「日本以外全部沈没」 ― 2010/12/02 17:12
タイトルだけで笑えます。日本が世界にケンカを売った(笑)。
原作は筒井康隆の(小松左京公認の)短編小説。それをアホっぽく膨らませた映画。
タイトルどおり、日本以外の世界中が海に沈んでしまうブラック・コメディ。
真っ先に沈んだのがアメリカ大陸で、真っ先に避難して来たエアフォース・ワン。
次々と他の大陸も沈んで、当然円以外の通貨が暴落。大金持ちだったハリウッド・スターですらダンボール・ハウス住まいで、ウマイ棒を万引き(なんでか、うまい棒)。
威張る日本国首相。ご機嫌取りの某国「侵略は水に流しました」「神社にお参りしました」・・・・
鍋の中で王様のように白く輝く豆腐(アメリカが沈んで原料の大豆が不足しているから)。
外人メイドを雇うのが日本人のステータス。
不法外人を「追放」する組織の結成・・・・・・
歪んでいく社会の中で、触れ合った真心。
ベタですが、手袋の童話(ロシア民話だったっけ?)がいい感じの挿話になっていました。たくさんの種類の動物たちが、一つの手袋の中で仲良くしている。
動物達の中に、「人間」はいないのですが。
原作は筒井康隆の(小松左京公認の)短編小説。それをアホっぽく膨らませた映画。
タイトルどおり、日本以外の世界中が海に沈んでしまうブラック・コメディ。
真っ先に沈んだのがアメリカ大陸で、真っ先に避難して来たエアフォース・ワン。
次々と他の大陸も沈んで、当然円以外の通貨が暴落。大金持ちだったハリウッド・スターですらダンボール・ハウス住まいで、ウマイ棒を万引き(なんでか、うまい棒)。
威張る日本国首相。ご機嫌取りの某国「侵略は水に流しました」「神社にお参りしました」・・・・
鍋の中で王様のように白く輝く豆腐(アメリカが沈んで原料の大豆が不足しているから)。
外人メイドを雇うのが日本人のステータス。
不法外人を「追放」する組織の結成・・・・・・
歪んでいく社会の中で、触れ合った真心。
ベタですが、手袋の童話(ロシア民話だったっけ?)がいい感じの挿話になっていました。たくさんの種類の動物たちが、一つの手袋の中で仲良くしている。
動物達の中に、「人間」はいないのですが。
「アルハンブラ物語」 ― 2010/12/03 21:16
表紙には13世紀ペルシャの兵士の絵、口絵写真のボアブディル王の哀愁漂う表情。
言わずと知れた、ワシントン・アーヴィングのアルハンブラ滞在記。アメリカの役人の書いたものなんて堅苦しいんじゃないかと思ったら、大きな間違いで、作者はアルハンブラ以前にも色々旅行記を書いていた文人で、しかもめちゃめちゃロマンチストで空想的で、実にうっとりとアルハンブラの地に残された東洋の神秘を描いています。
訳者の江間章子さんは詩人。
アーヴィングはグラナダまでの騾馬の旅を、短くも印象的に描き、明るいイメージのスペインの地の、実は荒野の広がる貧しく厳しい実像に「そうそう、延々とオリーブ畑が広がるか岩山があるかの世界だった」と読んでいてうんうん頷いていました。
それから憧れのアルハンブラ宮殿のお庭や広間を一つ一つ紹介してくれます。
この辺までを読んでいると、「スペインに行く前に読んでおけばよかったな」と思いましたが。
しかし、今のアルハンブラが1829年と同等の神秘性を保有しているはずもなく。
私の行った時は朝一番の寒さが残る中で、観光客の姿が少ない分、まだ古めかしい雰囲気は保たれていましたが。
アーヴィングの功績でアルハンブラの歴史的意味は大いに守られ、代わりに彼の愛したおおらかな哀愁にはとどめを刺されたかも知れません。
今はライトアップされているかの古城をアーヴィングは月光の中で歩いたわけです。
ライオン修復中の「ライオンの中庭」は、学術的にも保存の意味でも興味深く必要なことなんですが、やっぱりライオンは噴水の周りにいて欲しかったとこれ読んで思いましたし、スペイン有数の観光スポットとなった今では、地元の人が気軽に出入りしたり、アーヴィングのような外国人滞在者が棲み付くなんて絶対無理。
本書の内容の大半が、著者が出会ったアンダルシア人の様子や、その地で語られるムーアの伝説です。
ムーア人の最後の王、ボアブディルの哀れに同情し。
貧乏人が魔法で隠されたムーアの財宝を手に入れる話は、貧しいグラナダの人々の夢であり。
塔に閉じ込められた美しい姫君の伝説はもの凄くアーヴィングの好みに合っているようで。
鳥と話す王子の冒険に、さまようムーアの亡霊達。
夢見がち過ぎて、少々眠たくなった本書ですが。
往時のイスラム文化が残り、かつての繁栄とその衰退に想いを馳せる、それがアルハンブラ。
言わずと知れた、ワシントン・アーヴィングのアルハンブラ滞在記。アメリカの役人の書いたものなんて堅苦しいんじゃないかと思ったら、大きな間違いで、作者はアルハンブラ以前にも色々旅行記を書いていた文人で、しかもめちゃめちゃロマンチストで空想的で、実にうっとりとアルハンブラの地に残された東洋の神秘を描いています。
訳者の江間章子さんは詩人。
アーヴィングはグラナダまでの騾馬の旅を、短くも印象的に描き、明るいイメージのスペインの地の、実は荒野の広がる貧しく厳しい実像に「そうそう、延々とオリーブ畑が広がるか岩山があるかの世界だった」と読んでいてうんうん頷いていました。
それから憧れのアルハンブラ宮殿のお庭や広間を一つ一つ紹介してくれます。
この辺までを読んでいると、「スペインに行く前に読んでおけばよかったな」と思いましたが。
しかし、今のアルハンブラが1829年と同等の神秘性を保有しているはずもなく。
私の行った時は朝一番の寒さが残る中で、観光客の姿が少ない分、まだ古めかしい雰囲気は保たれていましたが。
アーヴィングの功績でアルハンブラの歴史的意味は大いに守られ、代わりに彼の愛したおおらかな哀愁にはとどめを刺されたかも知れません。
今はライトアップされているかの古城をアーヴィングは月光の中で歩いたわけです。
ライオン修復中の「ライオンの中庭」は、学術的にも保存の意味でも興味深く必要なことなんですが、やっぱりライオンは噴水の周りにいて欲しかったとこれ読んで思いましたし、スペイン有数の観光スポットとなった今では、地元の人が気軽に出入りしたり、アーヴィングのような外国人滞在者が棲み付くなんて絶対無理。
本書の内容の大半が、著者が出会ったアンダルシア人の様子や、その地で語られるムーアの伝説です。
ムーア人の最後の王、ボアブディルの哀れに同情し。
貧乏人が魔法で隠されたムーアの財宝を手に入れる話は、貧しいグラナダの人々の夢であり。
塔に閉じ込められた美しい姫君の伝説はもの凄くアーヴィングの好みに合っているようで。
鳥と話す王子の冒険に、さまようムーアの亡霊達。
夢見がち過ぎて、少々眠たくなった本書ですが。
往時のイスラム文化が残り、かつての繁栄とその衰退に想いを馳せる、それがアルハンブラ。
「アルハンブラの誘惑」 ― 2010/12/06 00:26
前に読んだ「アルハンブラ物語」は19世紀前半にアメリカ人から見たアルハンブラですが、今回のはマドリードに留学して棲みつき、そして現在グラナダ在住の日本人エッセイストの著作です。
新旧ふたつの視点からのアルハンブラを読み比べよう、てな趣旨でこの二冊を図書館から借りてきたのですが。
やっぱり、同じ21世紀の日本人女性からの視点の方が共感しやすいです。マドリードの街中散歩はつい半月前に自分も通ったとこですし(グラン・ビアとかスペイン広場とか王宮とかマヨール広場とか)、暑い南部のはずなのになんでこんなに寒いの(山岳地帯だから、雪を被ったシエラ・ネバダのお膝元)とか、朝から料理の脂っこさに辟易するとか、恋人がマザコンでお母さんとのやりとりでストレス溜めたりとか。
そう、著者の安藤まさ子さんがマドリードからグラナダへ転居したのは他でもない、男に誘われたから。アルハンブラのエキゾチックな魅力にうっとりなアーヴィングとはまったく違う視点で、唯一同じ見解なのは、グラナダが貧乏な土地だということぐらいでしょうか。
むしろ恋人のパコのほうが感傷的でアーヴィングに近いところがあるかもしれません。
現代スペイン人を分かりやすく紹介してくれて興味深いのですが。
これ、タイトルには偽りありです。
アルハンブラ宮殿は足を踏み入れた様子もなく歴史の「残骸」呼ばわりで、後半ではアルハンブラが見えない郊外へ引っ越すし。
むしろ、著者はアルハンブラを陰気でうっとうしく思っていたのじゃないかと思われるのです。
新旧ふたつの視点からのアルハンブラを読み比べよう、てな趣旨でこの二冊を図書館から借りてきたのですが。
やっぱり、同じ21世紀の日本人女性からの視点の方が共感しやすいです。マドリードの街中散歩はつい半月前に自分も通ったとこですし(グラン・ビアとかスペイン広場とか王宮とかマヨール広場とか)、暑い南部のはずなのになんでこんなに寒いの(山岳地帯だから、雪を被ったシエラ・ネバダのお膝元)とか、朝から料理の脂っこさに辟易するとか、恋人がマザコンでお母さんとのやりとりでストレス溜めたりとか。
そう、著者の安藤まさ子さんがマドリードからグラナダへ転居したのは他でもない、男に誘われたから。アルハンブラのエキゾチックな魅力にうっとりなアーヴィングとはまったく違う視点で、唯一同じ見解なのは、グラナダが貧乏な土地だということぐらいでしょうか。
むしろ恋人のパコのほうが感傷的でアーヴィングに近いところがあるかもしれません。
現代スペイン人を分かりやすく紹介してくれて興味深いのですが。
これ、タイトルには偽りありです。
アルハンブラ宮殿は足を踏み入れた様子もなく歴史の「残骸」呼ばわりで、後半ではアルハンブラが見えない郊外へ引っ越すし。
むしろ、著者はアルハンブラを陰気でうっとうしく思っていたのじゃないかと思われるのです。
「フリーター、家を買う」 ― 2010/12/07 23:57
二宮君は「大奥」でその存在感を再認識。普通にしていても何か目が引かれてしまうのはキムタクに似た感じがするのですが、キムタクが何をやっても同じように「キムタク」であるのに対し、二宮はナチュラルに色んな顔をできるなあ。
紅白もちょっと楽しみですが、でもテーマ曲はオープニングの「君って」の方が好き。
二宮が長男で、父親が竹中直人で母親が浅野温子で姉貴が井川遥という豪華メンバーな一家。そして二宮の職場の先輩役が香里奈で、この人は「パレード」で病んだお姉さん役を好演していた人。
キャスティングも興味深いですが、原作も、読んでみたいなあ、と思っていました。
林真理子の「下流の宴」もそうですが、格差社会を描くためにフリーター、正社員、玉の輿狙い、うつ病、医者の家系などの人物を配置しています。そして各登場人物がみんな「そうそう。わかるよ、いるよねそういう人!」と猛烈な既視感を覚えます。とてもリアルなんです。
私自身も職を辞してフリーターどころかニート状態なわけですが、格差っていうか、上とか下とか考えるのって、なんかあんまり意味無い気がします。
このテの話の面白いところは、いわゆる「下」な人物が奮闘するところです。
主人公はプライドばっかり高くて嫌なことはすぐに投げ出しちゃう、非常に好感度の低い青年でしたが、その彼が母親のうつ病をきっかけに土木の仕事を始め、そこで出合った人たちに影響を受けて徐々に成長していきます。
家族についての物語であり、働くことについての物語でもある。
さあ、彼はお母さんのために、家を買うことができるでしょうか!
紅白もちょっと楽しみですが、でもテーマ曲はオープニングの「君って」の方が好き。
二宮が長男で、父親が竹中直人で母親が浅野温子で姉貴が井川遥という豪華メンバーな一家。そして二宮の職場の先輩役が香里奈で、この人は「パレード」で病んだお姉さん役を好演していた人。
キャスティングも興味深いですが、原作も、読んでみたいなあ、と思っていました。
林真理子の「下流の宴」もそうですが、格差社会を描くためにフリーター、正社員、玉の輿狙い、うつ病、医者の家系などの人物を配置しています。そして各登場人物がみんな「そうそう。わかるよ、いるよねそういう人!」と猛烈な既視感を覚えます。とてもリアルなんです。
私自身も職を辞してフリーターどころかニート状態なわけですが、格差っていうか、上とか下とか考えるのって、なんかあんまり意味無い気がします。
このテの話の面白いところは、いわゆる「下」な人物が奮闘するところです。
主人公はプライドばっかり高くて嫌なことはすぐに投げ出しちゃう、非常に好感度の低い青年でしたが、その彼が母親のうつ病をきっかけに土木の仕事を始め、そこで出合った人たちに影響を受けて徐々に成長していきます。
家族についての物語であり、働くことについての物語でもある。
さあ、彼はお母さんのために、家を買うことができるでしょうか!
「武士の家計簿」 ― 2010/12/09 00:19
記録をつけるのが好き、というか、記憶に自信がないので記録せざるを得ない、というか。とにかく自分も家計簿をつけるようにしているのですが、それを自身の経済活動にはとんと活かせてないのですよねえ。
そんなわけで、大人だって金銭の管理というのは難しいものなのに。
まだ小さい男の子が、ハジメテノオツカイどころか自分ちの借金の状況まで親から教えられ、出費を書きとめ家計を任されるというオカシイやらカワイソウやらな状況。
少年の家は代々そろばん弾いて銭勘定するのを役目としているので、幼い頃からそういう厳しい修行をさせられ、たった十一で会計のお仕事見習いやるわけですが、しかし、男の子がそんなんを格好良いものだとは、なかなか思えませんよねえ。
芸達者なキャスト、特に堺雅人さんが好きで、前々から見たいと思っていた映画ですが、堺さんの役は主役ではありますがあんまり感情を表に出さない淡々とした穏やかさのある人で、猪山家の他の面々の性格の濃さに押されて影薄かった感じ。
華やかで朗らかだった猪山家が、借金返済のために家財を売り払い節約生活をするようになってから、明らかにスクリーンに映る家内が殺風景で地味になります。食事内容の変化が分かりやすい。そういう生活くさいコミカルさはよかったのですが。
生活が質素になっても。
人間として愛情深く武士として誇り高く。
そのへんの格好良さをもっと強くプッシュして欲しかったかなあ、演出。ちょっと、淡々と地味すぎた。
そんなわけで、大人だって金銭の管理というのは難しいものなのに。
まだ小さい男の子が、ハジメテノオツカイどころか自分ちの借金の状況まで親から教えられ、出費を書きとめ家計を任されるというオカシイやらカワイソウやらな状況。
少年の家は代々そろばん弾いて銭勘定するのを役目としているので、幼い頃からそういう厳しい修行をさせられ、たった十一で会計のお仕事見習いやるわけですが、しかし、男の子がそんなんを格好良いものだとは、なかなか思えませんよねえ。
芸達者なキャスト、特に堺雅人さんが好きで、前々から見たいと思っていた映画ですが、堺さんの役は主役ではありますがあんまり感情を表に出さない淡々とした穏やかさのある人で、猪山家の他の面々の性格の濃さに押されて影薄かった感じ。
華やかで朗らかだった猪山家が、借金返済のために家財を売り払い節約生活をするようになってから、明らかにスクリーンに映る家内が殺風景で地味になります。食事内容の変化が分かりやすい。そういう生活くさいコミカルさはよかったのですが。
生活が質素になっても。
人間として愛情深く武士として誇り高く。
そのへんの格好良さをもっと強くプッシュして欲しかったかなあ、演出。ちょっと、淡々と地味すぎた。
「これでよろしくて?」 ― 2010/12/10 13:30
話すほどのことじゃ、ないのよね、たいがいのことは
(中略)
でも、話すほどのことじゃない、ことの方が、説明しやすい悲劇、よりも、むしろ後になってじわじわと効いてきちゃうのよね
というような、曖昧模糊とした細々とした要素を積み重ねていくのが上手な川上弘美作品ですが、本作はそれが手法、ではなくそのまんま主題に持ってきています。
分かりやすいけど、そのまんますぎるかなあ。
主人公はいつものように、三十代の主婦で、話の場面は主に二つ。
一つは、彼女の家庭での問題で、たとえば「夫は毎年誕生日プレゼントを買ってくれるけどあんまり嬉しくない」とか「居候の義理の妹が久しぶりに美味しいものを食べに行こう、というのを聞いて不快感を覚える」とかですが、中心はヨメ・シュートメ問題です。
夫やその家族との間に波風立てたくない、取り立てて言うほどのことでもないから黙っていようとするのですが、ひとつひとつは小さくても、積み重なっていくと……
で、その対極にあるのが、「これでよろしくて?同好会」です。
家族でもなければ友達でも恋人でも同僚でも同級生でもない、「モトカレの母親」というまた関係者なんだか無関係なんだか微妙な人物から誘われて、やっぱり年齢も何もかも違うメンバーと共に、モリモリとお食事しながら、ささやかなテーマについて意見を出し合うのです。
たとえば「セックスの時に自分のパンツを何処に置いておいてどのタイミングではくか」とか「なぜ肉じゃがは日本人の代表的なオカズに選ばれるのか」とか「音姫を使わないのはマナー違反なのか」とか、そんなとりとめもない議題を真面目に、忌憚無く喋るのがこの同好会。
主人公は「これでよろしくて?同好会」では、やすらいでいるのですが、夫やその家族たちとの付き合いに色々変化が訪れ、その時々で「自分はこの人たちと家族になれていない」と疎外感を感じます。人と人との間にある微妙な気配を「おばけ」と言い表し、そいつは関係が近いほど大量発生して主人公を惑わせます。
でも、「おばけ」って、悪く作用するものばかりってわけじゃないんですよね。
川上弘美作品は、読んでいて共感できる点が多いのですが。
これはアカンやろう、と思ったことが。
母親に剥いてもらった蟹の身を当たり前のように食べる夫なんて、我慢できません。
(中略)
でも、話すほどのことじゃない、ことの方が、説明しやすい悲劇、よりも、むしろ後になってじわじわと効いてきちゃうのよね
というような、曖昧模糊とした細々とした要素を積み重ねていくのが上手な川上弘美作品ですが、本作はそれが手法、ではなくそのまんま主題に持ってきています。
分かりやすいけど、そのまんますぎるかなあ。
主人公はいつものように、三十代の主婦で、話の場面は主に二つ。
一つは、彼女の家庭での問題で、たとえば「夫は毎年誕生日プレゼントを買ってくれるけどあんまり嬉しくない」とか「居候の義理の妹が久しぶりに美味しいものを食べに行こう、というのを聞いて不快感を覚える」とかですが、中心はヨメ・シュートメ問題です。
夫やその家族との間に波風立てたくない、取り立てて言うほどのことでもないから黙っていようとするのですが、ひとつひとつは小さくても、積み重なっていくと……
で、その対極にあるのが、「これでよろしくて?同好会」です。
家族でもなければ友達でも恋人でも同僚でも同級生でもない、「モトカレの母親」というまた関係者なんだか無関係なんだか微妙な人物から誘われて、やっぱり年齢も何もかも違うメンバーと共に、モリモリとお食事しながら、ささやかなテーマについて意見を出し合うのです。
たとえば「セックスの時に自分のパンツを何処に置いておいてどのタイミングではくか」とか「なぜ肉じゃがは日本人の代表的なオカズに選ばれるのか」とか「音姫を使わないのはマナー違反なのか」とか、そんなとりとめもない議題を真面目に、忌憚無く喋るのがこの同好会。
主人公は「これでよろしくて?同好会」では、やすらいでいるのですが、夫やその家族たちとの付き合いに色々変化が訪れ、その時々で「自分はこの人たちと家族になれていない」と疎外感を感じます。人と人との間にある微妙な気配を「おばけ」と言い表し、そいつは関係が近いほど大量発生して主人公を惑わせます。
でも、「おばけ」って、悪く作用するものばかりってわけじゃないんですよね。
川上弘美作品は、読んでいて共感できる点が多いのですが。
これはアカンやろう、と思ったことが。
母親に剥いてもらった蟹の身を当たり前のように食べる夫なんて、我慢できません。
「火天の城」 ― 2010/12/13 00:03
今年はなんかお侍さん時代劇映画が多いですが。
以下は、昨年の秋に観たやつの感想。
問い:法隆寺を建てたのは誰でしょう?
答え:大工さん
というジョークが小学生の頃にあったような。
そんな、歴史の教科書には出てこない、大工さん達のお話。
西田敏行演じる棟梁がなんかすごく真っ直ぐで、その熱意にみんなが突き動かされる。五層の天守を頂く安土城を建てるため、職人たちは棟梁を信じ、自分の仕事に誇りを持って熱くお仕事していくのですが。
不吉の影が忍び寄る。安土の山の主である大岩を、無理に動かしてしまい、惨劇が起こり・・・・・
城作りに懸ける全ての職人達の気骨を「神の手」と呼び、数々の犠牲を払いながらも史上最大の安土城を完成させた。でもまあ、バベルの塔は崩壊する運命にあるもので。
この映画の皮肉なのは、オープニングからこのお城が、たった三年でなくなってしまうことを告げている事。そういう史実を突きつけた上で、千年先まで残るような城を作ろう、と棟梁に言わせるのです。
微妙に流れが悪い気もする映画ですが、椎名桔平演じる織田信長がとってもかっこよろしかったのでもう、それだけでけっこう満足。
以下は、昨年の秋に観たやつの感想。
問い:法隆寺を建てたのは誰でしょう?
答え:大工さん
というジョークが小学生の頃にあったような。
そんな、歴史の教科書には出てこない、大工さん達のお話。
西田敏行演じる棟梁がなんかすごく真っ直ぐで、その熱意にみんなが突き動かされる。五層の天守を頂く安土城を建てるため、職人たちは棟梁を信じ、自分の仕事に誇りを持って熱くお仕事していくのですが。
不吉の影が忍び寄る。安土の山の主である大岩を、無理に動かしてしまい、惨劇が起こり・・・・・
城作りに懸ける全ての職人達の気骨を「神の手」と呼び、数々の犠牲を払いながらも史上最大の安土城を完成させた。でもまあ、バベルの塔は崩壊する運命にあるもので。
この映画の皮肉なのは、オープニングからこのお城が、たった三年でなくなってしまうことを告げている事。そういう史実を突きつけた上で、千年先まで残るような城を作ろう、と棟梁に言わせるのです。
微妙に流れが悪い気もする映画ですが、椎名桔平演じる織田信長がとってもかっこよろしかったのでもう、それだけでけっこう満足。
「薄桜鬼」 ― 2010/12/14 10:26
新撰組、「龍馬伝」では獲物を狩る狼の如き人斬り集団の凄みがあって、池田屋でも京市街で以蔵を追い詰めるシーンなんかも迫力あったんですよね。池田屋の後で沖田(多分)が鼻歌交じりに帰っていったのが凄い。
しかし二部以降は(人気があるかって)無駄にちょろちょろ画面に出しすぎたかなあ、ここにはこの人要らんやろ、と思うこともあったのですが。
最終回で中岡から、刀振り回して戦う時代が終ってしまうぞどうするんだ、ってな事を聞かれて近藤が
「わからん」
と笑みを浮かべて答えたところは象徴的でした。
そんな、時代の変革期に散っていく新撰組を描いた「薄桜鬼」TVシリーズの第二期。
話の展開がえらく速くて戦闘シーンも短いとか(そういう趣旨のハナシではないのは分かるのですが)、終盤にえらく性格が丸くなってヒロインにデレる土方とか(そういう趣旨のハナシだというのは分かるのですが)、興が殺がれる点もあったのですが。
しかし全体を通して、製作スタッフの気合の入れようがビシビシ伝わってきました。
「鬼」というファンタジー要素以外はきちんと歴史の流れに沿って忠実に激動の新撰組を描いてくれていました。
そして何といっても、徹底的に美しい。画面が、彼らの生き様が。
あでやかな襖、舞い上がる桜の花弁、あまりにもせつない流山の空。
うーん、「燃えよ剣」を読み返したくなってきた。
しかし二部以降は(人気があるかって)無駄にちょろちょろ画面に出しすぎたかなあ、ここにはこの人要らんやろ、と思うこともあったのですが。
最終回で中岡から、刀振り回して戦う時代が終ってしまうぞどうするんだ、ってな事を聞かれて近藤が
「わからん」
と笑みを浮かべて答えたところは象徴的でした。
そんな、時代の変革期に散っていく新撰組を描いた「薄桜鬼」TVシリーズの第二期。
話の展開がえらく速くて戦闘シーンも短いとか(そういう趣旨のハナシではないのは分かるのですが)、終盤にえらく性格が丸くなってヒロインにデレる土方とか(そういう趣旨のハナシだというのは分かるのですが)、興が殺がれる点もあったのですが。
しかし全体を通して、製作スタッフの気合の入れようがビシビシ伝わってきました。
「鬼」というファンタジー要素以外はきちんと歴史の流れに沿って忠実に激動の新撰組を描いてくれていました。
そして何といっても、徹底的に美しい。画面が、彼らの生き様が。
あでやかな襖、舞い上がる桜の花弁、あまりにもせつない流山の空。
うーん、「燃えよ剣」を読み返したくなってきた。
「光って見えるもの、あれは」 ― 2010/12/15 10:23
なんてうつろいやすいものなんだろう。思いっていうものは。
川上弘美作品には珍しく、高校生の男の子による一人称で語られていて、各章では国内外の詩歌が引用されているのですが、残念ながらあんまり、その引用の意味がわたしには理解できなかったりします。
もともと詩のように感じられる(理性より感性に訴えてくる)小説を書く作家ですし、句集なんかも出しているのでそれも読んでみたいものですが。
主人公・翠の世界は主に二つ、家族(祖母と母、生物学上の父親である大鳥さんなど)と学校(子どもの頃からの友人や、付き合っている彼女)で、まあ普通っちゃ普通です。
実際翠は、母親から「今日はどうだった?」と聞かれていつも「普通だった」と答えるのですが。それって何か、つまんないですよね。
友人の花田は、自分が「シミシミと」世界に溶け込んでしまう感じが嫌で、女物の服を着て登校するようになる。
彼女である水絵は、何度も翠に「自分のことが好きか」と確認して、親に見られないように自分の日記や手紙をいつも大きな鞄に入れて持ち歩く。
若い人たちは「普通」に溶け込むことに抵抗するものなんでしょうか。「普通」っていうのは一つ間違えると「惰性」に繋がってしまって、何かちょっと極端な行動にはしらないとアイデンティティが確立できないのかもしれません。
あいまいで移ろいやすい世界で、翠が確かな「実感」を求めるようになるまでの物語、でいいのかな?
川上弘美作品には珍しく、高校生の男の子による一人称で語られていて、各章では国内外の詩歌が引用されているのですが、残念ながらあんまり、その引用の意味がわたしには理解できなかったりします。
もともと詩のように感じられる(理性より感性に訴えてくる)小説を書く作家ですし、句集なんかも出しているのでそれも読んでみたいものですが。
主人公・翠の世界は主に二つ、家族(祖母と母、生物学上の父親である大鳥さんなど)と学校(子どもの頃からの友人や、付き合っている彼女)で、まあ普通っちゃ普通です。
実際翠は、母親から「今日はどうだった?」と聞かれていつも「普通だった」と答えるのですが。それって何か、つまんないですよね。
友人の花田は、自分が「シミシミと」世界に溶け込んでしまう感じが嫌で、女物の服を着て登校するようになる。
彼女である水絵は、何度も翠に「自分のことが好きか」と確認して、親に見られないように自分の日記や手紙をいつも大きな鞄に入れて持ち歩く。
若い人たちは「普通」に溶け込むことに抵抗するものなんでしょうか。「普通」っていうのは一つ間違えると「惰性」に繋がってしまって、何かちょっと極端な行動にはしらないとアイデンティティが確立できないのかもしれません。
あいまいで移ろいやすい世界で、翠が確かな「実感」を求めるようになるまでの物語、でいいのかな?
「ワンピースフィルム ストロングワールド」 ― 2010/12/20 14:35
昨年の邦画アニメーションで、No1だったとか。ちなみに今年の邦画は、「借り暮らしのアリエッティ」が一番だったそうです。どちらも劇場には行き損なっていたのですが、先日「ワンピース」の方がTV放送していたので観てみました。
さすがというか、アクションが派手ですね。空中戦はジブリの如し。大画面で観るのにぴったりでしょう。でもこれを3Dにしなくても別にええやん、と思う。
マフィア風黒コスチュームでの殴り込みもキマッていました。
でもって、一番かっこう良かったのが、ゾロ。あんなにも方向音痴なのに、一対一の戦闘をやらせると格好イイナア。
色々設定詰め込んでいましたが。
最後にちらっと漏らした、敵ボスが「東の海」侵攻にこだわった理由。あれはもっと早い段階で描写してくれれば、彼とルフィ達とのぶつかり合いをもっと別の目で見られたかもしれません。
さすがというか、アクションが派手ですね。空中戦はジブリの如し。大画面で観るのにぴったりでしょう。でもこれを3Dにしなくても別にええやん、と思う。
マフィア風黒コスチュームでの殴り込みもキマッていました。
でもって、一番かっこう良かったのが、ゾロ。あんなにも方向音痴なのに、一対一の戦闘をやらせると格好イイナア。
色々設定詰め込んでいましたが。
最後にちらっと漏らした、敵ボスが「東の海」侵攻にこだわった理由。あれはもっと早い段階で描写してくれれば、彼とルフィ達とのぶつかり合いをもっと別の目で見られたかもしれません。
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