「ポアロ登場」 ― 2026/02/05 15:24
Poirot Investigates
ポワロ、じゃなくてポ「ア」ロ、と表記。フランス語の発音は良くわからない。しかし、彼の一人称は「ぼく」より「わたし」のイメージで。年下の相棒に対しては「ぼく」?。
早川書房の2004年新訳・クリスティー文庫。灰色の脳細胞を働かせる自信満々ヒゲ探偵の話は昔だいぶ読みましたが、これは今回初めて。文庫本一冊に14編も詰め込んで、だいぶ短い印象、クリスティー特有の人物描写を発揮するには物足りないかなあ。事件の核心に変装を用いる話が多いのは、写真や情報伝達技術の乏しい時代(1923年発表)を感じます。
それでも、ホームズの恐喝王の話っぽいと思った「ヴェールをかけた女」なんか、さらに一ひねりを加えられいて凝っています。他に、初出では第一作目の短編となる、「グランドメトロポリタンの宝石盗難事件」や、ベルギーにいた頃の「チョコレートの箱」が印象的でした。
この探偵は、スタイルズ荘事件後にヘイスティングズとは同居していたらしく、ほとんど全部ヘイスティングズの記述によるお話で、元警察官ベルギー人の尊大さに反発したり、おちょくられたりと、愛すべき道化ぶり。
最近読んでいる<ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズはホームズ物を意識しているのかと思っていたのに、ポアロ物の方が近そうです。
ポワロ、じゃなくてポ「ア」ロ、と表記。フランス語の発音は良くわからない。しかし、彼の一人称は「ぼく」より「わたし」のイメージで。年下の相棒に対しては「ぼく」?。
早川書房の2004年新訳・クリスティー文庫。灰色の脳細胞を働かせる自信満々ヒゲ探偵の話は昔だいぶ読みましたが、これは今回初めて。文庫本一冊に14編も詰め込んで、だいぶ短い印象、クリスティー特有の人物描写を発揮するには物足りないかなあ。事件の核心に変装を用いる話が多いのは、写真や情報伝達技術の乏しい時代(1923年発表)を感じます。
それでも、ホームズの恐喝王の話っぽいと思った「ヴェールをかけた女」なんか、さらに一ひねりを加えられいて凝っています。他に、初出では第一作目の短編となる、「グランドメトロポリタンの宝石盗難事件」や、ベルギーにいた頃の「チョコレートの箱」が印象的でした。
この探偵は、スタイルズ荘事件後にヘイスティングズとは同居していたらしく、ほとんど全部ヘイスティングズの記述によるお話で、元警察官ベルギー人の尊大さに反発したり、おちょくられたりと、愛すべき道化ぶり。
最近読んでいる<ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズはホームズ物を意識しているのかと思っていたのに、ポアロ物の方が近そうです。
「その裁きは死」 ― 2026/01/24 16:36
THE SENTENCE IS DEATH
「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの第二弾、雨の多い、英国の秋。前作で、2011年ごろかな?と思っていましたが、今作は2013年と明記されていました(作品の刊行は2018年、日本語訳は2020年)。
今回もまた、語り手のアンソニー・ホロヴィッツは盛大に道化を演じ、濡れ衣を着せられたり盗撮被害に遭ったり数々の災難にきりきり舞いです。
離婚専門弁護士という、いかにも他者から恨みを買いそうな人物が、ワインボトルで殴り殺される事件。登場人物に、リチャードさんと、リチャードスンさんがいて、ちょっと混乱して何度か登場人物紹介を見直しました。
事件関係者は全員怪しげな行動を取り、それらには最終的に解答が示され、事件は解決します。しかし、鮮やかに謎解きをするホーソーン自身については、新たな関係者が現れ情報を提示される度、謎は深まります。
仲良く喧嘩する、この二人は、どうなって行くのでしょうか。
「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの第二弾、雨の多い、英国の秋。前作で、2011年ごろかな?と思っていましたが、今作は2013年と明記されていました(作品の刊行は2018年、日本語訳は2020年)。
今回もまた、語り手のアンソニー・ホロヴィッツは盛大に道化を演じ、濡れ衣を着せられたり盗撮被害に遭ったり数々の災難にきりきり舞いです。
離婚専門弁護士という、いかにも他者から恨みを買いそうな人物が、ワインボトルで殴り殺される事件。登場人物に、リチャードさんと、リチャードスンさんがいて、ちょっと混乱して何度か登場人物紹介を見直しました。
事件関係者は全員怪しげな行動を取り、それらには最終的に解答が示され、事件は解決します。しかし、鮮やかに謎解きをするホーソーン自身については、新たな関係者が現れ情報を提示される度、謎は深まります。
仲良く喧嘩する、この二人は、どうなって行くのでしょうか。
「メインテーマは殺人」 ― 2026/01/04 22:56
THE WORD IS MURDER
著者・アンソニー・ホロヴィッツ自身が事件捜査に関わり、物語の語り手となる形式。
コンビを組む探偵役のホーソーンは、頭が切れて自信家で口が悪く、他者に対して友好的でも良識的とも言い難い。描き方によってはひどく好感度の低い主人公となりそうなのを、語り手が翻弄されたり困惑したり苦情を述べたりする様子が結構コミカルなので、ちゃんとバランスがとれてしまう。
相棒は、相性ぴったりなのが良いとは限らない。意見も好みも食い違って反発しあう位の方が面白いこともあります。
老婦人が殺害されたのは、彼女が自らの葬儀の手配をしたその日の晩であった。
事件自体は、ミスリードの種をちりばめて誰も彼もが怪しく見えてしまうパターン。
舞台は英国、時代はたぶん2011年頃、語り手以外にも実在の人物がちょっとだけ登場。
癖の強い元刑事の人物像はまだ明らかにされていないことも多く、<ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズ、10冊ほど続く予定らしいし、続きも読んでいきたい。
著者・アンソニー・ホロヴィッツ自身が事件捜査に関わり、物語の語り手となる形式。
コンビを組む探偵役のホーソーンは、頭が切れて自信家で口が悪く、他者に対して友好的でも良識的とも言い難い。描き方によってはひどく好感度の低い主人公となりそうなのを、語り手が翻弄されたり困惑したり苦情を述べたりする様子が結構コミカルなので、ちゃんとバランスがとれてしまう。
相棒は、相性ぴったりなのが良いとは限らない。意見も好みも食い違って反発しあう位の方が面白いこともあります。
老婦人が殺害されたのは、彼女が自らの葬儀の手配をしたその日の晩であった。
事件自体は、ミスリードの種をちりばめて誰も彼もが怪しく見えてしまうパターン。
舞台は英国、時代はたぶん2011年頃、語り手以外にも実在の人物がちょっとだけ登場。
癖の強い元刑事の人物像はまだ明らかにされていないことも多く、<ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズ、10冊ほど続く予定らしいし、続きも読んでいきたい。
「小泉八雲集」 ― 2025/11/30 14:03
上田和夫訳、新潮文庫。秋からの朝ドラは視聴していませんが、本書の解説文にあるラフカディオ・ハーンの生い立ちを読むと、観とけば良かったかな、と思いました。混血、異邦人、親族との縁の薄さは、孤独と同時に広い包括性をもたらす。
ある意味自由に、自分の性に合う物を求めていった。
元々は日本人に向けて書かれたのではなく、外国人に日本を紹介する意図で英語で書かれたのですね。小泉八雲の数ある著作から、数編ずつ抜き出し、前半は日本昔話・説話で、懐かしいお話も多数。八雲から観た牡丹灯籠(「悪因年」)が興味深い。
後半は、八雲による日本人観を述べるエッセイ。彼から観た日本人は、己を律して他者を気遣い、それでいて命がけで己の誇りと真を貫く強い民族。特に、厳しく躾けられた武士階級に敬意を抱くが、それは明治時代には失われつつあった。
八雲にとって、日本とその精神は、世界に刻み込まれる永遠に続く、生き物の魂を強く意識できる文化だったのですが。今の日本は、どうなのだろう。
ある意味自由に、自分の性に合う物を求めていった。
元々は日本人に向けて書かれたのではなく、外国人に日本を紹介する意図で英語で書かれたのですね。小泉八雲の数ある著作から、数編ずつ抜き出し、前半は日本昔話・説話で、懐かしいお話も多数。八雲から観た牡丹灯籠(「悪因年」)が興味深い。
後半は、八雲による日本人観を述べるエッセイ。彼から観た日本人は、己を律して他者を気遣い、それでいて命がけで己の誇りと真を貫く強い民族。特に、厳しく躾けられた武士階級に敬意を抱くが、それは明治時代には失われつつあった。
八雲にとって、日本とその精神は、世界に刻み込まれる永遠に続く、生き物の魂を強く意識できる文化だったのですが。今の日本は、どうなのだろう。
「ベーコン」 ― 2025/11/08 23:15
豊国神社のライトアップショーを観に行く。ああいうのは、正面真ん前で鑑賞しないと面白さは伝わりにくいのではなかろうか。最後の踊りは舞台が低くて後ろからは全く見えず。あと、上に掲げるスマホも邪魔で。もう少し待てば最前列近くまで寄れたと思うけど、帰っちゃった。
人の世は、形あるものと形の無いもの、二種類でできている。しかしながら、実際は、形あるものに形無いものが投影されたり、形の無いものを受け止めるために何らかの形を要したりする。
私は、両者をわりとキッパリ切り離して考えがちなのが、良くないのかなあ。
2009年6月刊、集英社文庫。井上荒野の短編集は、十編すべて食べ物が題名になっている。食べ物に、男と女(ときおり、その子供)の微妙な不安や連帯が被せられる。
表題作の「ベーコン」では、主人公の女性が四歳の時に家を出た母親と、その恋人である男の育てた豚に、主人公が彼らに対する意識、特別な思いが繋がれている。
人の手によって差し出された食べ物が、人の中に呑み込まれる。元々の形は失われても、別の形の無いものが生み出される。
形の無いものの描き出す手法が、絶妙。
人の世は、形あるものと形の無いもの、二種類でできている。しかしながら、実際は、形あるものに形無いものが投影されたり、形の無いものを受け止めるために何らかの形を要したりする。
私は、両者をわりとキッパリ切り離して考えがちなのが、良くないのかなあ。
2009年6月刊、集英社文庫。井上荒野の短編集は、十編すべて食べ物が題名になっている。食べ物に、男と女(ときおり、その子供)の微妙な不安や連帯が被せられる。
表題作の「ベーコン」では、主人公の女性が四歳の時に家を出た母親と、その恋人である男の育てた豚に、主人公が彼らに対する意識、特別な思いが繋がれている。
人の手によって差し出された食べ物が、人の中に呑み込まれる。元々の形は失われても、別の形の無いものが生み出される。
形の無いものの描き出す手法が、絶妙。
「元彼の遺言状」 ― 2025/11/01 11:51
新川帆立著、「第19回このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
死を目前にした元彼が奇抜な遺言状を残した、その理由は?
が気になって読み進めたのですが、会社経営関係に疎い人間にはなかなかピンとこない動機でした。各所に細かく伏線をちりばめているのですが、そんな理由かよ、と。
主人公の弁護士は金勘定にこだわる人物、ということが強調されていますが、どちらかというと、全体的に他者を見下しがちなスタンスが気になりました。気が強くて有能で、愛嬌に欠くリナ=インバー-スって感じ。
こういう強い系主人公には、ワトソン的相棒がセットでないとなかなかお話としての躍動感が出ないなあ。
死を目前にした元彼が奇抜な遺言状を残した、その理由は?
が気になって読み進めたのですが、会社経営関係に疎い人間にはなかなかピンとこない動機でした。各所に細かく伏線をちりばめているのですが、そんな理由かよ、と。
主人公の弁護士は金勘定にこだわる人物、ということが強調されていますが、どちらかというと、全体的に他者を見下しがちなスタンスが気になりました。気が強くて有能で、愛嬌に欠くリナ=インバー-スって感じ。
こういう強い系主人公には、ワトソン的相棒がセットでないとなかなかお話としての躍動感が出ないなあ。
「くれなゐの紐」 ― 2025/10/29 23:35
血よりも赤い絆の紐はか細くて、しかしそれを頼みにするしかない少女達。2019年刊行の光文社文庫、初出は2014年。須賀しのぶの好む、強い女たち。
大正十二年の浅草を舞台に、姉を探す少年・仙太郎が女装して少女ギャング達と交わっていく。少女小説と言えるほど奇麗事ではなく、悪徳小説と見るには彼女たちの立場は脆い。
ちゃんと表の仕事を持っている娘達もギャング団に所属するのは、そうやって寄り集まって己を強化させないと、他の誰かの食い物にされてしまうからなのでしょうか。
彼女たちの憧れも絆も掟も、不安や憤りの上にある。
主人公こそ15歳の少年ですが、少女達が自由に生きていくために、気丈で強かでいなければならない世界が描かれます。
大正十二年の浅草を舞台に、姉を探す少年・仙太郎が女装して少女ギャング達と交わっていく。少女小説と言えるほど奇麗事ではなく、悪徳小説と見るには彼女たちの立場は脆い。
ちゃんと表の仕事を持っている娘達もギャング団に所属するのは、そうやって寄り集まって己を強化させないと、他の誰かの食い物にされてしまうからなのでしょうか。
彼女たちの憧れも絆も掟も、不安や憤りの上にある。
主人公こそ15歳の少年ですが、少女達が自由に生きていくために、気丈で強かでいなければならない世界が描かれます。
「神の棘」 ― 2025/10/04 16:14
読み終えた後、すぐにⅠから読み直す。ⅠとⅡとで、登場人物の印象ががらりと変わる。
キリスト教、ナチスの支配、ユダヤ人の迫害。須賀しのぶの真骨頂、2010年刊行作品の、新潮文庫版。
マティアスは純粋直情型猪突猛進なフランシスコ会修道士。
アルベルトは知的愛妻家強靱精神のナチス親衛隊。
学友であった二人が、正反対の立場で、第一次大戦後の不況時代から第二次大戦後の、ドイツ、ロシア、イタリアでそれぞれの戦いに身を投じる。
苦しみと憤りの連続。極限状態で誰かを、何かを守りたい。しかし大きな人間社会のうねりの前に、もどかしい。
なんとか知恵を力を振り絞り最善を模索する中で見える、人間の美しさと悲しさ、愛おしさ。
キリスト教、ナチスの支配、ユダヤ人の迫害。須賀しのぶの真骨頂、2010年刊行作品の、新潮文庫版。
マティアスは純粋直情型猪突猛進なフランシスコ会修道士。
アルベルトは知的愛妻家強靱精神のナチス親衛隊。
学友であった二人が、正反対の立場で、第一次大戦後の不況時代から第二次大戦後の、ドイツ、ロシア、イタリアでそれぞれの戦いに身を投じる。
苦しみと憤りの連続。極限状態で誰かを、何かを守りたい。しかし大きな人間社会のうねりの前に、もどかしい。
なんとか知恵を力を振り絞り最善を模索する中で見える、人間の美しさと悲しさ、愛おしさ。
「季節の記憶」 ― 2025/06/19 23:45
保坂和志著、中公文庫。97年に谷崎潤一郎賞、平林たい子賞受賞の、お散歩小説。
ストーリーらしい物語は無く、主人公が語るのは、幼い息子との会話、近所の兄妹達との会話、他の知人達との会話、そして彼が暮らし息子達と歩く鎌倉の、四季の風景、地形。
会話の内容も、具体的な出来事よりも、それを知覚する人間の原理を追求するような、哲学的なもの。時間とはどういうものか、言葉とは、季節感とは。
淡々と。止まること無く続く日々。
ストーリーらしい物語は無く、主人公が語るのは、幼い息子との会話、近所の兄妹達との会話、他の知人達との会話、そして彼が暮らし息子達と歩く鎌倉の、四季の風景、地形。
会話の内容も、具体的な出来事よりも、それを知覚する人間の原理を追求するような、哲学的なもの。時間とはどういうものか、言葉とは、季節感とは。
淡々と。止まること無く続く日々。
「蒲生邸事件」 ― 2025/05/29 00:11
宮部みゆきの、日本SF大賞受賞作。有名作品ですが、その昔、初めの方だけちょっと読んでそれきりになってしまった(主人公がうっすら卑屈で、展開がゆっくりだったのが合わなかったのか)のを、時空を超えて再挑戦。
複雑な様相の二・二六事件、そんな時代にタイムスリップして、美人女中に好意を持ち、さらに元軍人のお屋敷内でも事件が発生する。何故に。それを問う謎解き。
どこか自己否定的なのは主人公だけでなく、蒲生邸の兄妹も裕福な家庭に生まれていながら自分の価値に自信が持てない。
そして、時間旅行の能力者もまた、時代の流れを知りながら変えられぬ無力感を抱いている。
アニメ映画の「時を駆ける少女」は自分のささやかで個人的な都合のためにどんどん時間遡りを行っていましたが、宮部みゆきは、そういう超常的力をあまり肯定的には捕らえない。
地に足着けて、目の前にある「今」に立ち向かう姿にこそ人間の価値を認めています。
複雑な様相の二・二六事件、そんな時代にタイムスリップして、美人女中に好意を持ち、さらに元軍人のお屋敷内でも事件が発生する。何故に。それを問う謎解き。
どこか自己否定的なのは主人公だけでなく、蒲生邸の兄妹も裕福な家庭に生まれていながら自分の価値に自信が持てない。
そして、時間旅行の能力者もまた、時代の流れを知りながら変えられぬ無力感を抱いている。
アニメ映画の「時を駆ける少女」は自分のささやかで個人的な都合のためにどんどん時間遡りを行っていましたが、宮部みゆきは、そういう超常的力をあまり肯定的には捕らえない。
地に足着けて、目の前にある「今」に立ち向かう姿にこそ人間の価値を認めています。
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