「季節の記憶」 ― 2025/06/19 23:45
保坂和志著、中公文庫。97年に谷崎潤一郎賞、平林たい子賞受賞の、お散歩小説。
ストーリーらしい物語は無く、主人公が語るのは、幼い息子との会話、近所の兄妹達との会話、他の知人達との会話、そして彼が暮らし息子達と歩く鎌倉の、四季の風景、地形。
会話の内容も、具体的な出来事よりも、それを知覚する人間の原理を追求するような、哲学的なもの。時間とはどういうものか、言葉とは、季節感とは。
淡々と。止まること無く続く日々。
ストーリーらしい物語は無く、主人公が語るのは、幼い息子との会話、近所の兄妹達との会話、他の知人達との会話、そして彼が暮らし息子達と歩く鎌倉の、四季の風景、地形。
会話の内容も、具体的な出来事よりも、それを知覚する人間の原理を追求するような、哲学的なもの。時間とはどういうものか、言葉とは、季節感とは。
淡々と。止まること無く続く日々。
「音楽の肖像」 ― 2025/02/23 15:45
クラシック音楽家たちを語る、堀内誠一の柔らかいイラストとエッセイ。それに谷川俊太郎の詩を添える。
堀内氏は87年代に亡くなっていますが、これは初版が2020年。この年、感染症のおかげで音楽業界は墓場のように不遇で、出版業界はちょっと需要が増していたのでした。
ヤマハの広報誌に掲載されていたエッセイは、音楽そのものよりも、土地と人についての記述が目立つ。
音楽、それを生み出す音楽家、その両方を育て上げるのが風土なのでしょう。
言葉という枠に制限されない音楽の世界を、詩人は言葉によって称える。
堀内氏は87年代に亡くなっていますが、これは初版が2020年。この年、感染症のおかげで音楽業界は墓場のように不遇で、出版業界はちょっと需要が増していたのでした。
ヤマハの広報誌に掲載されていたエッセイは、音楽そのものよりも、土地と人についての記述が目立つ。
音楽、それを生み出す音楽家、その両方を育て上げるのが風土なのでしょう。
言葉という枠に制限されない音楽の世界を、詩人は言葉によって称える。
「平家物語 犬王の巻」 ― 2023/01/05 23:19
古川日出男著、河出文庫で、解説は池澤夏樹。昨年観たアニメーション映画の原作小説。
小説ですが、明らかに映像向けっていうか、読む、よりも語る・聞くを意識した文体。
リズム重視、繰り返しを多用し、情景描写はほぼ無い。
空白の多い語り文芸なので、そこを自由に埋めていった映画版の方が濃密で面白い。そのうえで、映画では略された犬王舞台についての説明や、権力者・足利義満の人物像、歴史的背景なども分かり易く興味深かったです。
ラストで犬王が友魚の霊を迎えに行くところは、原作の方が私好みでした。
呪いを受け、一人は視力を失い、一人は醜く崩れた肉体で生まれてきた。琵琶法師として、能役者として生きた二人。霊験の闇、現世の闇に囚われた彼らが、光を目指します。
小説ですが、明らかに映像向けっていうか、読む、よりも語る・聞くを意識した文体。
リズム重視、繰り返しを多用し、情景描写はほぼ無い。
空白の多い語り文芸なので、そこを自由に埋めていった映画版の方が濃密で面白い。そのうえで、映画では略された犬王舞台についての説明や、権力者・足利義満の人物像、歴史的背景なども分かり易く興味深かったです。
ラストで犬王が友魚の霊を迎えに行くところは、原作の方が私好みでした。
呪いを受け、一人は視力を失い、一人は醜く崩れた肉体で生まれてきた。琵琶法師として、能役者として生きた二人。霊験の闇、現世の闇に囚われた彼らが、光を目指します。
「隠し剣 孤影抄」 ― 2022/04/23 23:19
藤沢周平の短編集、いくつか読み進めるうちに「アレ」と思ったのが、なんか覚えのある人名が出てくること。どうやら、収録された8編全部あるいは幾つかは、同一の城下で近い年代に繰り広げられた殺人劇のようです。……このご城下、剣術流派と伝えられし秘剣がてんこ盛りか。そして、ここの殿様はさっさと成敗されなきゃダメなタイプやん(病死ってあったけど)。
惨殺されたり自害したり、命を散らすのは下っ端の侍たちと、女たち。剣客小説だけど、意外と恋愛もの。登場する女たちは総じて健気っていうか愛情深く一途っていうか厳しく筋を通すっていうか。非業の死は、刀剣を持ちすぐに死ぬし、殺すし、な侍たちだけではなく、武家の女たちの宿命でもあるようです。
半分くらいが後味の悪いバッドエンド作品、とくにラストの「宿命剣鬼走り」の救いの無さは呪いじみてほとんどホラーでした。
惨殺されたり自害したり、命を散らすのは下っ端の侍たちと、女たち。剣客小説だけど、意外と恋愛もの。登場する女たちは総じて健気っていうか愛情深く一途っていうか厳しく筋を通すっていうか。非業の死は、刀剣を持ちすぐに死ぬし、殺すし、な侍たちだけではなく、武家の女たちの宿命でもあるようです。
半分くらいが後味の悪いバッドエンド作品、とくにラストの「宿命剣鬼走り」の救いの無さは呪いじみてほとんどホラーでした。
「たそがれ清兵衛」 ― 2022/01/05 10:36
剣客もの、に分類されるのでしょうが、収録の八つの短編は全て「ごますり陣内」「日和見与次郎」など、迫力に欠ける単語が並びます。
さまざまな事情から他者に侮られがちな主人公たちは、みな素朴に善人で、戦闘能力の高さを買われて藩の権力闘争に一役買うことになる。普段冴えない人物があるとき目覚ましい活躍を見せるって、わりと日本人に好まれやすい展開だと思います。
映画化もされた表題作は、権力より病身の妻を気に掛ける清兵衛の人柄が温かくて、しみじみします。しかし、同じような筋書きを続けて読んでいると、やっぱり飽きてきますね。
その中で印象的だったのは、「ど忘れ万六」。主人公は他作品よりも年齢設定高めで、物忘れのために隠居した親父さんが息子の嫁を脅すゴロツキを懲らしめる。腰を痛めながら。彼だけは暗殺者にならず、またドロドロの権力闘争も描かれず、ほのぼのしています。
藤沢修平を読むのは初めて。人間の暗さと素朴さ、両者を描くのに、白刃の一閃が繋ぎ目となる。
さまざまな事情から他者に侮られがちな主人公たちは、みな素朴に善人で、戦闘能力の高さを買われて藩の権力闘争に一役買うことになる。普段冴えない人物があるとき目覚ましい活躍を見せるって、わりと日本人に好まれやすい展開だと思います。
映画化もされた表題作は、権力より病身の妻を気に掛ける清兵衛の人柄が温かくて、しみじみします。しかし、同じような筋書きを続けて読んでいると、やっぱり飽きてきますね。
その中で印象的だったのは、「ど忘れ万六」。主人公は他作品よりも年齢設定高めで、物忘れのために隠居した親父さんが息子の嫁を脅すゴロツキを懲らしめる。腰を痛めながら。彼だけは暗殺者にならず、またドロドロの権力闘争も描かれず、ほのぼのしています。
藤沢修平を読むのは初めて。人間の暗さと素朴さ、両者を描くのに、白刃の一閃が繋ぎ目となる。
「背高泡立草」 ― 2021/01/30 12:25
私が個人的にぼんやりと抱いている世界観がある。世界は情報でできている。それは大別して自分が認識している情報と、認識していない情報があり、後者の分量が圧倒的に多い。そして両者は不可分である。
古川真人氏の受賞作は、時間と個人の枠を超えてこの両者を同時並列させている感じか。
誰も使っていない納屋の草刈りのために、血縁者たちが島に戻ってくる。草刈りミッションの合間に、一族の過去にまつわる、というか掠めるって感じのエピソードが挟み込まれる構成。
関係性が薄いようでいて、でもなんか濃く感じてしまうのは、つながりがあるのは確かだから。九州の方言も効いている(でも読みにくい)。
幾らでも茂ってくるのに、刈り取らねばならない雑草のように。理由があるようなないような、問答無用の関係性。
古川真人氏の受賞作は、時間と個人の枠を超えてこの両者を同時並列させている感じか。
誰も使っていない納屋の草刈りのために、血縁者たちが島に戻ってくる。草刈りミッションの合間に、一族の過去にまつわる、というか掠めるって感じのエピソードが挟み込まれる構成。
関係性が薄いようでいて、でもなんか濃く感じてしまうのは、つながりがあるのは確かだから。九州の方言も効いている(でも読みにくい)。
幾らでも茂ってくるのに、刈り取らねばならない雑草のように。理由があるようなないような、問答無用の関係性。
「秘密」 ― 2017/01/22 15:59
作っている製品は全然違うのですが、今の私の勤め先も自動車部品作っているので、主人公の勤め先の空気がなんとなく分かります。他の小説にはあんまり出てこない単語とか。製造業、工業男子たちの世界。理系作家・東野圭吾だ。
しかしながら職場シーンはちょびっとで、ほとんどが、秘密の夫婦の物語。「君の名は。」みたいな人格入れ替わりモノだと思っていたのですが、事故死したお母ちゃんの魂が小学生の娘さんに入ってしまう、一方的な憑依状態。
はたから見たら父娘、実質は夫婦!?な奇妙な生活が始まるのですが。
つまらないわけじゃないけど、なんか読んでいてモヤモヤしてしまいます。人格憑依という状況も特殊ですが、専業主婦から若い娘に変身!な直子さんの、デキスギっぷりもまた特殊に思えて。
勘が良くて強い意志を持ち、頑張り屋さん。人生が激変した状況で、勉強を頑張り受験戦争に打ち勝ち、学生として優秀、主婦として家事もこなす。言うことも至極まっとうで、最善の結果を手に入れる。……つけいる隙がない感じが、読んでて引いちゃうんです。
こういうしっかりした人間が、稀にいるのは分かるんですが。
全部夫からの目線で語られているので、彼の目に映らない彼女自身の苦悩や苦労がしっかり描かれれば、また印象が違っているかもしれません。
しかしながら職場シーンはちょびっとで、ほとんどが、秘密の夫婦の物語。「君の名は。」みたいな人格入れ替わりモノだと思っていたのですが、事故死したお母ちゃんの魂が小学生の娘さんに入ってしまう、一方的な憑依状態。
はたから見たら父娘、実質は夫婦!?な奇妙な生活が始まるのですが。
つまらないわけじゃないけど、なんか読んでいてモヤモヤしてしまいます。人格憑依という状況も特殊ですが、専業主婦から若い娘に変身!な直子さんの、デキスギっぷりもまた特殊に思えて。
勘が良くて強い意志を持ち、頑張り屋さん。人生が激変した状況で、勉強を頑張り受験戦争に打ち勝ち、学生として優秀、主婦として家事もこなす。言うことも至極まっとうで、最善の結果を手に入れる。……つけいる隙がない感じが、読んでて引いちゃうんです。
こういうしっかりした人間が、稀にいるのは分かるんですが。
全部夫からの目線で語られているので、彼の目に映らない彼女自身の苦悩や苦労がしっかり描かれれば、また印象が違っているかもしれません。
「復讐はお好き?」 ― 2016/10/09 22:54
先月まで放送されていた「91Days」、オリジナル脚本による、なかなか渋くてハードな物語で毎週ハラハラと楽しんでいました。復讐のために友を殺せるか!?
で、こちらの小説はもっとライトな復讐劇。一ページ目からヒロインが真っ逆さまに海へ落下していくシーン(笑)です。シニカルなユーモアのある文章で、何とか助かった彼女が、自分を突き落した夫に対する復讐を決意する……
と、ここまでは面白かったのですが、だんだん、飽きてきてしまうのです。……みみっちいのです、全体的に。まず、復讐相手であるチャズがどうしようもなく小者で、クズ野郎すぎて。ヒロインのジョーイも、窮地から生き延びるところまでは根性を見せるのですが、それ以降は大したことしていなくて。夫にネチネチと精神的苦痛を与えていくっていうのも、なんか陰湿に思えてきます。ある程度追いこんだら、あとはさっさと警察に訴えたらいいのに。
復讐劇そのものよりも、環境破壊についての描写のほうが印象的でした。作者のハイアセンさんは、もともとその分野を追求するジャーナリストさんだったそうで。垂れ流される農業排水、それを誤魔化す企業とお抱えエセ学者。
……たまたまなんですが、ニュースで新市場の汚染について盛り上がっている時期に読みましたからねえ。
で、こちらの小説はもっとライトな復讐劇。一ページ目からヒロインが真っ逆さまに海へ落下していくシーン(笑)です。シニカルなユーモアのある文章で、何とか助かった彼女が、自分を突き落した夫に対する復讐を決意する……
と、ここまでは面白かったのですが、だんだん、飽きてきてしまうのです。……みみっちいのです、全体的に。まず、復讐相手であるチャズがどうしようもなく小者で、クズ野郎すぎて。ヒロインのジョーイも、窮地から生き延びるところまでは根性を見せるのですが、それ以降は大したことしていなくて。夫にネチネチと精神的苦痛を与えていくっていうのも、なんか陰湿に思えてきます。ある程度追いこんだら、あとはさっさと警察に訴えたらいいのに。
復讐劇そのものよりも、環境破壊についての描写のほうが印象的でした。作者のハイアセンさんは、もともとその分野を追求するジャーナリストさんだったそうで。垂れ流される農業排水、それを誤魔化す企業とお抱えエセ学者。
……たまたまなんですが、ニュースで新市場の汚染について盛り上がっている時期に読みましたからねえ。
「死国」 ― 2016/08/31 23:45
今年はお遍路逆打ちの年、らしい。ご利益アップ!?宗教関係者だか旅行会社だかが、盛り上げようとしているとか。
坂東眞砂子作品は、多分初めて読みます。デビュー作なので、登場人物がケータイ持っていないのが新鮮というか違和感というか。
その昔四国は死者の国で、左回りにお遍路すると、死者が蘇る。という、トンデモ設定。
霊媒やっていた女の子がこの世に蘇って好きだった男を手に入れようとする。
正直、霊だからどうとかいうより、生きている人も含めた女たちの暗い執着心が不気味な話です。
怖くはないけど、禍々しい。
坂東眞砂子作品は、多分初めて読みます。デビュー作なので、登場人物がケータイ持っていないのが新鮮というか違和感というか。
その昔四国は死者の国で、左回りにお遍路すると、死者が蘇る。という、トンデモ設定。
霊媒やっていた女の子がこの世に蘇って好きだった男を手に入れようとする。
正直、霊だからどうとかいうより、生きている人も含めた女たちの暗い執着心が不気味な話です。
怖くはないけど、禍々しい。
「リプリー」 ― 2016/05/22 10:52
The Talented Mr.Ripley
アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」で有名(見たことないけど)。
同性愛者のパトリシア・ハイスミスの原作小説で、てっきりゲイ小説だと思っていたのですが、分類はミステリ。
家なし職なし貧乏アメリカ人青年トム・リプリー君が、同い年でお金持ちのイタリア在住ディッキーと友達になり、仲が悪くなると彼を殺してディッキーに成り済ます。一人二役で警察や友人たちの追求をかわしていく……
トム君は本当に小狡く立ち回ってぜんぜん好きになれないのですが、自分のみじめな生き方を嫌って、セレブな生活、裕福で明るく輝くディッキーに憧れる感じは切実で、憎めないキャラでもあります。ずっと二人仲良くしていられたらよかったのにね。
友達を亡きものにし、司直の追求におびえながらも、幸運(ていうか、悪運)に恵まれて、働きもせずに他人のカネで優雅な生活、イタリア各地をリッチに旅してまわるトム君。
羨ましいというか、殺意湧くっていうか。
アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」で有名(見たことないけど)。
同性愛者のパトリシア・ハイスミスの原作小説で、てっきりゲイ小説だと思っていたのですが、分類はミステリ。
家なし職なし貧乏アメリカ人青年トム・リプリー君が、同い年でお金持ちのイタリア在住ディッキーと友達になり、仲が悪くなると彼を殺してディッキーに成り済ます。一人二役で警察や友人たちの追求をかわしていく……
トム君は本当に小狡く立ち回ってぜんぜん好きになれないのですが、自分のみじめな生き方を嫌って、セレブな生活、裕福で明るく輝くディッキーに憧れる感じは切実で、憎めないキャラでもあります。ずっと二人仲良くしていられたらよかったのにね。
友達を亡きものにし、司直の追求におびえながらも、幸運(ていうか、悪運)に恵まれて、働きもせずに他人のカネで優雅な生活、イタリア各地をリッチに旅してまわるトム君。
羨ましいというか、殺意湧くっていうか。
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