「みをつくし料理帖」シリーズ2016/12/25 22:43

料理漫画はとんと読まないのですが、この小説は「料理漫画や!」……今、4巻目まで読んでいます。とにかく真っ直ぐなおはなしで読みやすく、気軽に読めるシリーズ。
ヒロインの澪ちゃんが、いろんな困難に遭いながら料理人として成長していく。
こてこてのストーリーながら、人情アリ、身分違いの恋愛アリ、料理勝負アリ、仲良し幼馴染アリ、料理屋経営モノでもアリ。ど真ん中直球の王道とも言えます。巻末のレシピとかお江戸地図がついていたりで、刊行元の読者へのサービス精神がうかがえます。
ヒロインたちが上方出身というのもちょっと面白いです。東西食文化の違い指摘。興奮すると大阪弁の出る澪ちゃん(時代劇なんかでは江戸っ子言葉ばかり聞きますが、本当は多様なお国ことばがあるはずなのです)。そして常日頃から(接客中でも)上方の喋り方を押し通すご寮さんが、大変格好ヨロシイ。
大店の女将をやっていた自負、気品、厳しさ。一本筋の通った、オトナの女や!

「細雪」2016/02/21 22:20

谷崎没後50年だった昨年中に読むつもりが、文庫本で上中下巻思ったより長くてお正月休みもナンダカンダで読めなくって時間がかかってしまいました。
鶴子:子だくさんお母さん
幸子:華やかで感情的奥さん
雪子:めんどくさい系内弁慶お嬢さん
妙子:活動的で強か不良娘
の、4姉妹物語で、主に次女の幸子さんの視点で描かれますが、物語の主な内容は雪子(たぶん、この子の名がタイトルの由来なのでしょう)さんが何度もお見合いしては縁談がまとまらないのと、妙子さんのトラブルメーカーっぷりです。
時代は昭和10年代、戦局が徐々に厳しくなっていくのですが、空襲とか、決定的に日本が痛めつけられる辺りには入らず、物語は終わってしまいます。大阪の元・名家のお嬢さんたちの、歌舞伎やら花見やら蛍狩りやら華やかな生活。そういうのを谷崎は描きたかったのですからしょうがないんですが、それでも、この後彼女たちがどういう運命をたどるのか、こんなに長い小説なにに最後のページまで来て、まだまだこの続きが読みたくなってきます。
京阪神至上主義っていうか、その他の土地は結構コテンパンに田舎扱いです(姉妹たちとは水が合わないってことですが)。関西人にはなじみの地名がたっぷり出てくるのが何か楽しいです。
女たちの良くも悪くも「華やか」な生活っぷりの中で、異彩を放つのが神戸の水害描写でした。谷崎自身は大した被害体験ではなかったそうですが、しかし記録文学のように具体的でリアルな描かれかたで、非常に興味深かったです。東日本大震災関連の文学作品も結構ありますが、どっちかというとフワフワふぁんたじっくな書き方で、リアル災害描写なイメージ内から。
それから、幸子さんの亭主が異様に頼りになるのが印象的でした。妻(とその姉妹)を思いやり、あらゆる局面で冷静で的確な判断を下し行動する。彼の甲斐性と頼もしさがあってこそ、谷崎は、何かと面倒事の多い姉妹たちを安定してはしゃがせていられるんだよなあ。

「アルジャーノンに花束を」2013/11/05 22:55

 最初に中編SF小説として発表されたのが1959年、もはや古典といってもいい、ダニエル・キイスの名作ですが、私は随分長いこと、大きな誤解をしていました。
 本書の主人公の名前はアルジャーノンじゃないんです、チャーリー君です。
 アルジャーノンは、チャーリーと同じ手術を受けた、賢いネズミ君でした。
 知能指数は低いけど気の良い33歳のチャーリーは、もっと賢くなればみんなの話の仲間に入れるだろう、と思って、実験的な手術を受けます。
 ところが、手術でオツムがよくなってくるにつれ、友達だと思っていた人たちが実は自分をバカにして笑っていたことや、両親が自分のことについてケンカをしていたことなどを、理解してしまうのです。
 そして、彼はやがてパン屋の同僚よりも大学のエラそげな先生たちよりも賢くなり、数か国語を操りあらゆる分野の専門知識を得るまでになって、・・・・・・彼は以前よりもずっとずっと、孤独になっていくのです。
 とっても、切ないです。
 もともと中編小説だったのを1966年に長編に書き直して(そしてネビュラ賞を取ったり映画化されたり)あるのですが、途中でちょっとダレてくるので、中編のままの方が良かったんじゃないかな、とも思えてきます。ストーリー自体は、シンプルですから。
 しかし、最後の一文は秀逸です。
 しんみりさせて。
 同時に、チャーリーのことをとても愛らしく感じさせる終わらせ方でした。

「PSYCHO-PASS 0 名前のない怪物」2013/10/19 22:48

著者は小説家ではなく、脚本や演出やっている方で、本自体も値段の割に安っぽいもんなので、買うかどうか迷ったのですが。
 アニメ第二期制作決定を祝って。
 
 TVシリーズのスピンオフなので、主人公たちがどうなるのかは分かっているのですが、それでも、面白いお話でした。
 一番可笑しいのが・・・・「公正・誠実をモットーにして、清廉潔白なまなざし」の狡噛慎也監視官。TVシリーズでは、あんなにもワイルドなアウトローキャラやったのに。
 そんな優等生なコウちゃんが、シニカルな不良キャラの佐々山光留執行官との距離の取り方に悩み(笑)、衝突する。
その果てにようやく相棒っぽくなってきたと思ったら、佐々山さんは殉職してしまうわけです。どっちかというとこの佐々山さんが本作の主人公なのですが、事件は後味悪く幕を閉じ、誰も救われないお話です。
しかし、やっぱり、このSFな世界観やキャラクターをきっちり描きつつ、刑事ものとして事件を追うストーリーが、やっぱり、面白いのです。

「スロウハイツの神様」2012/06/19 21:52

 そんなことに自覚があるなんて自惚れてる。どうかしている。だけど、認めたい。
 あの子たちは、本当に僕のことが好きなんだ。

 まるで、あのトキワ荘のように。
 売れっ子ラノベ作家を中心に、若いクリエーターの卵たちが、一つ屋根の下で共同生活を送る……
 著者の辻村深月さんは、私より二つ年下で写真では結構美人さんで、ジャンルでいえば青春小説ってことになるのか、若い人に人気のある作家さんだと聞いていたので一度読んでみたいと思っていたのですが。
 スロウハイツの住人たちの群像劇っぽい構成にせずに、「ある事件のせいで一度筆を折った人気作家と、彼の作品によって辛い少女時代を救われた熱狂的ファン」の話に絞ったほうが良かったんじゃなかろうかと、思いました。
 なんか、どの登場人物も、嘘っぽくて薄っぺらくて。そういう人間心理や個性に理解や好感を覚えないわけじゃないんですが、まるきり共感がありませんでした。
 話が進むにつれて、序盤に表面だけ描かれてきた人物たちの裏側が出始めてきて、どの辺までが彼らの「優しい仮面」だったのかが見えてきて色々腑に落ちてはくるのですが、それでも、裏だろうが表だろうが、薄っぺらいのは変わらないんですよねえ。
 ただ、第十二章「環の家は解散する」で住人達がかつてなく一致団結し、続く最終章「二十代の千代田公輝は死にたかった」で最後の「裏側」が描かれる感じは良かったです。キレイにそれまでの伏線を回収して。
 強引やなあ、ありえへんなあ、という感覚は続いていましたが、小気味の良い「現代のおとぎ話」と、言えるのかもしれません。

「国姓爺合戦 曽根崎心中」2012/05/05 11:18

 ほるぷ出版の、日本の文学 古典編より。注釈と、現代語訳と、解説文もついていて、「舞台上ではこんな盛り上げ方してたのかな」なんて、華のあるお芝居をイメージしながら。

 しかし、じゃぱんの浄瑠璃劇なはずなのに、先日みたイラン映画よりも理解しがたい「国姓爺合戦」……忠孝の道があまりにも激しすぎて、感動するどころか、ついていけません。
 父が元・明朝に仕えたチャイニーズで、母が日本人な鄭成功が、清に滅ぼされた明朝復興のために挙兵するって史実を元にした「時代物」。
 こういうのは、ファンタジーも交えて派手に景気よくやって喝采を浴びるもんなんで、その辺の都合の良い展開は(お守り一つでトラを従えたり、普通の漁師のおかみさんやったのが数年で剣の達人になってたりとか)普通に読めたのですが。
 皇太子の身代わりに自分の赤子を殺す呉三桂さんとか、「女房の情けによって裏切ったと言われるのは武人としてのメンツがたたないから」なんてスカな理屈で奥さん殺そうとする甘輝さんとか。
 特に、女性の扱いがなあ。誇り高く凛とした強い女性を描き、そして彼女たちの自己犠牲のさまを「見せ場」にする作品です。肝心の、敵の王様打ち取る場面なんかは、何かのついでみたいな、実にアホらしいあっけなさでした。

 曽根崎心中は、「世話物」でもっと観客に身近な出来事を物語にしているので、仙人とかは出てきません。さすがに、哀愁漂う節回し、凝った言葉が連ねられます。
 情景としては、最後の道行なんかも儚さいっぱいですが、それ以前、縁の下に隠れた徳兵衛が、お初の足を抱いて意思表示をする演出は、エロティックと切なさとがありますねえ。色っぽいお人形だったことでしょう。
 徳兵衛も、条件の良い縁談をけってキッパリと恋仲のお初を取ったり、義理を果たすための大事なお金を友達に融通したり(そして騙されちゃうけど)、なかなか男気のあるやつです。
 お初さんも、そんな徳兵衛を支持して、ついていく。
 元禄時代の人々は「義理と人情」をすっごく大事にしてたんですねえ。

「共喰い」2012/02/28 01:08

 作品内容よりも作者のパーソナリティーが受けて?大いに売れているそうです。
 で、昨日図書館に行ったときに、ちょいと読んでみました。
 ……食事前に読むべきでは、なかったかなあ。
 芥川賞選考委員を唸らせた、濃密な文章は、さすがなもの、なんですが。
 密度が濃すぎて、気持ち悪い。というか、ねっちりとしたコダワリのある描写が連なっている割に、なんか現実味が感じられなくて、前日まで読んでいた内田百閒の幻想小説の延長のような、グロテスクな不思議の国のような。
 舞台は昭和の末の「川辺」の町。川は下水が流れ込んでいて悪臭がして、「女の割れ目」に例えられている。
 そこから離れられない父と子。主人公の少年は17歳の、狂おしいほどヤリたい盛りなお年頃なんですが、最中に女に暴力を振るうとコトにとてつもない快感を覚えるという父親の性癖を受け継いでしまって、不本意極まりない、情けないけど止められない。彼女ともうまくいかなくなってしまいます(まあ当然ですが)。
 男性なら、そういう悩ましい感覚にシンパシーを持てるのかもしれませんが、どうにも、私から見たら「嫌ならやらんかったらええやん!」と身もフタもない感想になってしまうんですよねえ。先に述べたような現実味の感じられない描写っていうのも、そういう自己が完成されていない未熟でグラグラしたガキの目線で語られているからなんでしょうかね。
 それに比べて、職業不明な(この辺も、このお話が寓話っぽく感じられる要因)親父さんの方は、もう自分が変態であることを開き直って受け入れていて、さらなる非道へと突き進んでしまいます。
 作品タイトルの由来は、この親父さんが、汚水の流れる川で採ったウナギを超ご満悦で食べている(でも全然美味しそうには描写されてなく、逆に気持ち悪い)ところからきているのだと思われます。
 こうした男たちには共感しづらいのですが、女たちは「母は強し」ってとこを見せてくれます。
 少年のお母ちゃんは戦争のときに右手を失くしてしまっていて、苦労して、強く生きた人。だからこそ、女を殴るひどいヤツなのに、自分を女として妻にしてくれて、失くした右手を補う義手を与えてくれた男を、憎みながらも情を捨てきれなかったのだと思います。
 しかし、自分ではなく、自分の息子が酷いことになってしまっているとなると!
 男性作家でありながらこういう母親を描けるって、おそらくは、作者のお母上が大変肝の座ったお人なんでしょうねえ。

「ジョゼと虎と魚たち」2012/02/20 00:39

 女たちの、男との出会いと別れを描く、田辺聖子の短編集。
 みんな、関西の女たちなんですよね。
 表題作は、映画化されてしかも「原作より面白い」という異例の評価を得た佳作でした。
 主人公の「ジョゼ」のキャラクターが、他の八編に比べて異色に思えます。脳性麻痺(疑)で足が悪く、独特の美意識っていうか哲学を持っている。そんな彼女と、彼女を助ける好青年との関係が、どこか病的なエロティシズムを漂わせて描かれるのですが、原作ではぼんやりと示唆されていた「その後」を、映画ではバシっと観客にたたきつけています。
 その他の作品は、
「お茶が熱くて飲めません」
 別れた男と、七年ぶりに会うことになったあぐり。かつてその男は良くも悪くも天然な無邪気さがあったのに、倒産やら離婚やらを経て、間の抜けたままガツガツしたオッサンになってしまって興ざめしてしまう。
「うすうす知っていた」
 夢見がちっていうか、妄想壁のある梢。ぼんやりと、ロマンティックな結婚に憧れてはいるものの、妄想するばっかりで現実問題として具体的なことは何にもできない動けない。
「恋の棺」
 別れた旦那から「二重人格」と言われたことのある宇禰。優しさと、冷たさの両方を使い分けるのはまあ、わりと普通の話なんですが、彼女の場合はそれが高じて「二重」であることに優越感と快楽を覚えるまでになってしまって。
「それだけのこと」
 ロールプレイング的な結婚生活になんか物足りない思いをしていたヒロインは、一緒にいて素でいられる堀さんのことが好きになっていく。明らかに両思いなのに、でも堀さんはジョークに紛らわせてしまって「それだけのこと」以上にはならない。
「荷造りはもうすませて」
 えり子は秀夫との甘美な夫婦生活に満足しているはずなのだが、秀夫が実家(養母と、前妻と、前妻との間の子がいる)の問題で苦労しているのを見て複雑な気持ちになる。そんな苦労はしたくないけど、なんか感じる劣等感。
「いけどられて」
 夫がよその女に子供こさえて、とうとう出ていく日。なのに梨枝がやたらと寛大な態度をとれるのは、なんの未練も執着もなく、放たれているから。
「男たちはマフィンが嫌い」
 マフィンのように見ばがよいので、自己満足できてしまう。しかしミミは、そんな薄っぺらくて実のない男関係にとうとう嫌気がさしてしまった。
「雪の降るまで」
 傍から見れば地味で、結婚もせずに華のない人生を送っているような中年女性。しかし以和子は、小金も溜めていれば、恋人と楽しい時間もすごして、結構幸せに年齢を重ねている。

「今日からマのつく自由業」2011/11/07 12:31

 平和に関しちゃ日本のが、この国より優秀だと思ってるからさ、やめろって言われても言い続けるね!戦争反対、絶対反対、一生反対、死んでも反対っ

 自分的に、軽く読めそうなライトノベルをチョイス!シリーズの第三弾。
 これは、さすがというか、やっぱりおもしろいなー。TVアニメの方を結構見ていたんで、話しの筋は大体覚えているんですが。
 平成13年に発行されたこの第一巻だけでは、世界設定や登場人物の裏事情なんかもあんまり明かされていなくって色々収まり悪いし、基本的にストーリーは、ピンチになったら魔王陛下のスーパーな魔力で力づくで解決!なんで、そう思うとなんか安易な感じなんですが。
 キャラクターが面白いんですよね。主人公、渋谷有利クン15歳の、一人称が小気味よい。いきなり異世界に連れられて魔王やれって言われて、普通の日本人高校生の感覚的に当然「えーっ」てなるのですが、しかし大事なところで、彼のまっすぐな正義感が炸裂します。
 彼のもとに、これからたくさんの人やら魔族やらが集ってくるわけですが、大勢から慕われるのも、納得です。
 他では、ハイスペックなボケ役・ギュンターさんが結構好き。

「メルトダウン」2011/04/14 00:23

 図書館で偶然見かけたこのタイトルが、とってもタイムリーに思えて借りてきた。
 94年小説現代新人推理賞受賞作品で、作者・高嶋哲夫さんは慶応の工学部出で原子力の研究所にも所属していたという経歴。うちの母は以前にこれを読んだ事があるそうで、さらに「この作者の人、この間TVに出てたよ」
 やっぱり、このタイトル……
 でも、内容の方は残念ながら期待はずれで、原発問題よりもどちらかといえばウィキリークスの公文書暴露の方を連想させます。しかし、科学者のエゴに付き合って原子爆弾の製造方法を新聞に載せようとする神経が私にはさっぱり理解できませんでした。それを表現や言論の自由と言うのはヘンですよ。
 新聞記者さんの仕事へのこだわりは独特のものがあると、「クライマーズ・ハイ」を読んだ時も思いましたが…
 舞台はアメリカ。西海岸での原爆問題と、東海岸で起きた殺人事件が話の大筋なのですが、その両者がなかなか結びつかない。人物描写もストーリー展開も事件の真相も都合がいいっていうか、甘くって。
 今、日本で起こっている現実の事件の方がよっぽど深刻でセンセーションで恐ろしい。
 テロを起こすなら核関連施設が効果的。
 というご意見は、大いに賛同しました。日本人なら誰もがそう思うはず。