「事実無根」2025/03/02 23:12

京都のご当地自主制作映画で、冒頭から見たことある風景が。上映回数少ないこともあってか、休日は満席、めでたく上映期間延長。作品の舞台になっているカフェにも、一度行ってみたいです。
したたかな妻に捨てられた、親父ふたりが泣く。娘の素直な頑迷さが個性的。不器用に人生やっている人びとに優しい系のホームドラマ。
登場人物たちは、少しずつ嘘をつきます。
他者を思いやる嘘もありますが。
自分のつく嘘は致し方ないことで。
他人に嘘をつかれると不快になる。
自分の心を守りたい。人間なんて弱くて勝手なもの。
でも、それだけではない、本音のことばと、人とのつながりが描かれます。

「侍タイムスリッパー」2024/10/31 22:39

タイトルそのまま、幕末のお侍さんが現代にタイムスリップします。山口馬木也映画初主演。
チョンマゲの侍が、普通の踏切渡ったり喫茶店で座ったりするだけで画的にオモシロイ。
武士は愚直なまでにまっすぐで、ショートケーキの美味に感激し、初めてのTV時代劇に興奮する様子がオモシロイ。
現代に生きる新左衛門の、武士としての剣、時代劇の作り手としての剣戟がカッコイイ。
時代劇やチャンバラには京都東映撮影所が大いに関わっています。先頃真田広之が米国で一山当てましたし、時代劇チャンバラの風が吹いているのでしょうか。
低予算の自主制作映画、と言っても、数千万自腹切ったという安田監督。東京の一館のみの上映から口コミで評判が伝わり大手シネコンで全国公開になって、本当に良かったですね。
愛すべきキャラクター、伝統の技術、創造の情熱が、夢を現実に。

「PSYCHO-PASS PROVIDENCE」2023/06/17 17:12

人は正義なんて求めていない
まったく同感だ

十年も続くこのシリーズに、あの二人がメインビジュアルで戻ってきました。
大スクリーンにふさわしいSFアニメアクション大爆発で、情報量もモリモリで、見終わったあとにパンクしそうでした。
ストーリーも、相変わらず死者多数、日本政府は国外で相当アコギな真似をしているようで(武器輸出とかのためだろうか……)、悲しみいっぱいで、おちゃらけたシーン無し。ギノさんぐらいです、とくに面白いことしているわけでもないのに、髪型変わったり最強義手パンチ炸裂したりコウちゃんに食ってかかるだけでなんか微笑ましいという、お得なキャラクターになったなあ。
目的のために手段を選ばぬ奴らが幅をきかせるこのシリーズで、朱ちゃんだけが、正しいやり方、にこだわり、それはときにまどろっこしく感じられる。しかし、遠回りに見えて、それこそが結局は、みんなが幸せになれる道なんじゃないかなあ。今回の、登場人物たちの業背負って抜け出せない感じを見ると、そう思ってしまいます。
そして、そんな我らが真面目なヒロインが、ここにきて、掟破りを決断。劇場版の2118年の時点で、まだたった25歳だっていうのに、今までの全部をかなぐり捨ててきた!自身の信念を守るために。
コウちゃんが外務省に拾われて帰国してから、TV版第3期までの期間に何があったかを描く。いや、どう考えても、3期よりこちらの物語を先に発表するべきでしたよ、あれ、何がなんだか分からないまんまで、非常に不親切でしたからね。

「聖地には蜘蛛が巣を張る」2023/05/03 15:29

Holy Spider
20数年前にイランで実際にあった連続殺人を原案としたストーリーで、アリ・アッバシ監督も主演俳優二人もイラン人、しかしかの国では撮影も上映もできない、という、イラン映画のお約束。
後味が悪くすっきりしない映画だって分かっているのに(痛快なインド映画の対極にあるなあ)、年一本くらいのペースで観てしまうイラン映画。あのモヤモヤがくせになるのか。
被害に遭う娼婦たちはドギツイ化粧に阿片中毒で不健康そうな顔色、決して印象の良い姿ではありませんが、それでも、たいていの人は、好きでこんなことやっているのではない。生活のため、愛する我が子を育てるために、稼がなきゃならない。
そういう人を無くすには選択肢を広げるための教育とか社会保障とかを整えるしかない、とは、考えられないのでした。殺害されて当然、むしろ聖地の浄化、と言われて殺人鬼を擁護する声も小さくない。そんな社会の中で、残された殺人犯の子供たちの、不穏そうな未来が暗示され、とっても気になる。
主人公の一人であるジャーナリスト、ラミヒが事件を追う過程で、イラン社会で女が活動しづらい現実を随所にちりばめる。ラミヒ役のザーラ・アミール・エブラヒミさん、私的な映像がばらまかれた(リベンジ・ポルノってやつか?)影響で母国では役者活動できなくなったそうです。被害者なのに、ひどい。理不尽さへの憤りが真に迫ります。
だいたい、娼婦が何千人もいるのなら、その数倍の男性客が存在するのです。そいつらを一掃しろよ気持ち悪い。
表向きはもっともらしいことを言っている、その裏側で、都合の悪い部分は誤魔化し、見て見ぬふりをする。……そういう傾向は、イランに限らずどこの国でもありますよね。
そんな裏表が上手に描かれるのが、イラン映画の神髄かと思う。

「THE FIRST SLAM DUNK」2023/04/16 00:19

名作の名場面集をコダワリの作画映像演出でご覧ください、という作品。
原作者・井上雄彦によるセルフリメイク。くらいに思っていましたが、作品知名度だけで年末興行から四ヶ月も上映され続けられません。漫画・アニメファンも目の肥えた映画ファンもうならせた、納得の出来栄え。映像監督初作品でこれだけの仕事、井上監督のセンス感性と、スタッフをまとめる人間力が凄すぎる。
山王戦を二時間に収めてしまうのにちょっと不安はありましたが、問題なし。漫画で数コマ・数ページ費やすシーンもアニメでは数秒ですからね。
バスケの迫力だけでなく、人間関係や心情の機微を描くのも上手いことに改めて気づかされました。リョータ君のバックグラウンドを掘り下げる描き方でしたが、他のメンバーも十分格好良かったです。
あえて脚本に難を言うならば、爽やかバスケ少年だったみっちーがどうして不良グループになってそれからどうしてバスケに戻ってきたのか、原作読んでいない人には(そんな客はほとんどいないのかも知れないけど)全く謎であろうということか。
「THE SECOND」を制作するなら、是非とも、そんな三年生たちをメインでリメイクお願いします。

「すずめの戸締まり」2022/12/04 22:09

古来、人類は天災を神や魔物の引き起こす怪異として受け止め、やがてそれらは自然科学のシステムとして認識され、解明されつつある。
ところが、21世紀の今日、人々は再びそれを神話的怪異として物語るのか。
東北の大震災はまだ記憶に新しく、アレをファンタジーの文脈で描かれると少々違和感がありました。
小さい子供が亡くした親を探して泣くシーンには胸が痛みましたが、基本的に明るい性格のヒロインで、女子高生とイケメンの冒険譚。冒険マップは魔法のアイテム・一台のスマートフォン。
機動力の高い椅子のイケメンさんは、「ホリック」で百目鬼くんをやっていた松村北斗くんが声の出演で、今年二作目の神木隆之介くんのお友達役です。
中盤から登場のこのお友達、重くなりそうだったお話をひょいと持ち上げてくれて、数ある神木隆之介キャラの中でも屈指の人気キャラとなること請け合いの好人物。難を言うなら、あまりにも、狙いすぎじゃないですか。
主人公二人をはじめとして、物わかりの良い善人ばかり登場する優しい世界。人物描写だけなら、もう少し屈託を見せる漫画版(まだ序盤だけど)の方が好みです。
新海誠監督特有の、普通の光景を超現実的美麗さで描く手法は控えめで、良くも悪くも普通のエンタメ作品という印象でした。

「ザリガニの鳴くところ」2022/12/03 23:12

キングの小説の影響でしょうが、昔の米国の田舎の子供は自転車で移動するか、線路を歩いているイメージが強いですが、この映画ではボートを乗り回します。免許不要な生活の足なのか。
原作は米国のベストセラー小説(ティーリア・オーエンス著)、ジャンルとしては一応サスペンス物、法廷シーンもちゃんとありますが、どちらかというと、ヒロインの特殊な人物像の描写がメイン。
容疑者となったのは、人里からちょっと離れた湿地のポツンと一軒家にお住まいの若い女性。小さい頃は大勢の家族と楽しく暮らしていましたが、父親の暴力(人権もへったくれもない20世紀半ばのこと)のために母親も兄弟たちも家を出て行き、ただ一人残された少女は、保護者不在、学校へも行かず、それでもたくましく自活していたのです。文字を教わって本から知識を得、動植物を描いたイラストが認められ、税金を納めて家土地を自分のものとし、兄弟の一人とも再会できて、だんだん人生が上向いてきます。しかし、彼女の元彼が、しつこくつきまとってくるDV野郎だった!
描かれるのは、ヒロインの力強さ、孤独、人間不信、自然界への親和性、愛。
エンディングに流れる曲が最高にハマっていて、有名なシンガーソングライターが原作に感銘を受けて作成したそうです。この物語の最後にこの曲をじっくり聞きながら余韻に浸れるだけでも、劇場へ足を運ぶ価値ありと思いました。映画の格を押し上げる名エンディング。

「白い牛のバラッド」2022/04/30 14:17

この土曜から、長めのお休みスタート。
今年はあんまり映画を観に行けていない。見たい作品もポツポツあるのに。この連休には、もう少し映画館に行けるかな。

ババクは確かに被害者と揉めていたし、手を上げることもあった。しかし最後にトドメを刺したのは別の人物だったのです。
そんな事を、彼が死刑に処されてから一年後に発覚したらどんな気持ちになるか。
愛する夫を失い一人で子育てしてきた妻は。
見当違いな人物を殺人者だと信じて恨んで死刑を望んだ被害者遺族は。
嘘の証言を真に受けて殺人罪と死刑を判決してしまった判事は。
けっこうしばらく前に観た、イランの映画。中国の次くらいに死刑執行が多いイラン国内では当局からの規制でほとんど上映されなかったと聞けば、逆に観たくなるもの。
真犯人(実は、この映画では話の中しか登場しない)以外の人たちは決して悪人ってわけじゃないのに、みんながちょっとずつ誤ってしまう。それは人間の感情としては十分理解できて、間違ってはいないハズなのに、それでも間違っていく。
映画を見ている時はよく分からなかったことがあって、あとで知って納得だったのが、あちらでは殺人事件の被害者遺族が殺人犯への罰を死刑か賠償金支払いか選択できるということ。「目には目を」の国らしいっていうか、遺族感情に寄り添ったシステムとも言えますが、これが冤罪となるとヒドイことに。
マリヤム・モッガム(主演も)とベタシュ・サハイナの共同監督・脚本で、シンプルな設定を深みのある心理サスペンスに。しかしイラン映画の特徴で、核心的な部分をぼやかして観客の想像にゆだねてくるのです。あの後彼女たちがどうなったのか、ラストシーンの先が、気になるう。

「先生、私の隣に座っていただけませんか?」2021/10/17 22:09

ライトノベルみたいな台詞そのまんまタイトル。と、思ったら、つたやの企画コンテストで入賞した作品なのだそうで。
前に観た「ドライブ・マイ・カー」に続く、カルチャー系不倫モノにして、車映画。しかし、こちらはコミカルな調子で。
黒木華演じる妻が不倫漫画を描き始め、柄本祐演じる夫は焦る。妻が本当に教習所の先生とデキているんじゃないか、と。
自分も余所で不倫しているくせに、妻が不倫しているのは面白くない。そして、どう考えてもバレバレなのに、シラヲ切ってしまう。どこまでも情けない、しかし、どこかにこんな夫、いてそう。
妻の、愛と憎しみの入り混じった、というか、両極端を背中合わせにしたようなキャラクターは、良く考えるとけっこう怖い。突き詰めるタイプ(要するに、創作家タイプ)ってエキセントリックに描かれますね。終盤はヒネリすぎな気もしましたが。
漫画(下書き)と実写を組み合わせた画面が面白い。

「すばらしき世界」2021/02/14 23:12

長いオツトメを終えた男が堅気になろうと老眼鏡掛け、職探しをするも、思うようにいかない。結局かつての極道仲間といる方が歓迎されるし肩身の狭い思いをしなくて気楽だ。しかし彼らのような古いタイプのヤクザに未来はないことも分かっている。「娑婆は我慢の連続ですよ」
世の中にそうした生き辛さがあることは承知していたはずだけど、それでも凄く、悲しみがこみ上げてくる。役所広司演じる三上のキャラクターの魅力だ。几帳面で実直、良くも悪くも感情的で、笑顔は人懐こく理不尽に対して本気で怒る。三上の経歴は完全に社会の鼻つまみ者、でも彼を直接知る人たちは、後継人の弁護士もケースワーカーもみんな彼に好意的で助けの手をさしのべ、ようやく就職が決まった時には喜んでお祝いしてくれるのだ。
本作は実在の人物が主人公のモデルであり、ノンフィクション小説を原案としているけど、自分でオリジナル脚本を書いて撮るのが西川美和監督だ。
新しい居場所を失くさぬために職場のいじめを見て見ぬふりし、その日の晩に三上は病に倒れて亡くなった。パンフレットの、就職決まった時の笑顔のカットが悲しすぎる。