「細見コレクション 琳派と若冲」2020/12/12 23:14

インフルエンザの猛威によって日本各地で鶏が埋められている今日この頃、世界一格好良くニワトリを描く絵師の作品を。ちなみに本日の自分の夕飯も鶏肉。
伊藤若冲と言えば写生対象の細部まで念入りに描写されるイメージですが、今回の展示は雪中雄鶏図のみが彩色で、他は墨絵作品。黒の濃淡のみの表現では、精密さより勢いと愛嬌。ネズミ婚礼図はノリがディズニーアニメのよう。雄鶏の尾羽は力強いけど雌鶏は丸っこいフォルムで、ヒヨコちゃんたちに至ってはあの有名なおまんじゅうに足をくっつけた感じ。ミュージアムショップでは、飛んでる虻を睨み付ける双鶏図のマグネットを購入しました。
琳派作品では、俵屋宗理の朝顔が格好良かったです。
全体的に作品の説明が分かり易く親切。気になったのは、掛け軸がなんかよれっとしていること。あれってアイロンか何か(!?)でピシリとできないんだろうか。
帰りに、平安神宮で開催の手作り作品市も覗いていく。オヤツに買ったおいもカップケーキ美味しい。

「朝が来る」2020/12/19 00:14

不妊治療への金銭補助増加が現政権の目玉政策だそうですが、どうも、ピンとこない。授かりもの、巡り合わせ、という認識があるからだ。妊活、と言われればあまり気にならない。治療と言ってしまうとまるで病人みたい。
それよりは、授からない人と育てられない人を結びつける養子縁組制度を拡充させる方が合理的に思う。そして実際に、特別養子縁組成立件数は増加傾向にあるそうだけど。
出産というプロセスの圧倒的なインパクトは、猪口才な合理性など超越してしまうのか。

多用される役者さんの顏のアップに、存在感たっぷりの自然描写。
五輪映画撮り損ない記念(来年ワンチャンあるかな)に、河瀬直美作品。この監督さんは国際的には評価高い(だから五輪や万博なんかで声がかかってくる)けど、その知名度の割に、国内ではあまり多くは鑑賞されていない。この映画も、原作は人気作家の小説で、実力派の役者さんをそろえてきたのに。
二部構成。ポスターだと永作博美が主人公みたいだけど、前半はなんか不妊治療と特別養子縁組制度の啓発っぽさが強くて。後半の蒔田彩珠のやりきれない感じの方が印象深い。この人は今年観た「星の子」でも複雑なモノを抱えてやりきれない感じを好演。恋人と楽しく自転車二人乗りの光景に「なんてベタな」と思ったけど、それが数年後には生活のための新聞配達で自転車を漕ぐ。子供を産んでも育てられない側の方が苦境に立っているのは、当然ではある。
この映画では、子供の小学校入学までは「もう一人の親」の存在を知らせるお約束になっている。子供の知る権利って、養子でも不妊治療でも、大切。
子供は子供自身のために生まれてくる。
だけどやっぱり、親のためでもある。

「首里の馬」2020/12/23 23:10

最初の数ページを読み進めるのに難儀する。たまにある、登場人物が登場せずに土地の説明文が長く続くパターン。しかしこういう長い解説はたいてい、作品の性質に意味があってのことなので、読み飛ばせない。今年の上半期の芥川受賞作品。
ヒロインの未名子さんは、沖縄在住、私設郷土資料館の資料整理を手伝い、世界各地の孤独な人たちにクイズを出すという、ケッタイなお仕事をしている。
これは情報・知識のお話だと思いました。情報は失われてしまえばそれまで、でも何かとつなぎ合わせれば、別の意味が生まれてくる。
得体の知れない、という状態を、多くの人は無条件に恐れ敬遠してしまう。孤独が無理解から生じるものならば、確かな知識によってその冷たさは緩和されるものなのだ。
……突然現れた琉球馬と上手くやって行く様子は、ちょっとやりすぎな気もしたけど、そのくらいの強引さも、小説ならアリなのかもしれない。沖縄の歴史の辛さとバランスをとるための楽観的展開なんだろうか。
同時に芥川賞受賞した「破局」でも思ったけど、複数の登場人物たちが長く一人語りをするシーンが何度かある。会話のやりとりとか相槌なんかも相手に求めているのかいないのか。ああいう形が昨今の小説の流行なんだろうか。ドラマとか映画とかではなかなかできないよなあ、長台詞すぎて。

「破局」2020/12/27 23:01

文芸春秋で芥川賞作品を読むと、選評がついてくるのがいい。
一人称記述での、主人公の細かい観察力が気になったのですが、あの他者描写の詳細さ、陽介君の他人の視線を気にする性質の、裏返しなんか。なるほどなあ。
彼は食欲性欲モリモリで筋トレに励み就活に勤しみ、女性に優しくマナーと社会常識を重んじる。そうやって強固な外壁を作り上げていながら、芯の部分はプルプルプリンの如くで、タチ悪い女達に振り回されグスグスに崩されてしまうのです。
最後の破局を幽霊のせいみたいにするのは蛇足な気もしたけど。
形から入るやり方もアリでしょうが、健康な肉体に健全な魂が宿る、とは限らない。昨年のラグビー熱や近年の筋トレ至上主義をあざ笑うような、著者・遠野遥氏の性根の悪さが素晴らしい。読み方次第で喜劇とも悲劇とも受け取れる作品。
主人公・陽介君のお友達が、彼とは正反対の、己の心と思考のみに忠実に動いて周囲から浮くタイプの人。しかし就職活動を通して、友人は外部刺激によって己を変化させ成長させることを学び始めた。彼の今後の方が、主人公以上に気になってくる。