「額田女王」2019/06/16 02:03

新元号発表でいきなり万葉集ブームが起こってしまう、なんて単純なのだろうと思ったけれど、しかしその心理は分からなくはない。日本を代表する詩歌文学のひとつであるとはいえ、「じゃあその中で好きな歌をあげてみて」と聞かれて答えられる日本人はどれほどいるだろう?
忘れられた分野に興味を持つのはおおいに結構なのです。でも実際のところ、あれはけっこう長大で漢文で難しい。私ぜんぶ読み切る自信はまるでない。
そこで、井上靖の歴史小説を再読。額田さんだけでなく、有間皇子や斉明天皇や天智天皇やそのお后たちや、この時代の関係者たちのお歌が、ぽつぽつ収録されている。
そう、この時代。いわゆる645年大化の改新から五年後に白雉と改元されるところから始まるのだけど、政変、謀略、遣唐使派遣、東方への出征、遷都、重税を課される民の恨み、そして白村江の大敗。前線基地だった筑紫で、長閑に梅見ているイメージなんて、そういった数々の苦難の時代を経てようやく訪れたのである。
主に中大兄さんを中心とした激動の時代がこの小説の大きな柱であり、そこにもう一本の柱として、宮廷歌人をめぐる三角関係がかかわってくる。
最初に読んだときは、額田さんは神に仕える女官として超然としている印象が強かったのに、改めて読むと、彼女なりの形で、愛情も恋心もある女だった。立場上宮廷のナンバー1や2のお召には逆らえないけど、俗っぽく寵を競ったり嫉妬したりするのはプライドが許さないから後宮に入ってポジション固められるのはゴメンだ。という言い分が、こういう形のツンデレに思えてくる。
一歩引いたところにあっても、彼女の想いは、歌は、直感的で雑じりけない。

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