「小泉八雲集」2025/11/30 14:03

上田和夫訳、新潮文庫。秋からの朝ドラは視聴していませんが、本書の解説文にあるラフカディオ・ハーンの生い立ちを読むと、観とけば良かったかな、と思いました。混血、異邦人、親族との縁の薄さは、孤独と同時に広い包括性をもたらす。
ある意味自由に、自分の性に合う物を求めていった。
元々は日本人に向けて書かれたのではなく、外国人に日本を紹介する意図で英語で書かれたのですね。小泉八雲の数ある著作から、数編ずつ抜き出し、前半は日本昔話・説話で、懐かしいお話も多数。八雲から観た牡丹灯籠(「悪因年」)が興味深い。
後半は、八雲による日本人観を述べるエッセイ。彼から観た日本人は、己を律して他者を気遣い、それでいて命がけで己の誇りと真を貫く強い民族。特に、厳しく躾けられた武士階級に敬意を抱くが、それは明治時代には失われつつあった。
八雲にとって、日本とその精神は、世界に刻み込まれる永遠に続く、生き物の魂を強く意識できる文化だったのですが。今の日本は、どうなのだろう。

「シャーロックホームズの思い出」2024/12/21 22:33

The Memoirs of Sherlock Holms
シリーズの第二短編集。「海軍条約文書事件」がラストの茶目っ気も含めて結構好きです。
ホームズがワトソン博士と出会う前の探偵業初期の事件やの学生時代の様子が描かれたり、兄のマイクロフトが登場したり、物語の世界観が広がってきそうなところで、大犯罪組織の首領・モリアーティとの対決で命を落としてしまう。
人気が出てきたのは良いけど、ドイルはネタに困ってきたのかも知れません。「株式仲買人」は構造が「赤毛連盟」にそっくりですし。
ワトソン医師と大陸旅行(という名の避難行動)に出る前の、教授との水面下の暗闘や網をかけていく過程を長編でつぶさに説明してもらいたいところです。最後の対決だけ描かれて、簡単に名探偵を葬り去られてしまっても、読者は不満でしかありません。
熱心な読者が、著者の創作方針を転換させてしまうことがあるという、実例。

「シャーロックホームズの冒険」2024/12/07 22:03

「シャーロックホームズの冒険」
超有名シリーズの、第一短編集。The Adventures of Sherlock Holmes
収録作品のタイトルも頭に The Adventures of が付くものが多い。多分私が人生で初めて読んだホームズものである(子供向けに易しく書かれたものだったと思う)「まだらの紐」も、本当は「まだらの紐の冒険」だったのか、意味不明だ!
「赤毛組合」や「青いガーネット」など、探偵が犯罪を暴く形をとりつつも、ユーモアたっぷりな作品集です。1991年7月発表の短編第一作からが、ホームズが珍しく出し抜かれるお話ですし。アイリーン・アドラー格好良い。
同一短編集の中に「花嫁失踪事件」と「花婿失踪事件」収録されている!それから、自分の欲のために娘の人生を握りつぶそうとするろくでなしの親!ドイルの家庭観、家族観はずいぶんと悲観的です。それが英国風なのか。
冒険の舞台は英国でありますが、前二作と同様、新大陸やインドも無関係ではありません。みなさま外地から犯罪の種を抱えて帰国するらしい。「オレンジの種五つ」のKKKは、「風と共に去りぬ」でちょっと知っているくらいでしたが、不気味で恐ろしい暗殺集団ってことになっています。
あと、「緋色の研究」では文学系知識ゼロみたいに言われていたけど、なかなかどうして、哲学的な警句を口にする男になっています、ホームズ。

「四つの署名」2024/11/04 14:10

名探偵、コカインにはじまりコカインに終わる。と思うと、ひどい主人公だ。
ホームズシリーズ二作目。前作から同居期間数年を経て、ワトソン医師が結婚相手(一度目の?)と出会う事件。ワトソンのメアリーさんに首ったけで冷静じゃない描写が可笑しい。
見せ場のテムズ川追跡は映像向け、冒険小説のノリ。
一作目の「緋色の研究」と同様、今回も捕らえた後の犯人側の事情語りが結構長い。詳しい動機は後回しにして犯人の特定と捕獲。前回は新大陸での宗教団体がらみの因縁で、お次は植民地インドでの混乱に乗じた冒険。
インドの財宝以上に、裏切り者に対する復讐心のほうがメインの動機。どのみち、まっとうとは言い難い手段で手に入れたお宝だったのだけど、横取りされるのは腹が立つ。
犯人も、好き好んで人殺しをしたがる残忍な人ってわけではなかったけれど。
大金は、人を狂気に導き、運命を狂わせるのです。

「緋色の研究」2024/10/06 17:05

A Study in Scarlet
名探偵ホームズの活躍するシリーズの第一作、1987年発表された当時は、さほど話題にはならなかったという。しかしながら、やはり、名探偵の推理の鮮やかさとキャラクター(犯罪研究のことは熱心だけど、それ以外のことについては地動説も知らない)、そして警察権力をコケにする感じがウケたのでしょうか。
二部構成で、負傷して戦地から戻ったワトソン医師が一人の私立探偵と出会い、同居するようになり、その推理力に敬服し、事件の真相にまで至るのが第一部。
第二部が、犯人側の事情というか、モルモン教支配の恐ろしさと悲劇、そして復讐者の物語が主となっていて、こちらの方がシンプルでドラマチックです。
ホームズ先生には、事件解説さえしてまえば、そういう劇的な人間の執念には、あまり興味がないかもしれませんが。

「シャーロックホームズの事件簿」2024/09/20 22:47

絶対に読んだことがあるのに幸か不幸かうろ覚え。
新潮文庫、改訂がされているとはいえ、1950年代に訳されたもの。ホームズ短編集の中で最後に出版されたのですが、ページの都合で未収録となった作品は別冊に収められている。
ホームズと言えばワトソン医師の記述形式ですが、ここに収められている中には三人称、ホームズ自身の手記のものもあります。「覆面の下宿人」ではホームズは登場するけど事件解決はしないで聞き役に回っていました。
また、時代も霧の立ちこめる19世紀末ではなく1900年代初頭。日本ではそろそろ日英同盟とか日露戦争とか始まるあたり。
久しぶりに読んで、ホームズとワトソンの友情、お互いのこと大好きな姿勢にほっこりしてしまいます。

「木」2024/03/16 22:17

年末に観た「PERFECT DAYS」で読書と樹木好きの主人公が読んでいたのが本書。以前、小川洋子のラジオ番組でも紹介されていた。71年から84年にかけて「學鐙」に掲載されたエッセイ、新潮社。
著者の幸田文が木に心を寄せるようになったのは、父親の露伴の教育による。自然と、生命に親しむ形の情操教育。その心根は財産だと言い切れるって、素敵だ。
木に対する敬意故に、お目当ての木に会いに、エゾマツの森や世界遺産登録以前の屋久島まで出向いていく。
生命として。
木材として。
ふたつの見方がある。なんとなく人間の、私人としての在り方と、職業人としての在り方、のような感じがする。
エッセイは、「えぞ松の更新」「藤」など最初の方の作品が神秘的な情緒と哲学があって印象的。他には、「灰」で火山灰の被害にあって死んでいく木々の描写が大変痛ましい。
もの言わぬ、でも美しく密やかに日々を生きる彼らが、とても愛おしい。

「豆富小僧 その他」2024/01/03 23:31

京極夏彦の、妖怪小説。他に、狂言や落語の台本あり。
かなり前に、NHKの恐怖絵本番組で見た、とぼけたキャラクター。江戸時代に一瞬爆発的に流行った存在らしい。
これが小説仕立てになると、まずは「妖怪とは何か」という長い説明から始まる。先月観た「ゲゲゲの鬼太郎」と違って、こちらは人間によって妖怪が生み出される設定になっている。ので、そのシステムから講義していくのだ。
それから、科学技術とかお金儲けとか思想信条など、様々な思惑を抱えた人々と、彼らに憑いている「いるけどいない」妖怪たちが、ひとつの誘拐事件に関わって、てんやわんや。厭な感じになったところで、ただ豆腐をもっているだけ、という豆富小僧がみんなの毒気を抜いていく。
とにかく、説明が多い。それぞれの立場や考えを説明しないと話が分からないので、どうしようもないのですが。

「文豪、社長になる」2023/10/08 23:17

昭和後期から平成へかけての芸能界名物社長が悪鬼のごとく叩かれている今日この頃。
大正から戦中にかけて文学界の大物社長の「史実に基づくフィクション」を。
社長が文豪っていうか、社長の周辺が文豪や文芸作品だらけっていうか。名前だけですが、
吉野源三郎「君たちはどう生きるか」も出てきました。
著者の門井慶喜氏は、18年に「銀河鉄道の父」(未読)で直木賞受賞しましたが、その賞の創設者の伝記小説を書くことに。文藝春秋創刊100周年記念事業ってやつですね。
初めて読む作家さんですが、伝記小説を書くのにぴったりというか、読みやすく、親しみやすさを感じさせる文章です。主人公である、菊池寛の人となりの影響かも知れません。
こういうおっちゃん、いるよなあ。
情に篤く面倒見が良く、豪快で楽観的で、打算的だけどどこかお人好しで、良くも悪くも俗っぽい。友人の芥川龍之介が自殺して、その遺児・比呂志へかけた言葉が「お金のことは、心配するな」だもの。文豪っぽいイイ台詞ではないけど、社長っぽい頼りになる台詞。
そんな人だから、お調子よく、時流に乗って、「ペン部隊」。この頃は大半の日本人がそうだったのでしょうが、軍部に協力したとして公職追放されたりしますが。
人の栄枯盛衰喜怒哀楽、文藝って、楽しい。

「レディ・ガンナーの冒険」2023/08/10 22:24

古き良きライトノベル、スニーカー文庫っていうのがもうすでに平成の前半、20世紀の香りです。
茅田砂胡作品は、多分初めて読みます。主人公は強気でまっすぐな気性のお嬢様。彼女が荒野を渡るために雇った用心棒たちが、四人とも動物に変身できる種族で、その中でもとびきりの変わり種。
ストーリーは、小悪党によるケチな陰謀に対し、美男美女たちが派手に活躍する、よくある感じなのですが、世界観は、ファンタジー心をくすぐられます。設定に凝る作家さんなのでしょう。続編の「大追跡」では100ページくらいを主人公不在のまま、講義やディスカッションを続けて世界観説明に費やす。どうせなら、大陸マップを付属して欲しかった。
キャラクター的には、ちょっとだけ登場した蛇の人が良かったなあ。