「雪の花-ともに在りて-」2025/02/02 23:00

清廉、としか言い様がない。
天然痘撲滅のため原始的なワクチン(種痘)の普及に人生を賭ける。それが偉い政治家とか学者とかじゃなくて、一介の町医者(しかも美男美女夫婦)なのです。
医師・笠原良策を演じた松坂桃李くん、時代劇やるには背が高すぎるなー、と思うのですが、原作・吉村昭で監督・小泉堯史なら見てみたい。小泉監督らしい、人間の美しい生き様が、美しい映像(ロケ地も良い所を選んで撮影しています)と共に描かれます。加古隆の音楽も、チェロを中心とした楚々としたもの。そして相変わらず、役所広司が登場すると画面に不思議な活力が生じます。
当時の福井のお殿様が話の分かる名君だったことも大きいのでしょうが、実際には、新しい医療を試みるのは、もっと多くの困難があったはず。
病人の描写も含めて、あまりに美しすぎて迫力には欠けるのですが、ちょっと疲れているときには、こんな映画もいいな。

「室町無頼」2025/02/03 22:37

松竹・木下グループのお行儀の良い時代劇の次に、東映の王道アクション娯楽活劇。
応仁の乱の数年前、荒廃した都で民衆が蜂起する。首謀者は弱きを助け悪を挫く牢人、蓮田兵衛。大泉洋演じる主人公に導かれ、棒術の達人となった少年が右腕となって大活躍。
それを迎え撃つ骨皮道賢(実在の人物)は蓮田のかつての悪友という設定。
のっけから死体の山、多くのエキストラが暴れ回り、炎が世を焼き払う。大規模な撮影です。池頼広の音楽も派手でいい意味で時代劇っぽくないノリの良さ。
脚本もつとめた入江悠監督はアクションとか時代物のイメージは全然無かったのですが。こんな盛大な作品も撮るのですね。

「ベルサイユのばら」2025/02/09 23:10

原作未読、宝塚も見たことないので、仏革命というと教科書の記述と「レ・ミゼラブル」と「べにはこべ」のイメージ。
要所に音楽と映像を流し高らかに歌い上げるミュージカル風演出。コレのおかげで、細かいエピソードを丁寧に積み上げることができずとも(上映時間が限られますからね)、不思議と説得力と高揚感をもたらします。
激動の時代、花の都に集った若者たちの四角関係が基本ストーリーですが。
前半は、愛くるしいマリー・アントワネットが激しい思慕の情と、その痛みと喜びを知る。
後半は、凜々しいオスカルが苦悩しながらも戦い、自由な人生をつかみ取っていく。
自由に生きる。
運命に縛られながら、白と赤のばらが、美しく咲きます。

「クロスファイア」2025/02/17 22:34

宮部みゆきのSFサスペンス、以前読んだ中編小説の続編で、「必殺仕事人」と「デス・ノート」を合わせたよう。法で正当に裁けぬ悪人を、超能力で焼き尽くす。
お話の前半は、念力放火能力者のヒロイン・青木淳子が凶悪犯罪者を追う展開。そこから徐々に、追う者は追われる者になっていく。
作中、痛ましい事件と凶悪な人間と被害者の悲嘆描かれ、そんな悪を葬り去ることは「必要悪」とも言われます。
その一方で、自らを「装填された銃」と見なし、殺人を重ねる超能力者の圧倒的なパワーと孤独があります。
暗く沈みこみそうな物語の中で、事件を追う女性刑事のまっすぐな陽性が心のオアシス。
どうしても許せないことは、たくさんある。
だからこそ、それ以外のことは、なるべく柔らかく受け止めなければ。
人生も幸福も、燃えて灰になってしまう。

「音楽の肖像」2025/02/23 15:45

クラシック音楽家たちを語る、堀内誠一の柔らかいイラストとエッセイ。それに谷川俊太郎の詩を添える。
堀内氏は87年代に亡くなっていますが、これは初版が2020年。この年、感染症のおかげで音楽業界は墓場のように不遇で、出版業界はちょっと需要が増していたのでした。
ヤマハの広報誌に掲載されていたエッセイは、音楽そのものよりも、土地と人についての記述が目立つ。
音楽、それを生み出す音楽家、その両方を育て上げるのが風土なのでしょう。
言葉という枠に制限されない音楽の世界を、詩人は言葉によって称える。