「丕諸の鳥」2013/10/01 00:09

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 なんて、信じてる日本人は一人もいないとは、思いますが。

 正直言って、「番外編を書くくらいなら、早く本編続きを書いて欲しい」って思いましたし、内容もなんか説教臭い気がして、書店で見かけてもすぐには購入しませんでした。
 しかし、ひとたび読みだすと、止まりません。小難しい漢字(ひしょのとりって、読まれへんって)に独特の用語が満載なのに
スラスラ読めて、しかも読み応えのある短編集でした。
 小説としての「力強さ」に満ち溢れていて、特に小野不由美版「走れメロス」な「青条の蘭」は、始まりはゆるゆると、しかし徐々に、雪玉が急傾斜を転がり落ちていくように大きく勢いよく物語が動いて、圧巻でした。
 やっぱり、いい仕事してます。
 以前(2001年・・・)の短編集は、十二国記シリーズ登場人物のサイドストーリーでしたが、今回は、十二国を舞台設定にしているだけで、本編内容とはほとんど無関係です(しいて言えば、柳国の謎についての伏線として読めるものかもしれませんが)。
 十二国記というより、作者の人間洞察を現した作品として読むべきだと思います。
 世界には、悲しくて苦しくて歪な、暗闇がある。「政の失策によって荒れた国」「理解不能で救いのない絶対的悪人」「国家を滅亡させるほどの病」「理不尽な暴力によってささやかな幸せが奪われていく現実」
四つの物語の主人公たちは、それぞれが直面した問題について、それぞれのやり方によって力を尽くし、声をあげます。しかしそれは、なかなか、人々に正しく伝わらないのです。
 彼らは暗闇の中で、焦り、苦しみ、もがき、ぜつぼうして・・・・・
 ところが、事態を動かしていくのは、大きな暗闇の、その向こう側にある、小さな希望だったのです。人々が信じるのは、信じたいのは、自分たちの不安や苦しみの中に差し込んでくる、小さな光。
 それを守ろうとして、人々は手を伸ばす。


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 は、ただの一時しのぎの幻にしてしまわず、闇を払う大きな光にしなければ、ならないのです。

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