「ジョーカー・ゲーム」シリーズ2016/07/03 23:27

この小説は前から気にはなっていたのですが、アニメ版の1、2話を見て、文庫全巻購入決定です。
化け物、と呼ばれるほど優秀なスパイ組織の物語。例えるならば、「暗殺教室」の理事長先生を複数名集めたような感じ。暗示能力が非常に高いところとか。
小説は短編集で、アニメは基本的に一話完結型。どちらもすとーり粗っぽい所もあるのですが、全体的な雰囲気……妙にスタイリッシュでスマートな感じが持ち味で、それで色々誤魔化されてしまいます。
小説は第一巻が最もクールで、ミステリーとしての完成度が高いです。後になってくるほど「化け物度」が高くなるっていうか。スパイが記憶喪失になったら業務に支障が出ないわけないやん、いくらなんでも。
アニメは、全員モブ顔のイケメンというのが斬新。スパイだから個性的じゃダメなんです。性格だって全員似たようなっていうか、彼らのボス、結城中佐を若くしたよな感じで。顔と名前が全然一致しなくても、それで良しという……、むやみに「キャラ」を立てようとする昨今、かえって新鮮な設定です。
ストーリーを原作と変えているのもありますが、「誤算」なんかはアニメの方がすっきりして分かり易いとおもいました。それから、「柩」は、原作通りなんだけど原作より感慨深い……キャラに絵が付くことによる効果がビシビシです。
原作で細かい時代背景の説明、アニメで情景描写や人物描写。両方合わせてより多くを楽しめる。メディアミックスというやつの、これは理想形だと思いました。

「セトウツミ」2016/07/09 10:55

哀愁あるアコーディオンの調べ。
ただ喋って時間を潰すだけの青春で、何が悪い。

堺市内で撮影された、ということは知っていましたが、想像以上にドンピシャでした。見覚えのある川辺、ビルには地元を代表する食品メーカーの看板、味気ないブロック塀が続く通学路、どこにでもあるような校舎がちらっと映るだけでもちゃんと分かる母校。
明らかに、自分の出身校の周辺ロケだ。原作漫画(未読)もそのまんまこの辺を描いているそうで、作者もここら出身なのだなあ。
お話は、帰宅部の高校生が関西弁で雑談しているだけ、という漫画としても映画としても大変斬新なもの。のっけから「第一話」と出ていて、0話とエピローグを含めて全8話構成、全体でも75分の作品。こんなに地味なのに、クスクス笑いながらいつまでも見ていたくなる不思議。
アクションがあるでもなく、主な場面はほとんど川辺だけ。
さぞかし低予算制作だろうと思わせる作品で、しかしその分主演の出演料は奮発した模様。瀬戸役を菅田将暉、内海役を池松壮亮。なにせ会話劇なので、演技派役者の実力が問われることになる。
そして、大森立嗣監督(「さよなら渓谷」は良かった)による演出なのだから。
堺市も、もっとこの映画アピールすればいいのに。

「さくら」2016/07/13 00:58

まったく偶然ですが、先日母校がちらっと映った映画を見に行った時、ちょうど母校出身の作家による小説を読んでいました。初めて読んだ西加奈子は、出世作の「さくら」。
会話は関西弁。でもモノローグが標準語なのにちょっと引いてしまう。若い男の子の一人称で独特の比喩表現があり、村上春樹を連想する。
プロローグでは息子と父親の物語後思ったら、すぐに長男誕生にまで時間がさかのぼる。仲良し兄弟、仲良し一家の物語になって行く。語りが過去になってから、読みやすくなる。
しかし、登場人物たちに、何故か全然感情移入できない。ワルイ人たちじゃないけど(だからか?)テンションについて行けない。夢中になるほど妹大好きな兄貴とか、ヤンデレ級に兄ちゃん大好きな妹とか、ライトノベルにしかいないものだと思っていました。
そんな中で、犬のさくらちゃんは、癒し。慎ましく可愛らしく、ステキすぎる。
仲良し長谷川一家の歴史と、一家の崩壊と、再生。
おしまいが怒涛の勢いで、押し切られてしまう感じ。超有名曲の歌詞まで出てきたら、愛でいっぱいになるに決まっているのです。

ベートーベンを聴きに行こう!2016/07/23 17:09

どちらか一方を、と思っていたのですが、結局両方行ってしまいました。

一つ目は火曜日に、日本テレマン協会で、ピアノ協奏曲5番「皇帝」と、交響曲5番「運命」。アンコールはお馴染みの「トルコ行進曲」。どれも好きな曲です。
ベートーベンさん活躍期と同じ楽器を使う、古楽器演奏で、ピアノもチェンバロみたいな響きで、トランペットとかもピカピカしていなくて。それが、会場の中央公会堂のレトロ感にピッタリという。
テレマン協会の延原さんは大阪のおっちゃん、てな感じのオモロイ人です。大阪をウィーンしたいとか。(副首都にしよう、よりは具体的で面白いと思う)
大阪もトルコに攻め込まれたら(異文化吸収して)ウィーンになれるかな。

二つ目は、木曜日に、フェスティバルホールで大フィルの定期公演500回目に。踊るように降る井上道義さん。
ナポレオンに捧げるために作曲された、というエピソードが有名なベートーベンの3番「英雄」ですが、曲そのものは5番や6番や7番なんかに比べていまいち印象薄い。私の好みの問題もありますが、他にもっと英雄っぽい堂々たる交響曲ってたくさんあるし。
最初に演奏された「ミサ・タンゴ」の方が楽しかったです。作曲者のバカロフさんはアルゼンチン出身。神を称える教会音楽にラテンのノリを。バンドネオンが時に明るく、時に哀愁たっぷりに。

コンサートに行くといっぱいチラシを渡されるし、9月の大阪クラシックのパンフレットももらいました。また、行きたいなあ。

「あおい」2016/07/26 23:20

表題作の「あおい」他二篇の短編ですが、短編の方が好きかもしれません。
出会ったその日に、友達の好きな男の子を取ってしまったり、バイト先のスナックのママさんにイジワル言ったり、何となく始めようとしたペンションバイトからいきなり脱走したり。
西加奈子のデビュー作は、やること無茶苦茶なヒロインで、好きになれないっていうかお友達にはなれないタイプ。
でも前に読んだ「さくら」よりは、納得はできます。いるよなあ、こういう不安定な情緒にしたがって生きているタイプ。
しかし、もやもやと、行き場を失った感情の流れ、閉塞感。そこから、洪水のように一気に流れていく、その勢いの描写は素晴らしいと思います。