「箪笥の中」2010/09/23 16:11

 古い家具って、人を招ぶんだよな。
 長野まゆみの短編連作、再読です。一遍がごく短いのですが、その中に夢と現、子供時代の回想や大家さんの昔話まで物語り世界が飛んで行き、長野まゆみワールドでおなじみの宮沢賢治モチーフや小鳥とか貝とか蝙蝠とか猫とか卵とか原爆とかがギュギュっと入っています。
 ちょっと詰め込まれすぎてどのキーワードがどこからどこへ繋がっているのか読み飛ばしそうになるのですが。
 映像向けなお話です。他は蝶の形なのに一つだけ蝙蝠の金具が付いた抽斗や、瓢箪の中の阿弥陀仏や、海でコハクを取るアメフラシや、降り注ぐ桜の花びらが砕けた窓ガラスの破片に変わるような、印象的な造形や情景。

 主人公は私と同年代の女性で、絵描きを生業としています。五つ年下の弟に手伝ってもらって親戚の家から古い箪笥を譲り受けたのですが、それを運ぶ途中で、彼は言います。箪笥が重くなった、四、五人は乗り込んでいる。
 この弟というのが霊感の強い体質で、死んだ祖父と交流したり、この界ならざるものを招いたり、姉ともども異界(それは道路の迂回路から入ってしまったり、名前の思い出せないバスの停留所だったり)へ踏み込んでしまう。
 登場人物は主人公の五人家族と、弟の嫁さんと生まれたばかりの息子、古家の大家さんと、この世ならざる者たち。子供の頃の海水浴、お彼岸には墓参り、正月飾りを神社で焚きあげ、春に雛人形を飾り、お花見。季節ごとの普通の日常の中で、みんな仲良く交流しています。

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