「鴨川ホルモー」2017/06/21 07:07

せっかく京都府民になったのでKYOTOっぽい小説を。ちなみに宇治に関する物語、となると源氏関連か平家物語か、あとは京都アニメーションの原作になったヤツくらい。
万城目学の2005年デビュー作。洛中で一千年に渡って繰り広げられてきた「ホルモー」なる競技が、なぜか京都に実在する大学の学生サークルに受け継がれているという設定。
お話の核は、「設定」。この競技の解説が主な内容で、主人公たちの青春小説っぽい要素もないことはないけどほとんどどうでもいいって言うか、この特異な設定の前では無いも同然であったりします。
同じく京都を舞台に大学生が怪異と遭遇するハチャメチャ小説といえば「夜は短し歩けよ乙女」。似た印象もありますが、しかし「夜は短し」との決定的な違い、怪設定の説明に頼りすぎて人物描写が比較的弱い気がしました。
これが世にいう「中二」というやつなのか。
あまりに説明を引っ張って途中飽きがくることもありましたが、でもやっぱり上手いなあって思います。お話の都合に合わせて設定作っていけばいいもんなあ。
漫画やアニメではそういうトンデモ設定あるあるですが、日本の真面目な小説界にもそんな自由な発想が登場してきたのでした。

「ジュラシック・パーク」と「ロスト・ワールド」2016/09/11 00:03

この夏、私を熱くしてくれた、高校野球と恐竜たち。

バイオ・テクノロジーで現代に復活した太古の生物。ポケットに入りきらないモンスターを、と思って子供の頃以来のマイケル・クライトンです。久々に読んで、こんな話だったけ?と思う所もあるけど、しかしやっぱり、抜群に面白い。
子供の頃には大して気にならなかったことでしたが、これは企業の危機管理の問題とも言えるかもしれません。大事件になる前にも人死を含めて色々問題は出てきているのに、大丈夫だ、大したことではない、と真剣に向き合わない経営者。完璧なシステムを作ったつもりでも、人のやることには限界があり、想定外は起こり得る。
それから、作者はジブリとか好きかも、と思いました。人と、人以外の生命、世界との関わりについての思想。ちょっと「もののけ姫」っぽいなあって。
続編の方は読むの初めてです。研究施設の有る島で放し飼いされた恐竜たちが独自の生態系を作る。そこへ、てっきり前作で死んだとばかり思っていた数学者が、仲間たちと共に乗り込んでくる。
バイオ・テクノロジーの可能性に度肝をぬかれる「ジュラシック・パーク」に比べ、「ロスト・ワールド」はもっと冒険ものっぽくて、冒険用の特殊車両を作ってきたり、ハラハラよりもワクワク感が強い。
そして、キャラクターが濃い。特に、わがままトラブル・メーカーの古生物学者が面白かったです。いつも偉そうにして周囲を振り回して、それでも、文句言いつつもみんな彼を助けようとするし中学生の生徒にも慕われているし、なんか憎めない。そして肝心な時にはまるっきりヘタレで役に立たないという。
頭でっかちな古生物学者と数学者が危機的状況で完全に戦力外になるのに対して、大活躍な動物学者のサラさん。インディ・ジョーンズばりのアクション、タフで賢くて優しくて、めっちゃ格好良いです。
大切なのは知識や理屈じゃなくて。それをどう使って現実に立ち向かうかを考え実行できることなのでした。

モモちゃんシリーズ2016/03/14 00:20

なんちゅう三賢人。
モモちゃんの生まれた日に訪れたのは、カレー粉の袋を背負ったジャガイモさんとニンジンさんとタマネギさんで、しかし赤ちゃんにカレーはまだ早い、とママに追い返されてしまうという………シュールだ。シュールレアリスムだ。
著者の体験、彼女の娘たちをモデルにした、松谷みよ子の超有名名作童話。なんとなくあらすじは知っているけど、幼少期にちゃんと読んだことは、無い。今回初めて文庫で読む。
ももちゃんは「赤ちゃんの家」にあずけられ、黒猫のプーと遊び、再び現れた三賢人に「ニンジンはちょっと…」と言って泣かし、妹のアカネちゃんが生まれ、アカネちゃんの最初のお友達は靴下で、お姉さんぶっちゃうモモちゃん。……このへんなんか、昨年弟ができた従妹の娘(三歳)を思い出しました。
そんな、子供目線な子供世界の物語である一方で、これは、お母さんの物語でもあります。モモちゃんのために恐ろしい牛鬼を叱り飛ばすママ強し!
そのうち、パパは靴だけしか家に帰ってこなくなり、ママの元に死神が現れます。
そしてパパとママはサヨナラして母娘で新しい家に引っ越し、モモちゃんは小2で転校するのですが、新しいお家でアカネちゃんは、パパに渡す煙草一本持って、新しいお家の中を探すんですよねえ。
リアルだ。リアルな家庭の事情を幼児に伝える物語。
昔から子供が苦手なのは、何考えているのかよく分からん理解を超えてる道理が通じないってのもあるけど、それ以上に、緊張するのが良くない。チビッ子の前で、自分は良き大人として存在できているだろうか、と思うと、緊張する。
大事な友達である靴下を人にあげちゃったママに、アカネちゃんは言います。
パパも誰かにあげちゃったの?
穏やかホノボノな中に、時々ガツンとしたのが投げ込まれる。子供目線な大人の世界。

「往復書簡」2016/03/01 00:35

他愛無い出来事を深刻そうにドロドロと描いたのが一本と、重い(人死にが出る)出来事をエイっと温かくまとめたのが二本。
職場の人に勧められて手に取った一冊。中編三本を、電車読書で三日読破という読みやすさに何よりも驚きです。
書簡形式小説で平易な口語文章だから、というのもあるでしょう。でもそれ以上に、湊かなえ作品というのは「続きが気になってくる」書き方の上手さが魅力なのだと思いました。
それから、登場人物たちがやたらと作戦っていうか、小芝居を打ちたがる(そして話をややこしくする)のが特徴的。
大人になった各々が振り返り、思いを述べて、高校時代の、小学生時代の、中学生時代の、「事件」を浮かび上がらせていく。
ミステリとして上手にまとまっていて読んでいるうちは凄く面白いけど、あまりに軽く読めすぎて改めて感想を述べようとしてもあんまり心に残らないのが残念。

「百年の孤独」2015/07/11 10:21

コロンビア人作家の作品って、読むの初めてです。
ノーベル賞作家、ガルシア・マルケスによる、67年のベストセラー。昨年著者が亡くなって、話題になっていた作品です。
ストーリーは、とても説明しづらいです。
ノリは、古事記を読んだ時の印象に近いです。神話的イメージがあります。
マコンドという町を舞台にした、変人ぞろいのブエンディア一族を描く年代記。彼ら、彼女らは、猛烈な執着と熱狂、その反動の絶望と引きこもり体質、そして寂しい孤独の影があります。家族の物語なのに、みんな孤独です。
巻頭に家系図が乗っているのですが、何度も同じ名前が繰り返されます。だから「ここに書いているアルカディオさんはどのアルカディオさんだっけ?」という感じでこんがらがってきます。
時間軸も、たびたび遡ったり先に飛んだエピソードが挿入されたりします。人物中心記載なためでもありますが、作者の意図でもあるのです。
だから、ややこしくても年表なんていりません。何代にも渡って、何度もゼロに還っていく虚しいまでの反復がミソだから。
ラスト、この物語が初代ブエンディアの友人だった錬金術師が暗号で記した100年に渡る予言の書であることが明かされるのです。
電車読書は失敗でした。結構長い物語ですが、時間を取って一気に読んだ方が絶対面白かった。

「姉の結婚」2015/04/25 14:50

子供の頃、母が群よう子のエッセイや小説を「面白い」と読んでいたのですが、私にはなんかピンとこない。どんな内容だったかもカケラも覚えていない。
そして今、結構イイ歳になった自分が、改めて短編集を手に取って。

友達(それほど親しくない)の結婚式のご祝儀が若夫婦の家計に重く圧し掛かる。
オシャレな部屋に住むため、手取り13万5千円の月給で家賃8万、節約生活。
貯金通帳を眺めるのが趣味のセコイ親父が、独立した元同僚の成功を面白く思わない。
ファンシーショップでバイト、しかしドケチなオーナーと店主(愛人)が夜逃げ。
美形の娘(3歳)を芸能人にしたい妻が、娘に金をつぎ込み夫の分をケチル。
金持ちの男と結婚したはいいが、相手の実家と歴然たる経済格差有り。
学生の姪がカードでお気楽に生活し、未婚で収入不安定な主人公はカードを作ることすらいい顔されない。
夫の所業に耐えてきた姉が、父親の遺産が入ったとたん強気になって離婚。

・・・・全部のお話の基盤に、金銭の問題。
もちろんお金は大切です。私だって一人暮らし始めてから家計簿つけたりしてるし。
でも、幸か不幸か、私自身に小説の中の皆さんのような状況や心境に縁がない。
理解はできます。でもそんな生き方シンドイなあ、と思う。
一遍読むのに10分ほどの中に込められたシニカル。ひとつふたつならともかく、全部が「夢も希望も望みウス」(解説が氷室冴子ってのが懐かしい)となると、なんだか息苦しい。
最近読んだ斎藤一が、財布ごと金銭を投げ出し金に拘るのを不浄とするキャラだったのと、あまりにも対照的です。
浪漫と理想を描く男性作家と。
現実の本音を描く女性作家だ。

「告白」2015/02/07 10:03

 和歌山の殺人事件は容疑者が捕まってくれてひとまずは良かったです。
しかし世の中って不気味な悪意と暴力があまねく潜んでいて始末におえません。

ほんの三ページ程を読んで「この主人公嫌やなあ」と思いました。憎悪の塊。娘を殺された母親なのだから、理解はできるのですが。この調子で全編やられるとキツイなあ、と思ったのですが、元は短編なので、すぐに語り手はチェンジしてくれました。
しかし、そこからもまだまだ続く悪意の告白。
映画も好評だったという、湊かなえのデビュー作。著作が次々ドラマ化や映画化される人気作家さんですが、読むのはこれが初めてです。
登場人物全員イタイ。一つの殺人事件を別々の視点から語る「薮の中」方式で、それぞれの形で毒を吐き続けていきます。毒々しい割にサラッと読めて面白いのですが、後半になってくるとだんだん「毒」に慣れたか、飽きがくる感じです。
ネットで簡単に情報を得られる今時の中学生たちがHIV感染者に対してそこまでヒステリックに反応するのはどうだろうか、もっと冷めてるんじゃないだろうか?などなどツッコミどころも幾つか出てきます。
結局のところ、理屈抜きの純粋な憎しみと悪意の追求がこの作品の成功要素であり、かつ物足りなさでもあるように思えました。

「ビブリア古書堂の事件手帖」2015/01/18 17:09

 昨年五月の連休に二日間鎌倉を歩き回り、大船の白い観音様の見えるところに宿を取ったりしていたので、なんとなく作品舞台のイメージが湧いてきます。
 さらに漱石の「それから」も昨年に読んだばかりだったのですが、しかし「だいすけ」という名前から何一つインスピレーションなど湧かずに読み進めていました。言いわけですが、「それから」の主人公について甲斐性も根性もないダメ男としか解釈していなくて、身内の名前をそこから取ってくるとはまるで思わなかったのです。
 でも、「それから」の奥さんの立場で見てみれば、こんなダメ男でもロマンチックに思えるものなのか、と目から鱗です。
 
 三上延著、古書をめぐるライト・ミステリ。
 人気があるのも納得、面白かったです。
 古書に関する薀蓄も興味深かったですが、それ以上にミステリ小説として上質で、謎の提示と解決へのプロセスが巧みでした。
 先日観た「ゴーン・ガール」のデビット・フィンチャー監督もそうでしたが、「どう話が動いていくのだろうか」とお客さんの興味を引き続けて結果を裏切らない話運びができる作家だと思います。
 しかし後味は「ゴーン・ガール」とは真逆で、どちらもヒロインが周囲の人間を欺く話ではありますが、ラストで「あなたを信じます」とつなげてくれたので、読後はほのぼのです。

「黒革の手帖」2014/01/17 10:31

 松本清張っていうと、いまだに火曜サスペンス劇場のテーマ曲と竹内まりやの歌声が連想されてしまう私って、なかなか平成の人になれない昭和人なのか。
 でもやっぱり、清張は昭和の女と裏社会を切り取った作家なのだと、改めて思いました。「総会屋」って単語を久しぶりに目にしたのですが、今でもこの商売(?)って繁盛しているのでしょうか。
 始終TVドラマでやっているのでなかなか小説の方を手に取ろうとは思えなかったのですが、「たいへん有名な作家さんでありながら一作もまともに読んだことないのに挑戦してみよう」
 誰からも顧みられることなく地味に銀行勤めをしていた女が、まんまと銀行から大金を横領してみせる。その動機は、男に貢ぐのでもギャンブルに狂ったのでもない。
 面白くもない日常からの脱却。そして彼女は銀座のバーのママになり、策をめぐらし駆け引きを行い、野心を育てていく。
 ヒロインの欲ボケ色ボケと都合の良い展開で、途中ダレてくることもあったのですが。
 ところが、終盤の追い込みが凄かったです。容赦なくて。
 ストーリーの材料となるネタは週刊誌から拾い上げたような感じなんですが、その料理の仕方が、とっても巧みなのでした。

「船を編む」2014/01/13 11:04

 装丁が好きです。
 音楽を扱う小説用に、「併せてお楽しみください」とネット上に曲を揃えて用意してくれるような試みもあるそうですが、本書は小説の装丁そのものが出版社が舞台の作品イメージを具象化させてくれていて、何度も眺めてしまいます。
「たいへん有名な作家さんでありながら一作もまともに読んだことないのに挑戦してみよう」シリーズ、メディア化されたモノには触れたことあるけど小説の方は初めてな、三浦しをん。
 2012年本屋大賞。映画版が面白かったのですが、原作を読んで、大筋には変更ないけど意外と映画オリジナルエピソードが多かったことが分かりました。
 辞書作りの物語。映画では「熱いな」と思ったのですが、原作の方がコメディ色が強い、お笑いのセンスが良い、という印象です。15枚に渡るラブレター笑いました、全文を掲載して欲しかったです。
 人気のあるわけが分かります。楽しく読めました。