 07:16

 どうせ月曜は祝日で休みだし、というわけで、今朝は三時半過ぎに起きてサッカー観てました。
 試合の後半が始まる少し前、東の空が赤く輝き、美しい朝焼け。早朝は涼しいし、たまにはこんなのもいいなあ。
 なんて思っていたら、その後、嵐になって……

 後半24分にアメリカ・モーガンさんに先制された時には、これで終ったかなあ、と思ったのですよ。試合の序盤から、なでしこの皆さんはずっと押され続けていて、前半は本当にギリギリでしのいでいたって感じでしたから。
 しかし、36分に宮間、同点に追いつく。
 延長前半、ワンバックさんによって再び勝ち越されるのですが。
後半12分、主将・澤がやってくれた、土壇場の同点ゴール。
 ……これで、得点王にしてMVP。この人確実に今年の紅白で審査員席に座るよなあ。
 試合前から、彼女達はいい笑顔していたので、好ゲームになるだろうとは思っていましたが。
 PK戦を制したのは、GK海掘の力も大きいですが、劣勢を追いついた勢いっていうか、精神力の差が出たんじゃないかなあ。
 世界ランク1位。一度も勝ったことのない米国相手に。
 いい試合でした。
 暗い話題ばっかりなこの国で、久々に明るい感動を得られました。

「デビル」2011/07/23 12:56

 原因不明の事故でエレベーターに閉じ込められた5人。
 照明が消えるたびに、死体になっていって……
 犯人は誰か。それとも悪魔のしわざなのか。
 犯行の目的は。怨恨か、暴力魔か、離婚トラブルによる陰謀か。
 エレベーターの中でも外でも、次々と犠牲者が出て、やがて、閉じ込められた5人がいずれも問題のある人物であることが分かってきて……この辺までは、面白かったのですが。
 結末はいまいち、不満かなあ。捜査にあたっていた、家族をひき逃げされて酒に逃げていた刑事さんがイイコト言って締めるのですが、なんかキレイすぎて。
 オープニングの、上下さかさまにビル街を映す表現など、序盤の長回しなんかは重苦しい緊迫感と閉塞感が出ていていい感じだったのに。
 最初にビルから飛び降りた自殺者は事件とは何の関係もなかったの?とか、色々都合が良すぎる点を全部悪魔のせいにしてしまってて。最終的にちゃちなパニックホラーになっちゃった感じが否めない。

兵庫大会決勝、再試合2011/07/30 16:16

 うちの母校は一回戦敗退。春には五回戦まで行っていたから、期待してたのになあ。

 大雨のニュースで放送時間が遅くなって、三回途中からのTV観戦です。
 東洋大姫路と加古川北の決勝戦、昨日延長十五回のため再試合で、今日も昨日と同様、両チームのエースが完投しました。
 絶対に、疲れはあるはずなんですが、それを感じさせない好ゲームでした。特に東洋大姫路の原投手、昨日九回に本塁打打たれて試合を振り出しに戻されてしまったのがよほど悔しかったのでしょうか、監督いわく「昨日よりもいい」と。昨日は16奪三振だった速球派が、今日はコントロール重視なのか、三振は少ないけど四死球は九回に出したひとつだけ、被安打2という内容。
 ライトのファインプレーも印象的でした。加古川北の打者が「それを取るなよぉ頼むから」ってな顔してました。
 五回に犠牲フライで一失点していて、なんとしてでもチャンスをつかみ、追いつきたいところでしたが。
 七回に、加古川北の井上投手が崩れました。またも犠牲フライで2-0にされた後、四球も絡んで満塁。そして迎えた4番、5番打者にタイムリーを打たれて6-0。
 井上投手はセンバツでも、コーナーと緩急を使った投球で金沢、横浜相手に完封して甲子園を沸かせてくれたのですが、春夏連続出場まであと一歩のところで、力尽きました。

 ヘルメットの「がんばろう日本」の文字は兵庫大会だけなんでしょうか。
 このフレーズも乱発しすぎて擦り切れ気味ですが、勝ったほうも負けたほうも、あなたたちのがんばりはやっぱりステキです。