天を衝く黄銅色2020/11/23 23:41

田舎なので、ちょっと足を伸ばすと軽い山登りポイントにお出かけできる。
市の植物公園もその一つ。大なり小なりの植物園、彼方此方の自治体にありそうな施設ですが、ここならではの特色をあげるとすれば、植物説明パネルに源氏物語の一節がそえられていることでしょうか。
霜月に、花は少ない。野菊たちは元気なく、椿はたくさんの品種があるけれど咲いているのは一株しかない。ただ、桜が咲いていました。品種改良ですね。十月桜って、春と秋の年二回咲く。そして冬桜。
この時期のメインイベントである、紅葉を愛でる。キレイだけど、何故か水場に恐竜(+卵)がいました。赤いイロハモミジと恐竜、どういう趣向だろう。
紅葉よりも印象的だったのは、池の周囲にすんなりと伸びた、スギ科の樹木でした。ラクウショウとかヌマスギとか呼ばれているやつ。晩秋の日差しを浴びてコガネアカガネに輝く、それは近くからだと見上げる壁で、離れて見ると青空とのコントラストが美しい。紅葉黄葉って言ってみれば単なる枯葉なんですが、それがスケールの大きな秋の風情に見える不思議。
関西文化の日企画で、この三連休中は入場無料。夜間ライトアップもあるそうですが、寒くなってきたので日暮前に下山。

「声の罪」2020/11/16 23:19

しばらくは、海外ロケも難しいんだろうなあ。これは撮影が昨年だったからセーフ。ドローン空撮万歳で、イギリス・ヨークの町の風景が美しい。ヨークでも、京都ロケ、大阪ロケでも、川や橋の映像が印象深い。時の流れとか、過去と現在を繋ぐとか、そういう意味かな。見慣れた風景の数々ある中、しかし道頓堀の例の有名な看板は、架空のお菓子会社の社名に。
戦後最大の未解決事件をモチーフにした物語。「キツネ目の男」が似顔絵そっくり(メイクの力?)だけど、犯人グループの中でこの人が一番不気味で怖いぞ。
原作小説の著者・塩田武士氏は元新聞記者、出身大学が自分と同じやん、キャンパスのどっかですれ違ってたかもしれへん。
でも、映画館まで観に行ったのは、野木亜紀子脚本だったから。オリジナルドラマの
「MIU404」も面白かった。この映画も、事件を追う、バディもの要素がある。
主人公の一人、新聞記者は小栗旬。さすがに存在感のある役者さんで、英語のセリフもがんばっていた(ハリウッド進出俳優!)。
もう一人の星野源は、子供の頃に知らぬ間に事件に関わってしまった人物。強すぎず弱すぎず、しかし地に足付けて真面目に生きている、そういう好人物がぴったりだなあ。生粋の京都人からは言語指導が厳しく飛んでくるかもしれない。
関係者から話を聞いて行くうちに次々と新たな可能性が浮かび上がってくる。けっこう核心的な事実を掴んでいた方々は、もっと早くに捜査機関に情報提供すれば良かったんじゃないか、と思わないでもなかったけど、ヤクザ怖いとか犯罪に関わりたくないとか、そういうことなのかな。
大勢の登場人物たちの様々な要素がぎっしり詰め込まれている作品。作中では事件の真相は解明されますが、現実では……今でも、この社会の中で犯人や脅迫テープの声の主が生活していて、どこかですれ違っていることもあるのかもしれません。

ウィーン・フィル・クレイジー2020/11/12 23:00

これ、ほんまにやるんですか。って、チケット窓口で確認してしまう。
クリスマス前に感染状況沈静化させたい欧州各国は「早めのロック・ダウン」を決行し、オーストリアも例外ではない。劇場は閉鎖、ホテル宿泊はビジネス客のみ、飲食店はデリバリかテイクアウト、夜間は外出するな。
そんな国から、来日。ウィーン・フィルのアジアツアーの一環だそうですが、日本以外に予定通り決行する国あるのか!!???? クラシックコンサートの客入100%が許可され、来日外国人もビジネス関連から制限緩和というけど、100人規模の団体様だ。出待ち厳禁なら聴衆の感染リスクは薄いけど、宿泊先及び会場スタッフの緊張はいかばかりか(万一クラスター発生すれば企画そのものが総叩き、大過なく運べば各種イベント産業は勇気づけられます)。
流石、ユルイ国。主催者の執念と有名楽団のブランド力と異様に高額なチケット収入(先週聴いたセンチュリーの10倍以上)を以てすれば、こんなクレイジーも通用するのだ。
夏に臨時収入(10万円)があったのと、プログラムが自分の好きな曲だったのと、業界全体大注目企画だという野次馬根性によって、海外オケの公演に初参戦する。

当り前だけど、ウィーン・フィルったってウィンナ・ワルツばかり優雅に演奏しているわけではなく、激しい曲もやる。ロシアン・プログラム。指揮者とピアニストさんが旧ソ出身者なのか。
一曲目がチャイコフスキー作、フィッツェンハーゲン改訂のチェロとオーケストラのための変奏曲。ソリストを務めた堤さんは文科系の勲章もらっているような年配の方で、「ウイルス気を付けて!」って言いたくなる。しかし、演奏は絶品でした。「ロココ風の主題による変奏曲」っていうけど、典雅な感じよりもちょっと哲学っぽい小難しさがある。それを、一瞬の緩みも無く格好良く奏でる。ブラボー。
二曲目はプロコフィエフ、ピアノ協奏曲第2番。序盤はお行儀よく、それ以降は、狂気。超絶技巧と大音量演奏。迫力はあるけどだんだん単調に聞こえてきて、ちょっと疲れる。
休憩を挟んで、最後にチャイコフスキーの「悲愴」。寂しさと軽やかさと賑やかさ、全部をゆっくりと味わう。

「むらさきのスカートの女」2020/11/12 22:58

先月観た「星の子」がおもしろかったので、原作者・今村夏子の昨年の芥川賞受賞作を読んでみました。
これは、あれです。スマッシュ・ヒットを放った「コンビニ人間」と同じ系統の、異様な人間像を描く小説。読みやすい平易な文体でノーマルとアブノーマルの境界線が取り払われていく。「それがどうした」と言われるとそれ以上の発展はない(そこが「コンビニ人間」との違い)のだけど。
読み始めは、語り手の女の妄想がうっとうしくてしんどかったのですが、妄想が「むらさきのスカートの女」の実態に移っていくと、面白くなってきます。
ストーカー女のピントのずれた妄執、狂気。そんなグロテスクをユーモラスに語る手際が凄い。

御仏は我が内に2020/11/08 16:59

宇治市出身のパティシエ(お店は東京)の限定スイーツ販売に釣られて初参拝。午後からの奉納舞踏もちょっと興味があったけど、サンミツを避けるため、ではなくお腹が空いちゃったので昼前に帰る。

朝一は参拝客も少なく、雨に洗われたお庭にしみじみと秋の風情が漂い、古刹に法要の読経が響く。このお経、中国明代の読み方らしい。
黄檗宗大本山萬福寺、何で禅寺の最前列に布袋様が祀られているのかと思ったら、それも中国式。開祖である隠元禅師は江戸時代の前半に日本に招かれたのですが、新しい時代のはじめにどういう経緯で渡来することになったのか、その辺の事情にはドラマがありそうです。
この寺院の売りは、伽藍全体重文指定の明朝様式、布袋様、でっかい木製お魚(木魚)などありますが、ある意味とても有名なのが、ご本尊の両脇に並ぶ十八羅漢像のうち一体、らごらそんさん。ブッダの息子さんだという彼は、自ら胸を開き、ぱかりと開いたそこから親父さんがひょっこり顔を出している。己の中の御仏っていうのを、そのまんま具象化しちゃった。
らごらそん像は背後に窓があり、私が拝観した際には逆光でちょっと見にくかったのが残念。仏像を含めて撮影OKのお寺ですが、この季節の午前中は避けたほうがいいかな。

「スパイの妻」2020/11/01 22:37

<劇場版>、とわざわざ注釈ついているのは、TV版や配信版もあるってことかな。NHKの高精細8Kカメラ撮影。
昭和四十年前後の、裕福なご家庭の住居、調度、衣装。山田洋次監督の「小さいおうち」でも思ったけど、自分この時代のデザインの可愛さ美しさにくらくらしてしまう。
こうして画面にくぎ付けにされた上に、ストーリーも時代劇サスペンスにして、夫婦の愛情物語でもあり、各登場人物の人生哲学の表れでもある。
主要登場人物は蒼井優、高橋一生、東出昌正の三人に絞られるのですが、三人とも完璧。特に主演女優の、物語展開によってくるくると変わる表情。はじめは無邪気な少女のような若奥さんだったのが、嫉妬、猜疑、冷徹な計算、高揚、不安、驚愕、どれも説得力ある。
黒沢清監督の、第77回ヴェネチア銀獅子賞受賞作品。この監督の実力と、そのお弟子さんである二人の脚本の素晴らしさ。
不正義の上に成り立つ幸福で君は満足か
わたしは正義よりも幸福をとります
この時代の宿命で、心躍る可愛らしいすべては、戦火に包まれる。
それぞれにとっての正義と、幸福を、掴むことができたのでしょうか。

ゆったりベートーヴェン2020/10/31 17:21

フェスティバルホールに来るのも久しぶり。
という年配のご婦人の声。お年寄りだって引きこもってばかりだと、ウイルス感染は避けられても別の不都合が生じてくるからね。

大阪クラシックもそうですが、何らかのイベントがらみのコンサートはオーケストラの主催公演よりもちょっとお値段ひかえめで、その代わり演奏時間は短めだったりします。
今回の「大阪府文化芸術創出事業 大阪4大オーケストラ名曲コンサート2020」もその類で、アンコールと休憩時間なしの70分公演。
時間短縮は例のウイルス警戒の意味もあるようで(70分でも2時間でもたいして変わらないと思うけど)、しかし客席は市松模様のところもあればちゃんと詰めているところもあって、あれはどういう意味があるんだろう。招待席?

名曲「英雄」と「運命」の間にあって、ベートーヴェンの交響曲4番はなんか地味な印象でしたが、生で聴くとどうか!……やっぱり地味な印象でした。最後の第4楽章だけは始めから最後までアップテンポでしたが、全体的にスローテンポに思いました。特に冒頭ゆったりゆったり溜めを作って、それを打ち破って軽快なメロディーを持ってくる。
 勢いで引っ張らずにじっくり音を聴かせてくるのは、もしかしたら指揮者(栗辻さん、お若い感じの方)もしくは日本センチュリーの演奏方針なのかもしれません。
何度も聴いてきた「運命」も、幾分スローな感じがしましたから。
それでも、やっぱり4番に比べれば5番の楽曲としての格好よさは際立つのでした。
ベートーヴェンの交響曲、1、2番は7月に(簡易版だけど)を聴いたので、これで生で聴いたことないのは9番のみ。さて、年末の風物詩、今年はどうなるかな?!

「鬼滅の刃 無限列車編」2020/10/25 22:30

いろんな意味でなんか、もの凄いコンテンツになってしまっている。
原作未読。でも昨年のTVシリーズが格好良かったので劇場版も楽しみにしていました。
今回は敵が催眠術/精神攻撃系だったので、キャラクター掘り下げる意味では面白いけどアクションは比較的大人しめかな。
と、思ったら。本番はその後からやってきたのでした。ポスターに騙された感じ。主人公は市松模様の少年じゃなくて、炎の人でした。序盤でもりもり駅弁食べまくっていた人が、こんなにも感動を呼ぶなんて思いませんでした。
この作品は、各要素はどこかで見たこと聞いたことあるよな感じでうんと斬新ってわけじゃないのに、それをここまで盛り上げることができるんだなあ。
炎の兄貴大プッシュのエンドロールのあと、劇場で配布している読み切り漫画「煉獄零巻」を読むと、また胸にぐっとくるのでした。

「僕たちと駐在さんの700日戦争」2020/10/18 17:11

夏、昭和の田舎の物語。700日ってあるけど本編で語られるのは三カ月間くらいかな。
2008年の映画で、主演の市原隼人が、高校生。佐々木蔵之助も麻生久美子も若い。しかし、竹中直人だけは今とあんまりイメージ変わらない。
イタズラ大好き高校生たちが、交番の駐在をからかって、駐在がやり返す。成人式でいらんハシャギかたするのってこういう奴らなんだろう。今どきの高校生たちが、共感を覚えるものだろうか。今時の中年たちが、ノスタルジーを感じるものだろうか。
それでも、この調子でくだらない攻防を貫いてくれたほうが良かったなあ。クライマックスを作るために、不良少年と病気の子供とか、なんかベタな展開を持ってきてしまった。
コメディと割り切ればゆるく鑑賞するだけだったのに、友情と絆の物語に持って行くと返って引いてしまった。

「星の子」2020/10/16 23:35

ワケわからん。世の中には、そう言いたくなることが、いっぱいある。
中学三年の数学、昔やったはずなんだけど、きちんとしたロジックでできてるんだってことも理解しているけど、やっぱり謎のお経だ。
たとえ、数学教師がイケメン・岡田将生だったとしても。

大森立嗣監督は、今年は「MOTHER」に続いて、またも特異な親子関係を扱ってきました。でもこちらの方が、もっとずっと、優しい狂気である。
映像的には、起承転結の「転」の盛り上がる所でアニメーション表現は、賛否分かれそう。主人公の少女の夢見がちな気質に合ってるといえば、合っているんだけど。
ちゃんと、芦田愛菜さんの演技で表現して欲しかった気もする。数年前にも彼女の主演映画観に行って、上手いなあと思いましたが、今の方がもっとずっと、可愛いっていうか、印象的だ。幼いころから大人世界でもまれていくと、こんな、知性と感受性を兼ね備えた目をするようになるのかなあ。
親が宗教にハマって姉ちゃん家出、と言う特殊な家庭で育ったちーちゃん。それでも、両親に愛され、友達がいて、宗教行事は怪しげだけど楽しげでもあって。特殊で不可解ではあっても、大事なところはちゃんと押さえているのは、伝わる。
全身に赤い発疹、泣き続ける赤ちゃん。これがどういうわけか奇跡的に治癒したのだから、親御さんが謎の水の力を信じてしまうのも無理ないかも。
何よりも、教団若手幹部が黒木華と高良健吾って、強すぎるぞ。彼が焼きそば作ってくれるんなら入信したくもなるよ。