「平安妖異伝」「道長の冒険」2010/05/14 01:39

 1300年祭とやらで、奈良が注目を浴びていますが、あえて平安京を。

 藤原道長、まだ二十代半ばで、まだ摂関家の五男坊で政治の中心部に入り込む気配の無かった頃。彼が遭遇する怪異と、それを助ける少年・秦真比呂の短編連作集。
 なんか、読んでて眠くなるんですよねえ。平岩弓枝作品は、庶民の江戸情緒は凄く生き生き描いてくれるのに、京の貴族の雅やその裏の暗黒は、なんだか曖昧で。
 私が日本史に疎いせいもあるかもしれません。現代の子供の名前は読み方が分からないってよく聞きますが、昔の人の名前の方が読み方分かりません。物語の核となるのが、真比呂の操る音楽・楽器なのですが、「篳篥の音色」と書かれていても、私には想像しづらいっていうか。
 真比呂は楽器の心を解し、音楽の力を操る超能力少年で、たとえばハーメルンの笛吹きみたいな芸当も成してしまうのですが、この子があまりにも何でも知っていて何でもできてしまうのも、緊張感がなくなってしまう一因でしょう。「蛙人」なんかは、ちょっとホラーっぽくていい感じだったかなあ。

 ところが、その続編となる「道長の冒険」は、同じ小説新潮連載(前者は99年から2000年、後者は03年から04年)とは思えない、趣の違う作品で、私はこちらのほうが好みです。
 副題には「平安妖異伝」とありますが、舞台はほとんど京から離れた異国で、道長イン・ワンダーランドって感じです。ウサギならぬ猫の寅麿をお供に、根の国に捕らえられた真比呂を救出する旅に出るのです。
 道長って、「この世はわが世」っていう、ちょいと調子に乗ったこと言ったために悪いイメージを持たれがちですが、この小説の道長はすっごいいい人です。前作の中納言から大納言に出世してますが、やはり出世欲はなく権力をカサにきたところも無く、旅先で出会う困っている人たちを見捨てておけない親切な人です。
 そうやって、人助けしたり妖怪退治したり神仏精霊の加護を得たりして旅をしていきます。子供の頃に読んだ冒険ファンタジーを思い出させる懐かしさ。こういう冒険譚の発展系として、後の平岩版「西遊記」に繋がっていくのですね。
 しかし、なんていうかこう、道長さん。真比呂君のことがめちゃめちゃ大好きですよ。台詞がちょっと、恥ずかしい……

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