「営繕かるかや怪異譚」2020/09/26 23:34

プロフィールに、大分県中津市生まれ、とある。作中に出てくる、潮の香りがするとかお城の見える古い町って記述に、にやにやしてしまう。もう2、30年もすれば、あの田舎町に記念館とかできるだろうか。

怪談話なんだから、にやにやして読んじゃうのもアレなんだけど。今月観た映画も事故物件が次々登場しましたが、本書も住居に関わる怪異が、六編。角川文庫。
特徴的なのは、住人にとっても魑魅魍魎にとっても居心地が良いように、お家やお庭をリフォームしてしまうこと。
争わず、恐れず、それぞれの事情を考慮すれば、解決策が見えてくる。
優しさを感じる物語。

「図南の翼」2019/12/14 12:32

王様は呆れるほどの運の良さ巡り合わせの良さに恵まれて困難な状況から脱しました。と、いうのが最新作「白銀の墟 玄の月」。十二国記シリーズは主人公があらゆる意味で強大で有利にできていてズルい、という意見も分からないでもない。
その典型が96年刊行の「図南の翼」であり、そもそも王様の資質はこの運の良さなのだ、と言い切っている。本作は主人公がたった12才の少女でけっこうイイ性格していてしかも結果として大団円なのだから、あんまり依怙贔屓感はしないのだけれど。
王様になるためにどうして命懸けで危険な旅をしなければならないのか、という疑問も、もっともなのですが。あらためて、人外の地を旅する本作を読み返してみれば、なんか分かるような気もする。大きな困難と非情な現実はあるけれど、助けとなる要素は天が与えてくれている。それを感じて、活かすことを知ってもらうためではないのか。
王様が恵まれているおかげで、十二国記では意外な結末は用意されません。読んでいる側も「この娘が王様になるんだなあ」と分かった上で読み進めるのですが、本作ではあっと驚く意外な人物が意外な形で登場する。別作の登場人物だった彼がどういう過程でこんなことになったのか。謎の多いこのシリーズの中でもかなり謎度が高い、ラスボスってことはないとおもうけど、彼についての外伝をぜひ書いてもらいたいなあ。

「白銀の墟 玄の月」2019/11/24 22:34

ひとつ、世界観について。ここって仏教あるの!?道教っぽい十二国世界に、普通に仏像って単語出てくるんだけど、誰がどうやって御仏の教えを伝えたのだろう……

長かった。「オレタチノタタカイハコレカラダ」から18年の年月も長いけど、全四巻読み終えるまでも長くかかった。小野不由美の最新作、これは、群像劇か。
登場人物が多くて(そしてたくさん死んでいく)、「この人誰だったけ?」と何度も振り返る。読み終わっても結局背景がよく分からないままの人たちも。(投げっぱなしになった人たちのその後とか、いつの日か判明するのだろうか……)
このシリーズのこれまでの作品と大きく違って、なかなか主人公目線が出てきません。
物語のキーパーソンである麒麟、王様、簒奪者の目線で語られるのは、半分過ぎた第三巻から。
泰麒シーンで熱かったのが、故郷での犠牲者たちを思い起こして気合を入れるところ。……新刊発売を機にぼつぼつシリーズを読み返していましたが、エピソード0の「魔性の子」は本当に救いようがなく悲惨で。大事な王様を思い出した途端に数々の惨劇を遠い夢の話みたいにされてしまうのもあんまりですし、広瀬先生良かったね。
王様は、みんなが頑張って捜索しているのなんて関係なしにちゃんと自力で(天運は実力のうち)七年かけて自由の身になるのだから、屈強すぎる。確かな実力と自信があるために薄々怪しいと思っていたのを誰にも相談せず一人胸の内に収めて動いてしくじってこの有様かと思うと、並外れているのも考えものだけど。
逆に簒奪者の方は、自分がダメなのを分かっているから、周りから人を遠ざけてしまった。彼を慕う人たちの回想と、現在の簒奪者の姿とのギャップが、悲しい。ライバルと、それを選んだ麒麟(=天)に対する憎しみだけで彼は動いた。完全に自業自得ですが、孤独で憂鬱で気の晴れることのないまま。「今の王様と同姓だから次の王様にはなれないよ」「何て理不尽なんだこのシビュラシステム」ってなるのかもしれないけど。
似ている、とされた両者。それを大きく分けたのは。
己の感情のみを考えるか。
それだけでなく、もっと広く周りを見ることができるか。

「残穢」2013/10/16 00:23

 小野不由美ブームは続き、ゴーストハントの改訂版も、何冊か読んでみました。
 しかしこれは、以前の少女小説文庫の方が面白かった気がします。大幅な加筆修正は要らなかったのではないのか、と。怪異の種類が増えて解説が詳細になって、そのために以前の読みやすさが減じて、なんか煩雑になった感じです。どのエピソードが誰の体験だったか、ゴチャゴチャしてきて。
 なんでこんな感じになってしまうのか。
 これを読んで、なんか分かった気がしました。
 山本周五郎賞を受賞した、「残穢」。
 二十一世紀に首都圏で起こった怪異の調査をしているうちに、関連が有るような無いような怪談話がどんどん出てきて、しまいに明治大正期の九州の怪談にまでつながっていく話です。
 怖いです。不気味です。語りは淡々としているのですが、語り手の女性作家って明らかに小野不由美ご本人で、人物名は「仮名」でありますが、時間の経過とかに曖昧さがなく記録っぽい書き方で、まるでノンフィクションのようです。
 それに加えて、読み進めていくうちに、「こんなに次々怪談つながっていったら、不可抗力で自分のところにもお化け出てくることありえるやん」という気に、なってくるのです。
 最初に語られる怪異の体験者が、私と同じく一人暮らしの三十代の女性ってことも、変に怪談が身近に感じられてしまう原因かもしれません。窓の外や、部屋の隅の暗がりに警戒の目を向けてしまいます。
 とにかくこれは、バックミュージックなどかけずに、夜間に一人、布団にくるまって読むのがベストです。
 とか言いながら、私は途中で寝ちゃって、続きは日の光の下で読んだのですが。
 終盤になってくると、怪異現象は大きくなってくるのですが、心理的な怖さは薄れてきます。だんだん、人間が精神を病むのもそのために悲惨な事件が起こるのも全部怪異の影響みたいに思えてきて、そんな風に思う自分に逆に冷めていく感じです。
 目の前の現実に、シャンとして向き合うこと。
 それと同時に、目には見えない部分にも、畏敬の念を持つこと。
 この二点にが、「残穢」に対抗する手段なのでしょう。
 でも、どうやっても対抗しきれないような、「強大な怪談」に触れてしまったら・・・・・・

「くらのかみ」2013/10/08 21:25

 小野不由美熱再来です。十二国記とか何度も読み返して話の筋は全部頭に入っているのですが、それでも、ひとたびページに目を落とすと、本を置き難くなってしまいます。「華胥の幽夢」と「黄昏の岸 暁の天」を読み返して、戴国の騒乱と柳国の異変は病根が同じものなんだろうなあ、とか思いながら、もう十年以上出ていない新刊を待ちわびます。

 2003年発行の、対象年齢低めの謎解き小説。
 超自然的怪異と、人の手による事件との複合って意味で、「東亰異聞」「ゴーストハント」と同系統ですが、こちらはオカルトよりミステリ要素の方がうんと強いです。
 ド田舎の旧家にまつわる、二つの伝承。
 くらのかみと呼ばれる座敷童的存在が、家に富をもたらす。
 先祖が殺した行者の祟りによって、家では子供が育たない。
 そんなわけで、お金持ちだけど後継者のない家に、後継ぎ候補の親類縁者が集められ、話し合いが行われることになったのですが、そのさなか、食事に毒草が混入されるという事件が起こる。
 大人たちが「事故」と決めつける中、不審に思った子供たち6人(1人は座敷童)が調査を開始します。
 これが、けっこう登場人物も多いし展開も複雑で、エラリー・クインばりに論理的なんですが(妖怪の存在を除いて)、結構ややこしかったです。
 そして、ちょっと説教臭くて萌えがない。
 子供向けなんですべての漢字にルビがあるし表現もやわらかいのですが。
 怪談のドロドロや人間心理のドロドロや犯人探しのロジックや、小野不由美風味が盛りだくさんなんですが、この文字数では物足りない感じがしました。

 早く新刊出してほしいのは山々ですが、時間がかかってでも、大長編になろうとも、濃密な小説を書いて欲しです。

「丕諸の鳥」2013/10/01 00:09

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 なんて、信じてる日本人は一人もいないとは、思いますが。

 正直言って、「番外編を書くくらいなら、早く本編続きを書いて欲しい」って思いましたし、内容もなんか説教臭い気がして、書店で見かけてもすぐには購入しませんでした。
 しかし、ひとたび読みだすと、止まりません。小難しい漢字(ひしょのとりって、読まれへんって)に独特の用語が満載なのに
スラスラ読めて、しかも読み応えのある短編集でした。
 小説としての「力強さ」に満ち溢れていて、特に小野不由美版「走れメロス」な「青条の蘭」は、始まりはゆるゆると、しかし徐々に、雪玉が急傾斜を転がり落ちていくように大きく勢いよく物語が動いて、圧巻でした。
 やっぱり、いい仕事してます。
 以前(2001年・・・)の短編集は、十二国記シリーズ登場人物のサイドストーリーでしたが、今回は、十二国を舞台設定にしているだけで、本編内容とはほとんど無関係です(しいて言えば、柳国の謎についての伏線として読めるものかもしれませんが)。
 十二国記というより、作者の人間洞察を現した作品として読むべきだと思います。
 世界には、悲しくて苦しくて歪な、暗闇がある。「政の失策によって荒れた国」「理解不能で救いのない絶対的悪人」「国家を滅亡させるほどの病」「理不尽な暴力によってささやかな幸せが奪われていく現実」
四つの物語の主人公たちは、それぞれが直面した問題について、それぞれのやり方によって力を尽くし、声をあげます。しかしそれは、なかなか、人々に正しく伝わらないのです。
 彼らは暗闇の中で、焦り、苦しみ、もがき、ぜつぼうして・・・・・
 ところが、事態を動かしていくのは、大きな暗闇の、その向こう側にある、小さな希望だったのです。人々が信じるのは、信じたいのは、自分たちの不安や苦しみの中に差し込んでくる、小さな光。
 それを守ろうとして、人々は手を伸ばす。


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 は、ただの一時しのぎの幻にしてしまわず、闇を払う大きな光にしなければ、ならないのです。

「屍鬼」2011/01/14 23:42

 うちに閉じこもりっぱなしじゃアレですね。本屋うろつくの楽しいです。
「ゴーストハント」の新装版は、表紙がゴチャゴチャしてんのが気に入らなくて買う気にならない。読みたいんだけど、久しぶりに。

 TVアニメ放送が終ってしまいましたよ、「屍鬼」。
 原作小説読んでて先の展開は分かっていても、十分楽しめました。深夜アニメはこうでなければ。吸血鬼モノ、血を吸った相手を操れるって設定で、ちょっと某死神ノート思い出したりして。
 小説の方は、最初の方が村の日常を描くばっかりでなかなか話が進まないのですが(そこを乗り越えればもう、怒涛の勢いなんですが)、日常描写の退屈なあたりかなりばっさり抑えて構成し直してくれていました。
 実際これ、構成が難しいと思うのですよ。昔、実写映画になるって噂がありましたけど結局立ち消えになりましたし。主な主人公だけでも少年、医者、坊さんの三人で、他にも登場人物たくさんいてそれぞれにドラマがあって。
 その辺を丁寧に、でも退屈にはならないように再構築したフジリューに拍手です。独特の髪型やらファッションやらに賛否両論はあるでしょうが、漫画にデフォルメはつきものなので私は気にならないや。むしろ、あの絵でフジリューワールドを創りつつ、原作の持つ怖さ悲しさを損なわず表現できるところがすごい。幼稚園児の持つ文楽人形の不気味さはフジリューならでは。
 じわじわと人間を狩る屍鬼の恐怖と
 いっきに屍鬼を狩る人間の狂気と
 ビジュアルや構成だけでなくストーリーにも変更は加えられていましたが、登場人物の心情、性格設定は原作に忠実なので、すんなり受け入れられるのです。
 アニメも、限られた尺の中で削られたエピソードも多々ありましたが、頑張ってくれたと思います。終盤はちょっと心配してたんですよね、アニメ版ゴーストハントはもう、駆け足すぎだったから。

「ゴーストハント」完結!2010/10/05 16:57

 昨夜は飲みに行く約束が流れてしまい、空いた時間にフラフラ本屋に寄って、漫画の新刊見つけてきました。
 とうとう完結だ、ゴーストハント。12年掛けて単行本12巻かあ。12年の間に、掲載雑誌が変わったり書き下ろし新刊になったり。
 登場人物の、ていうか主役のナルの顔がけっこう変化しているのですが、「サイレントクリスマス」あたりの書き方が一番好みです。ジーンは初登場時のすごいキラキラっぷりが最も印象的。麻衣ちゃんはショートヘアの方が好きだなあ。
 一番怖い話は「血塗られた迷宮」、ちょっと感動的だったのが「忘れられた子どもたち」、好きだったのがやっぱり、ぼーさんが安原君や麻衣ちゃんたちと仲良く掛け合いやっているシーンですねえ(こんな兄貴が欲しいなあ、と高校時代に思ったものですが、今では私の方が年上だ)。
 オカルトものなので他の巻は色彩の暗い表紙なのですが、最終巻は青空がバック。事件が終った後の謎解き編というか、これまでの長大な伏線回収編です。三分の一くらいがぼーさん喋りまくりの推理ショーでした。
 そして成り行きで麻衣ちゃんが告白することになり、しかし相手は「実は人違いでした!」という真実が発覚し、結果としてナルがフラれた形になっちゃうという(ナルちゃん不本意だったろうなあ)少女マンガとしては異例の展開です。まあ、ゴーストハントだから。
 最終巻の帯を見て初めて知ったのですが、コミック完結に合わせて来月から、ながらく絶版だった原作小説「悪霊シリーズ」が全編リライトで出るという。1260円って、けっこうお値段しますが書き下ろしが収録されてあったら全7巻買ってしまいそうです。
 商売上手だなあ、出版社。

「緑の我が家」2010/08/27 20:23

 寂しい。家に帰りたい。帰る場所がない。待っていてくれる人がいない。そういう人間は死ぬと、ここを離れられなくなる。

 小野不由美のホラー小説。これも夏になると再読したくなります。
 父親の再婚を機に一人暮らしを始めた16歳の少年が主人公。引っ越してきた先は「出る」と噂で、実際に起こる怪異の数々。
 そして主人公の記憶に封じられた、過去の事件。
 この二つがお話の軸となるのですが、もう一つ印象的なのが、主人公の青臭さ。思春期ってヤツでしょうか。強がって、独りよがりで、潔癖で、ずるくて、自己嫌悪に陥って、でも誰にも相談できなくて……
 そんな、行き場のない人間を誘ってくるのが、「緑荘」の住人たち。風呂場のドアの隙間からのぞく、細い子供の手……

「悪夢の棲む家」2010/08/23 13:54

 毎年、夏の終わりには読み返しているような気がします。
 小野不由美の悪霊シリーズの続編。悪霊シリーズ本編は図書室で読んだので漫画版しか持っていないのですが。
 ていうか、本編を読む前にこの続編の方を読んでしまって、本編のネタを先に知ってしまったのが今でも残念に思います。
 小野不由美はホラーでもファンタジーでも、どこか出来の良い推理小説を思わせる、理論的な書き方で説得力を持ちます。お話の一つ一つの要素がピタリピタリとはまって、読み終わると完成されたジグソーパズルを見るような気になります。
 購入した家屋に引っ越してきた母娘は、数々の怪異に見舞われる。依頼を受けて調査に乗り込んでくるSPRの面々と、このお話で初登場の、心霊現象否定派頭カチカチ公務員。
 この家で起こる異変はイタズラなのか、それとも幽霊の仕業なのか。
 ホラーなので、悲しくて怖いシーンももちろんあるのですが、ナルちゃんによる理論武装した毒舌に他の面々によるお笑いが楽しい。
 キャラクターが面白いんですよねえ。私はぼーさんが好き。

 早く新刊、出してもらえないかなあ。