「氷山の南」2014/02/14 11:50

「密航なんかしたのは、何か手応えのあることを通じて自分の力を確かめたかったからだ」
・・・・少年が自分探しの旅に出る、というのはよくある話ですが、南極まで行っちゃうのはなかなかないよねー。

 冬季五輪に合わせて、北海道出身作家による、雪と氷とインターナショナルな世界。池澤夏樹は日本の純文系で冒険小説を書いてくれる、数少ない作家さん。
 時は2016年、水不足解消のために南極海から氷山(サイズ、一億トン)を船で引っ張ってくる計画で、少年は船に潜り込んで、パンを焼き、船内新聞を発行する職に就きます。
 船の中には様々な人たちがいて、オーナーはムスリム、船長はギリシャ人、パキスタンやフィリピン系の船員、中国人コックにフランス人ヘリパイロットにイタリア人気象学者にイギリス人心理研究者にケニア人エンジニアにアメリカ系チャイニーズの生物学者・・・・私がなんとなく好きだったのは日本人整備士の野口さんでした。できれば、登場人物一覧みたいなのも欲しいところ。主人公はそうした人々にインタビューして、発行する新聞は船内でバラバラに活動している人たちの紹介文みたいな面もあったことと思います。
 氷山の上でオペラコンサートがあったり、氷山の上でお泊りキャンプをしたり、氷山の周りをカヤックで一周したり、氷山の上で隕石を拾ったり、オーストラリアをヒッチハイクで北上してブッシュを歩き回ってアボリジニの巨大天井画を観たり、南極大陸の氷の聖堂へ行ったり、皇帝ペンギンの営巣地を観たり(コレ羨ましい!)・・・・・世界ふしぎ発見のリポーターも敵わないほどの冒険活劇です。
 その一方で、とてもスピリチュアルな思想小説でもあります。主人公はアイヌの血をひいていたりアボリジニの友達がいたりして、世界と人とのあり方を意識します。人間の営利のためにわざわざ氷山を持ってくる活動に不自然さを感じる一派も登場します。
 一人称と三人称が混在したような文章で最初は読みづらく感じたのですが、この文体にもちゃんと意味があったのだと、あとで納得できます。
 氷山の上での断食修行(セルフ成人の儀)での朦朧とした意識の中で、彼らは自己と他と宇宙と一体になる不思議体験をします。宇宙誕生を経験した、隕石に導かれて・・・・
 最近の若い人は、とか、ゆとり、とか言われている年代ですが、彼らの素直で優しくて自由なところって、頼もしいものだと、思うのです。