「獣の奏者 外伝 刹那」2017/07/24 00:10

舞台設定がファンタジーなだけで、中身はガッツリと恋愛小説でした。
恋愛モノではあっても、その底に「生とはいかなるものか」「生き物の性」みたいな哲学が息づいているのが「獣の奏者」シリーズらしい。
短編二つに中編二つ。
各お話の主人公たちはみな、何かを欠いています。どうしようもない事情ではあるのですが、その欠落の苦しみは否応なく彼らの人生に影を落とす。
だからと言って、影ばかりの人生と諦めてしまわない。選んだ道があって、その上には愛するモノもあって。
刹那でないものなんて無い。
移り変わり失われていく人生の中で、自分は何を見つけられるだろうか……

「セールスマン」2017/07/23 23:20

何年か前に観た「別離」がとても良かったので、ファルハディ監督の今作も期待して観に行きました。
「別離」に比べるとちょっと分かりにくかったというか。タイトルにもなった劇中劇の「セールスマンの死」もタイトルしか知らなかったし。パンフレット見て初めてあのシーンはこういう意味だったのか理解できた点がチラホラ。
イランの人々がとても誇り高く、その分体面を気にするし辱的な態度を取られることに過敏に反応するということがミソです。
善良で気の良いひと。それが、状況の変化によってイライラトゲトゲした別の顔になるのが、とても自然に上手に描き出されます。
アクシデントがあって、いろんな意味で傷ついた夫婦。
神経質になって、でも忘れたいそっとしておいてほしい妻。
どうしても報復したい夫。
後味の悪さは、「別離」以上のものがありました。

「思い出のマーニー」2017/07/15 01:33

久しぶりにのんびりと金曜ロードショー。


外国の児童文学チックが全開なお話。
としか言えないなあ。序盤に見られた、主人公アンナさんの、繊細さと鬱陶しさがいかにも少女らしい青臭さで結構良いと思いました。そこから、普通に女の子同士の友情につなげて遊んだり喧嘩したりして……でも、ファンタジーにしちゃったからなあ。
周りの大人たちの寛大さが大したものです。夜間に出歩いて度々自力で帰宅できなくなる徘徊少女に、異様に優しい。
そんなこんなで、青臭さがリアルな割に全体的にふわっとした白々しさを感じるのですが。
本当に、恵まれた子だなあって結論でいいのだろうか。
自分が嫌いなそこのお嬢さん、あなた結構愛されてますよ!

「おんな城主直虎」2017/07/03 01:08

勝つだろうとは思っていたけど、こんな圧勝とは。
よほど小池知事への期待が高いのか、自民に対する反感が強いのか。



ヒロインが頑張る、周りの男たちが助けてくれる。
良質な少女マンガのツボをついているなー、と思います。
もうすでに半分経過の大河ドラマ。先日観た映画も森下佳子脚本でしたが、同じ戦国時代を扱った「花戦さ」より、朝ドラの「ごちそうさん」に近いイメージです。サブタイトルのつけ方(ダジャレシリーズに、映画タイトルパロディシリーズ)や、幼馴染の男の子がヒロインに尽くしてくれる(でもあくまでも彼女の本命は別)とか。
井伊家とか直虎さんとか、マイナーさを逆手にとって、結構自由にキャラクターを作って、観ている方もストーリーがどう転がっていくか知らないまま楽しめます。
いろいろ足りない所もあるけれど、真っ直ぐな気性で皆に愛され、成長していく主人公。
周りの面々も個性的。高橋一生と小林薫、柳楽優也のポジションがオイシイなあ。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」2017/07/01 02:00

慣れした親しんだ地元だからこそ、離れたい。そこに居られない。
アカデミー賞で主演男優と脚本賞とった作品。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」までが町の名称で、コンサートテロのあったイギリスのマンチェスターとは別物です。
無愛想で情緒不安定な男が、兄の死をきっかけに故郷へ戻る。折に触れて、友達や家族に囲まれて楽しげだった過去が再生されるのですが。
結局のところ主人公のリーは、悲しみを克服することはできません。観客も、そしておそらくは心臓を患って亡くなった彼のお兄さんも、彼が故郷に戻って昔のように活き活きした生活を取り戻すことを期待してしまうのですが、そうそう簡単に乗り越えることはできません。
主人公の元奥さんは、年月を経て人生の再出発を始めました。
主人公の甥っ子は、父親が亡くなったり母親に受け入れてもらえなかったりと円満な家庭環境とは言い難いのですがそれにもかかわらず部活やらガールフレンドやら高校生活を充実させることを最優先に考えています。
しかしリーは、罪の意識から逃れられません。どうしても。
それでも、いつの日か虚しく苦しい人生から逃れたい、とは思っているのでしょう。
ほんのわずか、0.5歩だけ、前に進んだかな?

「花戦さ」2017/06/26 00:32

どの花が美しいか。
どれも、それぞれに。
なーんて、某アイドルグループの代表曲みたいなマトメになったけど。
期待以上に面白かったです。戦国末期の時代の暗さもあるのですが、ユーモラスな部分も結構あります。「花の中に、仏様がいる」……野村萬斎演じる池坊専好の、人に優しく天真爛漫なキャラクターの魅力が、お話を殺伐とはさせません。
クローズアップを多用した映像で、豪華キャストの熟練の表情(頭踏みつけられる佐藤浩市とか!)の演技とお花の可愛らしさを味わえます。
ベテランはもちろん、中堅も若手も子役も犬に至るまでキャストに文句なし。京都が舞台なので京・大坂人はみんな上方言葉でしゃべるし。
久石譲の音楽も相変わらず良かった。
森下佳子脚本は、冷静に考えれば多少無理のありそうな強引な話の展開でも、キャラクターの魅力と勢いで細かい疑問を吹き飛ばして楽しませてくれます。

「猿の惑星」2017/06/23 07:46

人類の敵は、人類に似ている。
2001年の、ティム・バートン監督バージョン。ご存じ進化した猿の世界を描いた作品ですが、これだけ長い間様々なバリエーションが制作されているのも、この設定に人間の本質に迫る魅力があってこそ。
昔見た初代よりも、猿の顔が人間っぽい。とくに雌猿は頭髪を延ばしたりして。なのに動きは猿っぽいところがあります。そして奴隷扱いの人間たちはちゃんと人語を話していました。ちゃんと文明残っているのになんで猿に負けているんだろう……と思いましたが、言葉がある分ちゃんと「キャラクター」として存在しています。
猿も人間も、どちらもけっこう野蛮です。
終盤はかなり強引でご都合主義だとも思いましたが、あのラストを描きたかったんだなあというのはよく分かりました。
猿が人間を真似たからああなったのか。
そもそも人間も進化した猿も大差なくて当然と言うべきか。

「鴨川ホルモー」2017/06/21 07:07

せっかく京都府民になったのでKYOTOっぽい小説を。ちなみに宇治に関する物語、となると源氏関連か平家物語か、あとは京都アニメーションの原作になったヤツくらい。
万城目学の2005年デビュー作。洛中で一千年に渡って繰り広げられてきた「ホルモー」なる競技が、なぜか京都に実在する大学の学生サークルに受け継がれているという設定。
お話の核は、「設定」。この競技の解説が主な内容で、主人公たちの青春小説っぽい要素もないことはないけどほとんどどうでもいいって言うか、この特異な設定の前では無いも同然であったりします。
同じく京都を舞台に大学生が怪異と遭遇するハチャメチャ小説といえば「夜は短し歩けよ乙女」。似た印象もありますが、しかし「夜は短し」との決定的な違い、怪設定の説明に頼りすぎて人物描写が比較的弱い気がしました。
これが世にいう「中二」というやつなのか。
あまりに説明を引っ張って途中飽きがくることもありましたが、でもやっぱり上手いなあって思います。お話の都合に合わせて設定作っていけばいいもんなあ。
漫画やアニメではそういうトンデモ設定あるあるですが、日本の真面目な小説界にもそんな自由な発想が登場してきたのでした。

「インデペンデンス・デイ」2017/06/11 23:24

96年米国映画。
宇宙人による地球侵略に対抗!がんばれ地球人!
というマンガか特撮ヒーローモノみたいな設定ですが、結構面白かったです。
圧倒的な破壊力で壊滅する都市。あらゆる攻撃を受け付けない強大な敵。
昨年観た「シン・ゴジラ」を思い出しつつ録画を観ていましたが。
「ゴジラ」との大きな違いはふたつ。
リアリティー度が「ゴジラ」に比べて格段に劣る。その分漫画チックな派手さやワクワク感があります。
もう一つが、キャラクター描写。ちゃんと個々のプライベートや考え方人間性を描いていて感情移入しやすい。大統領自ら戦闘機のパイロットやるとかビックリでしたし、おとーさんのカミカゼ・アタックなんてちょっと感動したし。
いい娯楽作品だと思いました。

「アトミック・ボックス」2017/06/10 16:09

作品に合わせてGW期間中に読めたらより旬な感じだったかもしれません。
読めば瀬戸内国際芸術祭に行ってみたくなります。実際わたし第二回の芸術祭に行きましたし。
再読です。新聞連載中も毎日楽しみに読んでいたのですが、連載終了後、国家機密を「保護」し情報漏えいを罰する法案について話題になり、「この作中でそんな法が存在していたらどうなっていただろう!?」なんて思っていました。
要するに、一般人であるヒロインが明らかに「特定秘密」に属する情報(戦後日本の原爆製造計画)を得てさて公表しようかどうしようか、というストーリーです。世間様はもうすでに特定秘密保護のことなんて忘れ去った感じですが、北朝鮮の核開発問題が熱い時期に読み直すのもまたヨシ。
そんな風に言うと小難しい小説みたいですが、基本的には冒険小説です。警察が権力と組織力とシステムで捜査・追跡するのに対して、ヒロインが知恵と勇気と友達の輪で切り抜けるのがとても小気味よいのです。
大きな社会と個々の人間性を切り離すことなく描く、それが池澤夏樹の小説の魅力なのです。