「この自由な世界で」2010/09/21 22:17

 「自由」とか「権利」とかって、「責任」や「義務」なんかとセットになって初めて正しく成立すると思うんですよね。
 たから、私利私欲のために弱い者を踏み台にすることを「自由」なんて表現しないで欲しいんですが。
 ケン・ローチ監督の、世界に向けた黒い皮肉。It’s A Free World…

 はっきり言って後味の悪い映画でした。映像的には本当に地味なので、活字で読むほうがあっているかもしれません。2007年ベネチア国際映画祭の最優秀脚本賞。
 シングルマザーのアンジーは、セクハラ上司に歯向かって職業紹介所をクビになってしまいます。そこで、彼女は自分で会社を興し、ロンドン在住の移民たちを企業に斡旋するようになるのですが・・・そこで、彼女は搾取される側から、搾取する側になるのです。
 移民達への支払いが滞っても自分達の利益は確保する。もっと立場の弱い不法移民にも手を出すようになる。
 アンジーは、強欲な守銭奴、というだけの人物ではなくて、ちゃんといいところもあるのです。バイクに乗って颯爽と営業に回る姿はカッコいいですし、イラクからの不法移民(難民申請を受け入れてもらえず、故郷に帰ることもできず)一家の窮状を知って助けようとする優しさもあります。特別悪い人では、ないんです。
 しかし、そこにビジネスの問題が絡むと、弱者を踏みつけることをためらわない。
 そんな生き方に安らぎがあるハズもなく。忙しくて息子に構ってあげられずに息子は学校で問題を起こすし、路上でいきなり殴られるし、共同経営者だった友人には愛想を尽かされるし、しまいに息子を拉致されてしまいます。
「自分と息子さえよければ、それでいいのか」
 父親のまっとうな意見が、彼女に届く気配はなく、どんどん泥沼に嵌っていく。
 最後に出てきた二児の母。「よっしゃ、仕事にありつける、しっかり働いて稼がなきゃ」という希望が彼女の表情に満ち溢れていました。その希望は、おそらく、アンジーの「自由」の犠牲となるのでしょう。そういう気がしてならない映画です。
 そして、非常に残念なことに、あの二児の母のような人たちが、この自由な世界には、この日本にも、たくさん・・・

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