「流れ行くもの」2010/06/15 00:08

「闘犬か、お前は。」
 なにをいわれたのかわからなくて顔をしかめると、ジグロは言葉をついだ。
「犬じゃあるまいし、かんたんに毛を逆立てるんじゃない。」

 このところ児童小説ばっかり読んでいますが、短くて文章が平易ですいすい読めるんですよね。そろそろ、大人向け本も読みたいところですが。
 休職中は上橋菜穂子にどっぷり。今度は「守人シリーズ」の番外編短編集。
 本編の過去話で、11歳のタンダ少年の可愛いこと。実に心根の優しい子で稲を荒らす虫にさえその死を悼む。この頃のイノセントな精神のまま成長してくれたんだなあ、大人版。大人になってからは負傷したバルサを助けるシーンが多かったですが、少年時代はバルサお姉ちゃんに懐いて面倒見てもらっている感じ。
 そして、本編では用心棒としての腕も精神も完成された強い女性であったバルサも、13歳時代は色々未熟で、それは当然なことなんですが大人版があまりに最強だったので違和感ありありです。番外編では戦っているばかりではなく、稲刈り手伝ったり酒場で給仕をしたりギャンブルにハマッて酷い目にあったり。養父のジグロを「とうさん」と呼び彼に認めてもらって嬉しがったり、戦闘に臆したり、実父の敵に対する復讐を抱いていたり、少年らしい(少女なのに)負けん気で強がったり。
 そんな、少年少女の目線で書かれた短編集なのですが、でもこれは、はっきり言って大人目線だった本編以上に、児童小説には向かない話だと思いました。
 ジグロの武人として、父親としての格好良さは本編でもとっくり語られていましたが。
 故郷を飛び出して家族からも嫌われて、のたれ死んだ男の心情。
 50年にわたって友人と楽しんでいた長いゲームを、最後に金の絡んだ「仕事」として終らせることになったプロの賭事士。
 流れ者の殺伐とした人生の悲哀。
 シブ過ぎるんですよ、お話の核となっている部分が。大人、それも中年以上、高年とか老年とかまで年いった人生が背負っているもので、三十路越えた私が読んでも深いっていうか、難しいと思いました。

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