「破局」2020/12/27 23:01

文芸春秋で芥川賞作品を読むと、選評がついてくるのがいい。
一人称記述での、主人公の細かい観察力が気になったのですが、あの他者描写の詳細さ、陽介君の他人の視線を気にする性質の、裏返しなんか。なるほどなあ。
彼は食欲性欲モリモリで筋トレに励み就活に勤しみ、女性に優しくマナーと社会常識を重んじる。そうやって強固な外壁を作り上げていながら、芯の部分はプルプルプリンの如くで、タチ悪い女達に振り回されグスグスに崩されてしまうのです。
最後の破局を幽霊のせいみたいにするのは蛇足な気もしたけど。
形から入るやり方もアリでしょうが、健康な肉体に健全な魂が宿る、とは限らない。昨年のラグビー熱や近年の筋トレ至上主義をあざ笑うような、著者・遠野遥氏の性根の悪さが素晴らしい。読み方次第で喜劇とも悲劇とも受け取れる作品。
主人公・陽介君のお友達が、彼とは正反対の、己の心と思考のみに忠実に動いて周囲から浮くタイプの人。しかし就職活動を通して、友人は外部刺激によって己を変化させ成長させることを学び始めた。彼の今後の方が、主人公以上に気になってくる。

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