「荒城に白百合ありて」2024/03/02 10:08

須賀しのぶの、幕末時代小説。
時代設定は違えども、二作続けて現実に心が溶け込めないヒロインの物語です。
鏡子は自己が薄い。故に、会津武士の娘として、武家の妻として、雛形に形を合わせることによって自分を成り立たせる。
彼女ばかりではなく、多くのひとにも、そういう要素はあるような気がします。そこに生まれ落ちたときから求められる生き方、というのは。
それに何の違和感もなく素直に入り込めるか、
それに疑問を感じて苦悩や反発があるか、
鏡子はそのどちらでもなく、形式的であることに自覚がありすぎました。
友人の中野竹子が持つ力強い自我をまぶしく感じることはあっても、自分がそちら側の人間にはなり得ないことを承知している。
そうするべき、で生きていて。
そうしたい、は特にない。
そんな彼女が例外的に欲するものが二つ。
一つは、自分と同じ側にいる、薩摩藩士の男。
急変する時代の中、炎の中に滅びていく会津の城下で、破滅的な絆で結ばれた二人の物語。

「夜明けのすべて」2024/03/09 12:53

昨年主演女優賞だった岸井ゆきのが司会!
今年の日本アカデミー賞は、ゴジラと安藤サクラを優遇しすぎではないか。彼女が主演女優ノミネートされるなら、「怪物」よりも「BAD LAND」の方かと思うけど。綾瀬はるかに取ってもらいたかったなあ。



上白石萌音さんと松村北斗くんのW主演は、身長差萌え。両者、新海監督アニメの主演声優だった、その声で、モノローグやプラネタリウムのナレーション。言葉による語りが思ったより多い。
三宅唱監督は「ケイコ、目を澄ませて」でボクシングの動きで観客を魅了しましたが、思い返せばあの作品も、インタビューやトレーニングノートなど、言葉によって表現する部分も少なくなかった。
プラネタリウム設定は、瀬尾まいこの同名原作小説に無い脚本オリジナルだそうです。天体運行のダイナミックさの前では、人間の差異など病があろうがなかろうが極小の問題です。科学は意外と哲学的でスピリチュアルで、その客観性が優しい。
藤沢さんは普段は天然気味な気配り屋さんなのに、イライラを抑えられなくなる。
山添くんは元々優秀で向上心のある若者だったのに、パニックを起こしてしまう。
自分で自分をコントロールできない。「自分」とは、何か。
そんな生きづらさを抱える人に寄り添い受け入れる、そういう癒やし系は、今の時代に必要とされている。

「木」2024/03/16 22:17

年末に観た「PERFECT DAYS」で読書と樹木好きの主人公が読んでいたのが本書。以前、小川洋子のラジオ番組でも紹介されていた。71年から84年にかけて「學鐙」に掲載されたエッセイ、新潮社。
著者の幸田文が木に心を寄せるようになったのは、父親の露伴の教育による。自然と、生命に親しむ形の情操教育。その心根は財産だと言い切れるって、素敵だ。
木に対する敬意故に、お目当ての木に会いに、エゾマツの森や世界遺産登録以前の屋久島まで出向いていく。
生命として。
木材として。
ふたつの見方がある。なんとなく人間の、私人としての在り方と、職業人としての在り方、のような感じがする。
エッセイは、「えぞ松の更新」「藤」など最初の方の作品が神秘的な情緒と哲学があって印象的。他には、「灰」で火山灰の被害にあって死んでいく木々の描写が大変痛ましい。
もの言わぬ、でも美しく密やかに日々を生きる彼らが、とても愛おしい。

「カラオケ行こ」2024/03/23 12:21

友人が絶賛していた映画。漫画原作ですが、脚本家の野木さんが好きで、気になっていたのを、終映ぎりぎりで鑑賞できました。
悩める中学生・聡実君が、なぜかヤクザの凶児さんにカラオケのアドバイスをすることに。
組のみなさんのユルいこと。綾野剛はああいう型にはまらぬ図々しい系が本当によく合います。コイツこういう奴だからしょうがない、という謎の説得力があります。
正直、部長の立場にありながら部活に出られない聡実君は、どうかと思います。思うように歌えず、合唱から心が離れていく、揺れる思春期。
そこから、カラオケスナックの鎮魂の熱唱が炸裂。
肩の凝らない友情コメディです。

100周年、センバツ高校野球決勝2024/03/31 17:21

雨や、引っ越し準備であまり試合を観られなかった今年の大会でしたが。

3-2
健康大学付属高崎高校、初優勝おめでとうございます。機動破壊、足技で名を馳せた歴代チームの伝統を受け継ぎつつ、ことしは好投手二枚看板と打撃力で頂点へ。
一方、強豪校を打ち破って決勝まで勝ち上がった報徳学園は、二年連続の準優勝。すごいけど、悔しいですね。健大高崎と似たようなチームカラーで、すべての技術において安定感がありましたが、最後、打力の差で惜敗。
次は、夏の頂点を目指して。