「冥土めぐり」2012/08/25 22:34

死んだような過去の思い出をたどり、新たに生まれ変わる主人公。
図書館の文芸春秋で読んだ、鹿島田真希の芥川賞受賞作。
ですが、読み始めて数行で「これ、ニガテ」と思いました。主人公の「自分、不幸なんです」って主張が強すぎて。
実際、ダメな母とダメな弟のせいで、ひどい目にあっていて、お気の毒ではあるのですが。
そこまで嫌なら、唯々諾々と振り回されてないで逃げるなり抵抗するなりイイのにって思ってしまいます。
親兄弟のコトなので、そうそう割り切れるものではないし、こういう気持ち悪い依存関係にある親子がこの世にあることも重々承知しているのですが、それにしたって「どうしてそうなっちゃうのか」って部分をもうちょっと追求しないと説得力に欠ける気がします。
説得力がない、といえば、常軌を逸するほどイイ人な主人公の夫の存在。体は不自由だけど魂は聖人のように清らか。著者はクリスチャンらしいので、意図的にそういう人物として描いているのでしょう。この夫のおかげでヒロインは不幸の沼から抜け出す希望を得るのですが、ここまで天然にイイ人の存在がなければ人生をやり直すことができないのかって思うと、逆に希望が感じられないなあ。
平成版「斜陽」って説明を読んだことがありましたが、全然違いました。没落した金持ちってところは同じでも、「斜陽」のお母様と比べて、あまりに精神が貧しいです。
お金の有る無しが、人間のすべて。
あまりに古い価値観なのに、未だにそこか離れられず、現実を見ない母と弟。
これを現代日本の縮図であるかのように見るのは、やっぱり、無理があるよなあ。