「キャプテン・フィリップス」2013/12/12 10:30

 せっかく難波まで出て行ったので、映画一本観てきたのですが。
 これが、ものすごく、観にくい。画面が常にグラグラ揺れて、カメラが人物に肉薄するような撮り方が多用され、カット割りが細切れすぎて絵が次々切り替わるもんだから、目が痛い、シンドイ!
 実話を元にした話なので、ドキュメント風に臨場感を出す演出なのか。
 登場人物たちの焦りや混乱を表現したのか。
 脚本は、結構好きなんです。
 ソマリア沖で米国船が海賊に襲われ、どうにか船は守ったものの、船長が人質にされて、米海軍が出張って来て、交渉と、救出劇。
 よくあるパターン、と言えば、確かに普通によくある米国映画なのです。しかし。
 実話に基づくだけあって、細かい点がリアル。
 さらにリアルなことに、主人公がヒーロー然としていない。
 こういう話では、主人公は脱出者であっても救出側であっても、知恵と勇気と英雄的活躍を見せてめでたしめでたし、ってなもんです。
 しかし、トム・ハンクス演じるフィリップスさんは、もちろん船長として適切な対応をしているのですが、はっきり言って、派手な活躍シーンはないのです。
 救出にかかる米海軍の皆さんはいかにもプロフェッショナルって感じでキビキビしているのですが、そこは脇役であって、主役は、なんか普通。
 普通のオッサンがリアルな危機に直面し、どうにか死地をくぐりぬけた。
 そんな感動のある、ラストシーンでした。

「爪と目」2013/12/13 22:23

 藤野可織の、芥川賞受賞作。
 たいへん、面白かったです。やっぱり関西出身(京都)の年の近い(80年生まれ)の女性作家さんの作品は、読みやすいです。
 どこがどう面白いのか説明するのは難しいのですが。
 語り手である「わたし」が「あなた」について述べる、二人称の形が上手く機能していて、作品の不気味さが倍増しています。
 語り手は三歳児、という形で、実際はそんなわけない(彼女の知りえない過去の事象や心情なども語られている)のですが。
 時空も人の心の深層までも見通す千里眼の、三歳児。
 大きな痛みも喜びもない空虚な人間像を、さらに冷めた目でみつめる、三歳児。
 というイメージの中で物語は進んでいきます。
 タイトルから、ラストシーンはこの三歳児の爪が「あなた」の眼球に突き刺さるのではないかとドキドキしてしまったのですが、そんな猟奇的展開にはなりませんでした。
 あくまでも幼児のイタズラの範疇(ギリギリ)に収めてしまったからこそ、彼女たちの生まれながらに冷めきった人間性に、リアリティが添えられた感じもしました。

「路」2013/12/14 21:44

 異国で出会った青年。彼のスクーターの後ろに乗って、素敵な休日を過ごした思い出。
 ・・・とっても古典的な映画のようなシチュエーションを、持ってこられました。
 物語の舞台の大半が台湾で、本書のタイトルも「路」と書いて「ルウ」と読み、他にも地名や人名は台湾語読みが多いのですが、初出のときしかルビが降っていないので、さっぱり覚えられず、結局主要人物ですら名前の読みが分からないまんまで読み通してしまいました。
 吉田修一の新境地、と昨年の書評で高評価だったもので期待していたのですが、思っていたのとはちょっと違いました。
 台湾新幹線の開発がメインストーリーだというのでプロジェクトX的なモノを予想していたのですが、そこは物語の「背景」に留まってしまいました。
 物語に中心が無く、各登場人物たちのそれぞれの、群像劇となっているのがあんまり上手くなくて、いろいろ詰め込まれているけどみんな薄味な感じです。
 たとえば主人公の娘さんは明るくて前向きでとっても好感度高くて、でもその清々しささがストレスでウツになっちゃった彼氏にはちょっと重荷になって来て・・・・とか割とよくある話を、普通に描いていて、なんか盛り上がりません。
 人の心の深奥に肉薄する熱さや、ありふれた人の営みを温かく描くあたりが吉田作品の好きなところで、確かにそういう要素もあるにはあるけど、やっぱりなんか薄い。
 明るい南国の風俗を描く辺りは、筆者の新境地として興味深く思えました。

「北のカナリアたち」2013/12/17 09:34

 昨年の映画が、もうTVで放送されてしまいます。最近はTV局が制作している映画も多いですし、劇場公開を見逃してしまったときなんか、有難い話なんですが。
 どうせすぐTVでやるだろう。と、思われる映画は劇場へ観に行く優先度がぐっと下がってしまうんですが、そのへんは、映画関係者の方々はどう思っているのでしょう?

 原作、湊かなえ。未読。
 生徒たちの個々のエピソードは結構既視感があって、割と普通なのです。
 普通のエピソードと普通の人間心理を、丁寧に積み上げて行って、ちゃんとラストシーンの感動へつなげていきます。
 北国ロケの自然の風景、大御所から若手まで演技派キャストを集めて、本当に良い作品だと思います。普通に。
 この映画で最も普通でないっていうかインパクトが強かったのは、子供たちの歌声でした。心が洗われます。なんかもう、理屈なしに美しく説得力があります。
 生きるって、辛いね。
でも、胸に素敵な思い出も残っている。

「恋」2013/12/18 10:31

 原作は小池真理子の直木賞受賞小説。
 TVドラマでも、ヘタな映画顔負けに意欲的で刺激的で美意識のある作品って、けっこうあります。
 メイン四人のキャスティングがハマりすぎでした。影のある英文学者、奔放で華やかなお嬢育ちの奥さん、地味系で一途な女子学生。その三人の奇妙な関係の中に、軽井沢で出会ったワイルド系の男が現れて、事件が起こる。
時代は70年代。恋愛ものではありますが、軽井沢とか高級レストランとか煌びやかなセレブ設定と、倒錯的な愛の形が、非現実的な空気を醸し出します。
 石原さとみの、干からびていく蛾をみつめる風情がゾクゾクします。最近ではこういうの、やんでれっていうんでしょうか。
ワイングラスに舞い込む桜の花弁
薔薇の表紙の洋書
誘蛾灯の蒼いひかり
十五年後に薫り高い実をつける苗
重たげに弾丸を飲み込む猟銃
・・・作品を彩る小道具も完璧でした。
作品世界を盛り上げる洋楽も、とってもオシャレ。

「ウォールフラワー」2013/12/20 10:56

1999年出版のベストセラー小説が原作で、原作者自らが脚本と監督もやっちゃった。しかも若手のイイ役者さんがいい演技魅せてくれて、スティーブン・チョボスキーさん映画作ってて楽しかっただろうなあ。

 パーティー会場の輪に入れない、壁の花。
 友達0人の作家志望チャーリー少年のスクールライフ、ということなので、どんなに暗い話かと思ったら、とっても爽やかでした。
 チャーリー君は両親からも兄さん姉さんからも愛されていて、自分の才能を認めてくれる先生に目をかけてもらって。同級生には友達出来なかったけどハミダシ者上級生のグループに入れてもらってからは、パーティーで踊り、音楽と文学に震え、コスプレショーに参加し、真夜中のドライブ、クリスマスプレゼントのタイプライター(時代が90年あたり)、彼女もできた。女関係で仲間とギクシャクすることもあったけど、それもまた青春ってやつでしょう。
 内気な病院出の少年が、壁から一歩踏み出して得た、一年間。
 ゲイにドラックにパーティーに音楽。これにエイズが加われば20世紀末米文学の主要要素制覇って感じなんですが、青春モノなので、柱となったのはココロの病の方でした。
 悲しみを抱えながらも、共にいる瞬間、高ぶる気持ちに身をゆだねる瞬間、彼らは無限を感じる。無敵の青春です。
 主人公のナイーブさを好演したローラン・マーガンも、ハーマイオニーのイメージの強いエマ・ワトソンンの美しさ(ショートヘア可愛い)も良かったのですが、エズラ・ミラー演じるパトリックがとってもチャーミングでした。
 陽気で饒舌でエキセントリック、でも気さくで優しくて、にっこり笑顔が魅力的。
 原作も読みたい。

「希望の壁」2013/12/21 09:04

 安藤忠雄、先日フランスから文化勲章もらっちゃいました。

 梅田のスカイビルにできた植物の壁、先月観たときは「仰々しいくせに武骨でパッとしない」と思っていたのです。
「希望の壁」というそうですが、でっかいばかりでなんかチグハグ。
すぐそばに、自然の風景を模したカワイイ庭園があるので。その横に、見るからに人工的な鉄骨に植物植えたのをドカンと持ってくるのが、なんか合わない。
 ところが。
 大阪ステーションシティの11階から見ると、それはキレイに刈り込まれた「生垣」に見えました。
 巨大ビルの存在感に埋もれてしまわないサイズの。
 あの壁は近接して細部を見るより、スケール感を味わうのが正しかったのかもしれません。

「おおかみこどもの雨と雪」2013/12/22 09:21

 金曜ロードショー。
 本屋で文庫本を立ち読みして「よくまとまったエエ話や」とは思ったのですが、そこでなんか満足してしまって劇場に行く気は失せてしまった作品。
 文章がさらっと読めすぎるってのも困りもんだと思いました。
 しかし映像つきで観てみると、文庫本でイメージしていた以上に感動的でした。ヒロインたちの日常風景とか、田舎の廃屋が掃除されて美しい姿を現してくるとこか、子供たちのまなざしとか。
 雨ちゃんが可愛らしかったです。やんちゃな子供が娘さんになっていく。
 子供たち二人が年齢とともに変化を見せるのに対して、母親の花さんの方は、まったくブレの無い印象でした。素敵な恋人素敵な奥さん素敵なお母さん。
 この人があまりにもひたむきでパワフルでくじけない人で、若い娘さんらしいところがまったく感じられなかったのですが。
 いや、そもそも女というものは、母親というものは、そういうものなのかもしれません。
 強くて、美しい。

「不機嫌な果実」2013/12/23 22:32

 有名作家の有名作品でありながらちゃんと読んでいない。その代表が、林真理子。
 この人の作品はナマナマしい感じがしてちょっと躊躇っていたのですが。
 でも、面白かったです、リアルで。
 こないだ観た「おおかみこども」のヒロインが男目線の理想的女性像を描くおとぎ話だったのと対照的でした。
 女性作家によって描かれる、女の狡さ浅ましさ貪欲さ高慢さ見栄っ張り、妄想に酔いしれるイタイ姿が、本当に赤裸々。
 去年観た「ヘルタースケルター」も女の「チヤホヤされたい願望」な映画でしたが、こちらのヒロインが圧倒的な人気者になるためには何でもやってやるって感じだったのに対して、「不機嫌な果実」での麻也子さんはもっと計算高いです。
 安全地帯への逃げ道を横目で見ながら、男たちとの逢瀬を重ねていく。
 しかし彼女は、その欲深さゆえに満たされない。そこそこいい感じの生活をしているハズなのに。
結局、自分ばかりが損をしているような不機嫌さを内に抱えて、女は、己を満たす喜びを求め続ける。

「パーク・ライフ」「flowers」2013/12/24 21:58

 地上のデコレーションが派手でも、中身がすかすかのケーキなど、あまりありがたいものではない。
 という、吉田修一の2002年芥川賞受賞作。
 外側から感じられるイメージと内実とのずれを、「中身がすかすか」のまま淡々と描かれています。
 中身がなくてもゆるされる「公園生活」を楽しむ主人公は、それゆえにちょっと気になる女性が現れても、その内実に踏み込めません(名前も訊けないレベルで)。
 人は、うわべのイメージに簡単に感化されて、それに安心して生きていく。

 賞を取った「パーク・ライフ」よりも、本書に収録されたもう一遍「flowers」の方が、断然面白かったです。テーマ的に前者とかぶる部分もあるのですが「中身」の部分に何かがしっかり詰まっています。
 花のような、切なさが。
 雨のような、激しさが。
 どこら辺が面白いのかは、説明しづらいのですが。キャラが立っています。
 主人公の職場の先輩・望月元旦は趣味が我流いけばな。自分が徹底的にバカにされているバラエティーの録画を嬉しそうに他人に見せる人で、職場でパワハラ被害にあっている永井さんをバカにしていて、ある日やりすぎちゃって、主人公や他の同僚たちから袋叩きにあう、という・・・・・
 屈折した二重人格、やってることは無軌道自分勝手、でもなんか憎めない。
 愛があるから、切ない。