「ナポレオン」2024/01/06 16:36

昨年から気になっていましたが、年明け終映間際になってようやく観に行けました。
激動のフランス革命時代。凄惨なマリー・アントワネットの処刑から始まるリドリー・スコット監督の大作は、美術も戦闘シーンも気合いが入っていますが、印象は冷たくて、暗い。
革命の熱気は希望や情熱より狂乱のイメージ。戦闘はリアルすぎて陰惨なほどで、昨年観た「キングダム」が戦場を格好良く華々しく描いていたのと対照的。
フランス人も、複雑な国民ですね。革命で王侯貴族を粛正し、結局、英雄を皇帝として祭り上げ称え、従っていくのです。自由って民主主義って、何なんなのでしょう。戦場の勝利よりずっときらびやかな戴冠式シーンは、美しくもどこか空しい。
「ジョーカー」では表情豊かに主人公の悲しい狂気を演じていたホアキン・フェニックスは、実に不機嫌で気難しそうなナポレオンになっていました。
コルシカの田舎出身の小男が、身分も出自も関係なく成果を上げ、国の頂点に立つ。そんな彼が、愛するジョセフィーヌと離婚した理由が、跡継ぎとして帝位を継ぐ男子を産めなかったから。そして名家の娘と再婚する。それが、彼の幸せだったのでしょうか。
時代の流れに乗り才能を発揮し望むものを手に入れてきた男、ナポレオンの憂鬱を描く。

「ノートルダムの鐘」2023/11/26 14:46

96年のディズニーアニメ。何年か前に焼けてしまったパリの象徴的寺院を舞台に、差別され虐げられてきた人々が反旗を翻す。
醜い人や、ジプシー。
自分の器に収まりきらない人や事象を、秩序を乱す悪と断じて譲らない。そういう人が力を持ち、暴走する。自分の正しさを疑わない、狂気。
主人公のカジモドは、素直に被差別の立場を受け入れて萎縮し続けていた。
しかし、不条理な差別、理不尽な暴力に強かに立ち向かう人々と、出会うことができた。
ずっと寺院に閉じこもっていた醜く優しい青年が、思い切って外の世界へ飛び出し、厳しさも温かさも経験して、大切な人のために戦う強さを得る。
醜さ弱さ、美しさ強さにバランス感、説得力があって、とても感動的な物語でした。
誰かを思いやる心があれば、きっと、人は分かり合える。

「ノマドランド」2021/04/17 11:27

職と住居を失ったから仕方なしの移動生活。というわけでは、ないのだ。
一緒に暮らさないか。そんなお誘いもあるのだけど、主人公は、既に若くもない年齢であっても、あえて車中を住処とし、旅と労働を繰り返す生き方を選択する。
高倉健の遺作映画も自作キャンピングカーで放浪の余生を選択した男の物語だった。旅に生きるって感覚は、日本人には案外お馴染みかもしれない。西行とか芭蕉とか、もっと広く解釈すれば、お遍路文化も。身の回りを最小限に絞って非日常に身を置く。
ただ、この映画のノマドたちの場合、浮世と関わる季節労働もライフスタイルに組み込まれている。
一方に、人の営み。小さくて不安定で愛おしい。
一方に、世界の巨大さ。広大な自然や、恐竜や、天のかなたの木星や、巨大企業Amazon。
両者は対比されるっていうより、縦糸と横糸って感じ。

「ニュー・シネマ・パラダイス」2021/01/11 22:00

作品そのものよりも、むしろテーマ音楽の方が有名。昨年お亡くなりになったエンニオ・モリコーネ追悼で年末にNHKで放送されていたヤツ。
トト少年は、シチリアの田舎町にたった一軒だけの映画館に入りびたり。映写技師のおっちゃんと友情を深めていくのだけど、映画に夢中の小さな友人に、おっちゃんは言うのだ。町を出て広い世界を見に行くことを。
そう、映画は儚い夢の世界。しょせんは幻。三十年ぶりに返ってきた故郷には、廃墟となったニュー・シネマ・パラダイス。
だけど。
人々が集い楽しんだ思い出は、きらきらと輝かしい夢なんだ。

「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」2020/03/07 22:34

昨年は日本映画をあんまり観なくて日本アカデミー賞も「キングダム」と「天気の子」しか分からなかったくらいなのだけど。
「新聞記者」が受賞は意外でした(日本アカデミー賞は政治家には忖度しないらしい)。松坂桃李くん良かったね。


事件の舞台となったお屋敷の、怪しげなアイテムの数々が画面に映し出されるたびにワクワクしてしまう。
本格ミステリ映画。こういうのは多くの登場人物と彼らの証言を理解するだけでけっこう疲れるもので、しかしライアン・ジョンソン監督の演出と脚本の見事なこと。飽きさせることなく131分で事件解決。
いちおう名探偵が出てきますが、実質的主人公は看護師の娘。こんなに可愛くて賢くて性格善良でゲロを吐くヒロインが他にいるだろうか。南米移民の娘とお金持ち一家のお話なので話題の米アカデミー賞受賞韓国映画と同様格差テーマが内にある。ただし、立場を越えて彼女と友情を結ぶのがお屋敷の主である金持ちのじいさん(トラップ大佐だ!クリストファー・プラマーが齢90を迎えてなおカッコ良いのだ!)というのが、この作品の方向性を示している。
事件の黒幕が誰かは途中で分かってしまうし、疑問に思う所もないわけじゃないけど(殺人にはならなくても別の罪には問われるのでは?)、アガサ・クリスティ好きな人には絶対におススメな一本です。

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」2019/06/30 09:33

東野圭吾原作、毎年のように上映/放送されているので一定以上の集客と期待値と満足度が保たれているのでしょう。しかし無難にまとまっているのだと思うと「劇場まで行かずとも金曜ロウドショウでいいや」となってしまう。

何年か前にちょっと話題になった大学生協の販売員さんによる業務外学生相談お手紙受付を思い出す。同様のことを、雑貨店の店主がやっていた、という設定。当の昔に閉店されたそこに転がり込んできた三人組が、時を越えて相談お手紙受付をすることになってしまったのは、亡き店主の想いと、縁の力としか言いようがない。
「この娘のこと、助けたいな」
このお話の肝は、そこでしょう。
三人組の素性について多くは語られませんが、色々苦い思いをしてきて現在も地に足付けて希望を持って生きている感じではない。現実の苦さを知ってなお、会ったこともない誰かを「助けたい」と思うのは、その誰かもまた、他の誰かを助けるために行動する人だからだ。
この作品の登場人物たちは、みんなそう。
「助けたい」の想いが巡り巡って、自分自身を救う。

「眠る村」2019/03/17 23:06

ナレーターというより、「役者」な仲代達矢。この情感の込め方は賛否分かれるかもしれない。
事実に基づく。という作品には興味を覚える方だけれど、ちゃんとしたノンフィクション小説やドキュメンタリー映画はなかなか手が出ない。やっぱり固くて真面目すぎて、面白みがない気がしてしまうのだろう。
東海テレビドキュメンタリー劇場第11弾。いわゆる「名張毒ぶどう酒事件」は、これまでも何度か取り上げられてきて、今回がおそらくその集大成っていうか完結版っていうか。
肺炎で亡くなった奥西死刑囚の無実を示す手がかりは、出てこない。ただ、彼が犯人であるという物証や証言や自白の信ぴょう性の無さだけが、次々と提示される。事件から半世紀以上たち、集大成にしてこのスッキリしない感じである。
亡くなった死刑囚の妹さん88才が、曲がった腰をさらに折って頭を下げ、再審請求は今でも続いているのですが。
待っている。この妹さんが亡くなるのを。本当に終わってしまうことを。待っている人たちがいる。
名張、よりも、葛尾という地名の方が頻繁に出てくる。小さな集落で起こった大きな事件は、ミス・マープルも金田一も登場することなく終わることを待たれている。
もしも本当に、奥西死刑囚が無実であったならば、警察・司法が困る。権威的に。葛尾の人々も困る。村の中の誰かが真犯人だということは負担なのだ。心理的に。
終わらせまいとする人たちと。
眠らせたまま終わってほしい人たち。

「日日是好日」2018/10/21 15:53

二十歳でお茶を習い始め、その後の二十数年間お茶と寄り添ってきた人生。
先月お亡くなりになった樹木希林さん。自由で面白いお婆ちゃんってだけじゃなくて、本気で大女優なんだ。一夜漬けとは思えないお茶の先生っぷり。
そのベテランに対して、若手の黒木華が主演。監督は大森立嗣。これだけで観に行きたいと思わせた映画ですが、想像以上に傑作。
もしかしたら、ちゃんとその道を稽古している人にはまた違って見えるのかもしれませんが。
私には、映し出される色々が、大変美しく見えました。一つ一つの所作、茶碗を始めとする道具類、お着物、お庭、お花、掛け軸、お菓子、冬の海、激しい雨、女の子たちのはしゃぎ合い。……パンフレットに掛け軸やお菓子などの一言解説があったので、それを頭に入れつつ見直してみても面白いかもしれない。
凛とした様を描くのと並行して、ヒロインの不器用で自分の欠点を数えるままならない生き方を見せるのです。かけがえのない「良い日だ」と。

「かたづの!」2017/09/03 16:59

戦国末~江戸時代初期のおんな城主、寧々様の物語。セリフの中にちょこっとだけ、直虎様のお名前も出てきます。
ですが、歴史ものというより歴史ファンタジー。語り手は一本角(片角)のカモシカだし、大蛇とか絵から出てくるペリカンとか河童とか座敷童とか、妖怪世界はさすが遠野っていうか。
しかし、とぼけたカモシカの語りによるほのぼのストーリーとは言い切れない。
けっこう、ハードな目に遭います、寧々さま。夫と嫡男を謀殺され、女の身で八戸南部家の当首になり、次から次へと難題が突きつけられます。
寧々様の基本方針は、とにかく血が流れないように死人が出ないように、戦に一番大切なことは、やらないこと!……であるので、理不尽な状況でもぐっと我慢です。
辛抱強く我慢することで、多くを守り、しかし代償として大切なものを失っていく人生、とも言えます。短気を起こさず耐えることに、鬱屈を抱える人も出てきます。孤独な戦いの中でキセルをふかすことが多くなってくる寧々様。途中で読むのがつらくなってきます。
賢く理性的な寧々様を傷つけていくのは、人の支配欲であり、狡さであり、同情心であり、自尊心であり、連帯感であり、理不尽に対する嘆きと憤りだったのでした。
戦を避けることはできても、苦しみを避けて通れない人生。
それでも、知恵を絞れば、強い思いがあれば、必ず道はある。

「ナショナル・トレジャー」2016/02/08 00:03

今年に入ってから結構いいペースで映画観に行っていますが、それでもまだまだ見たい作品も見逃しちゃった作品もたくさん。
昨日録画してあった土曜プレミアム、2004年、ディズニー作品。
とっても正統派な「宝探し」映画。「インディ・ジョーンズ」とか「グーニーズ」とか思い出します。正直謎解きのあたりは良く理解できていなくて何かコジツケっぽく感じましたし、米国建国の歴史には疎いので要所要所での主人公たちの感動がピンと来なかったりするのですが。
でもスパイアクションっぽい作戦行動やアクションは面白かったです。主人公側だけじゃなくて宝探しの競争相手の人も(最後のツメ以外は)ちゃんと有能に動いていたことも良かったです。敵役がショボイとご都合主義っぽくなったり緊張感が失せますから、ここ重要です。
独立宣言書を守るために女の手を放して放り出しちゃうのは笑いました。それでいて、もっと古いお宝の保管場所に盛大に火の気を上げるという・・・もちろん、映画的な「見せ場」としての演出だっていうのは分かるのですが、小説として書くんだったらお宝の内容を細かく列記する感じになるんだろうなあ。