「蒼路の旅人」2010/06/16 00:03

 女用心棒バルサを中心にした「守人」シリーズの中で、皇太子チャグムを主人公にした「旅人」バージョン第二作。
 かつて「精霊の守人」でバルサに守られていた12歳の子供も、15歳に。なんというか、その成長っぷりが感慨深いです。バルサが結構トシ重ねてほとんど人格が完成された存在なのに対し、チャグム皇太子は少年と大人の中間ぐらいにあって、その潔癖さや未熟な感じ、そして数々の経験を経てどんどんステキになっていくところが嬉しいです。母親目線で読んでます。
 本当に、ファンタジー世界のプリンスとしては理想的な設定で、賢くて優しくて武術の心得もあって(バルサに鍛えられた)民衆に人気があって、そのせいで父王から疎まれて暗殺されそうになって、異界と交信できる特技があるもんだから「皇太子の責任とか政治的派閥の駆引きとかから逃れてあっちにいってしまいたい」なんて思っちゃう、若さ。
 これまでの物語は、現実世界に対する異界からの影響力っていう設定がストーリーに大きく関わっていたのですが、今回はほとんど人の世の陰謀によって話が進みます。前々からあった、北の大陸からの脅威が、もう喉元にまで迫ってきていて、以前チャグムがなじみになったサンガル王国は既に敵の支配下に置かれてしまっている。
 で、短気を起こして敵の罠に飛び込む形になったチャグム皇子が、南の強国に囚われ、国の危機に向かい合い、何とかして国を守ろうと一人、旅立つまでの、お話。
 政治的駆引きが大変面白いのですが、普通に考えれば、15、6の少年がたった一人で異国へ赴き、為政者と外交交渉しようなんて、途方も無く困難な話です。
 まあ、この皇子様、何だかんだで各国の有力者につなぎ(直接的だったり間接的だったり)があるし、なによりも、作中で見識のある人物全員から「見所のある皇子だ」と認められている総モテ状態なので。
 次巻からはきっと、目覚しい活躍を見せてくれると思います。
 楽しみです。

「神の守人」2010/06/16 00:05

 深い恨みや憎しみを持った者が、強大な力を手に入れたとき……。
 女用心棒・バルサのシリーズで、初の前後編。恐ろしい神の力を宿してしまった少女・アスラが、国の変革を企む女呪術師や差別されてきた一族によって祭り上げられようとされていた、その計画の中に飛び込んでいってしまったバルサ。
 バルサ自身、子供の頃から命を狙われ続け、恨みを晴らそうとして力をつけてきた過去がありますから、アスラを無償で助けようとし、その力で人を殺めることを阻止しようとする姿に悲しい説得力があります。
 第一作の「精霊の守人」ほどのインパクトはありませんが、やはりバルサは格好いいです。アラサー女性のたくましさ。「老獪な獣」にたとえられていますが、前半の、追っ手を逃れて、戦うあたりは本当に、強くてしたたかで、優しいのです。
 しかし、後半では、敵である「猟犬」のシハナが印象的でした。賢く、強く、そしてカリスマ性を持つ女性で、彼女の考えはある面では筋が通っているのですが、冷たい。目的のためなら非情に徹するところが、同じ強い女性であっても(このシリーズって本当に、女性が強いです)、バルサとは違うのです。
 王国の建国神話とか北部と南部の経済格差とか他国からの侵略の気配とか、けっこう複雑な設定が絡んでくるのですが、そこは児童文学ですので、実に分かりやすく書いてくれています。
設定オタクも満足です。

「天と地の守人」2010/06/16 00:06

 守人シリーズ最終章、三冊。
 第一部では、女用心棒バルサが、たった一人で非公式外交交渉に向かった皇太子チャグムの足取りを追っていく。いつも追われる立場なのに珍しく追いかけていくバルサ。彼女は相変わらず傷だらけで、強い。
 第二部では、チャグムとバルサが、バルサの故国へと旅をして、同盟を結ぶために奔走し、それを阻止せんとする敵国の密偵と戦う。
 第三部では、チャグムの故郷で、思いっきり戦争。チャグムとバルサの行動は完全に分かれて、バルサは個人・民間人として戦争という現実に向かい、チャグムは皇太子・為政者として軍を率い、敵軍および自分とこの政府(父親)と対決することになる。
 ファンタジー小説でこんなにもガッツリと戦争してるのって、アルスラーン以来かも。
 国を守りたい、人々に死んでもらいたくないという思いで必死に叫ぶチャグムの姿に打たれます。彼以外にも、どうにかして自分の国を守ろうとして、人々の水面下での駆引きが繰り広げられて。…日本の政治家のみなさん、これくらい真剣に政治やってくれないかなあ。
 重荷を背負ったチャグムが、バルサといるときだけ16、7の少年っぽくなる(たとえば一人称が「わたし」から「おれ」に)のですが、違う道を行く二人ですから、今後はもう二度と会うことはないだろうと作中でもほのめかされています。
 登場人物が非常に多く、主役の二人以外にも魅力的な人物は見られるのですが(敵国の王子とか密偵さんとか、私けっこう好きだったんですよねえ、敵だけど)、そこらへんはけっこうサラッと書かれていたようで、惜しい。それぞれのことをもっと突っ込んで描写してもらいたかったのですが、でもそれじゃ、ますます長くなりますからねえ。
 続編を書いてもらいたいような、綺麗にここで終らせて良かったような。