「マンチェスター・バイ・ザ・シー」2017/07/01 02:00

慣れした親しんだ地元だからこそ、離れたい。そこに居られない。
アカデミー賞で主演男優と脚本賞とった作品。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」までが町の名称で、コンサートテロのあったイギリスのマンチェスターとは別物です。
無愛想で情緒不安定な男が、兄の死をきっかけに故郷へ戻る。折に触れて、友達や家族に囲まれて楽しげだった過去が再生されるのですが。
結局のところ主人公のリーは、悲しみを克服することはできません。観客も、そしておそらくは心臓を患って亡くなった彼のお兄さんも、彼が故郷に戻って昔のように活き活きした生活を取り戻すことを期待してしまうのですが、そうそう簡単に乗り越えることはできません。
主人公の元奥さんは、年月を経て人生の再出発を始めました。
主人公の甥っ子は、父親が亡くなったり母親に受け入れてもらえなかったりと円満な家庭環境とは言い難いのですがそれにもかかわらず部活やらガールフレンドやら高校生活を充実させることを最優先に考えています。
しかしリーは、罪の意識から逃れられません。どうしても。
それでも、いつの日か虚しく苦しい人生から逃れたい、とは思っているのでしょう。
ほんのわずか、0.5歩だけ、前に進んだかな?

「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」2016/01/30 15:33

映画を見た後飲み屋で一杯やったのですが、そこのお客さんの一人(私と同年代くらい?の兄ちゃん)は大絶賛。もうお一人、もう少し年配の背広のオッチャンは世界観があわなかったそうで、途中で映画館を出てしまったとのこと。荒野にゾロゾロ美女たちが現れるあたりは見てないって、そこから、物語は転がっていくのに……

昔からのシリーズものを今更見る気にならなくってノーチェックだったのですが、どこの映画評でも大絶賛。
そこで、キネマ旬報15年外国語映画部門一位記念で緊急上映されたのを、遅ればせながら鑑賞。
北斗神拳のない(したがってケンシロウもラオウもいない)「北斗の拳」、って感じで、「このイカレタ時代へようこそ♪」な映画です。水なし、石油なし、文明崩壊世界で、広大な荒野で繰り広げられるカー・アクションが売り。アクションはCGなしの方が武骨でカッコ良いと再認識。
爆走車上でギター弾きまくってるバカとか、あらゆる方面でやりたい放題なクレイジーを楽しむ作品。勢いが9割ですが、のこり1割細かい部分の設定も確固として、この世界に引っ張り込まれます。
主人公のマックス(トム・ハーディ)以外では、やっぱりフュリオサ(シャーリーズ・セロン)が美人で格好良かった。この女戦士が次回続編の主人公って噂も納得。
それから、どう見てもヤバい感にイカレタ戦士だった男が、自らの肩のヤバい感じの瘤(腫瘍だよね)に顔を描いて名前を付けて「友達」と言う……イカレタ世界でもイカレタなりの人間性ってのがあるのだなあ。
ヤバい、という単語を形にしたような映画でした。

「ミスト」2015/11/22 09:34

猛烈に、救いのない映画。原作がスティーブン・キング。
霧の中から化け物がうようよ現れて、人々を襲う。主人公たちはスーパーマーケットに立てこもり、でっかい虫や触手お化けや人間のパニック・狂気と戦います。
化け物との戦いってことで、「進撃の巨人」とか「ベルセルク」とかのイメージもありましたが(巨人並の巨大化け物も登場)、そうした漫画にはない要素が、現代アメリカにはありますからねえ。
終盤の絶望感が半端ナイ(ネットで調べたら、あのラストは映画オリジナルらしい)。えげつない。可哀想すぎる理不尽。パニックな人たちの中で比較的冷静に見えた人たちも、やはり異常事態の中で判断力が失われていたっていうか・・・・
映画では小説よりはるかに狭い描写範囲に違いなく、その中でけっこうたくさんの人が死んでいき、さらに、わずかな登場シーンであってもその人物がどういうキャラクターなのかなんとなく察せられる、その脚本の構成力が素晴らしいと思いました。

「舞妓はレディ」2014/09/21 00:32

 このタイトル、この監督、このキャスティング。まずハズレは無いだろうと思っていましたが、期待以上に面白かったです。「Shall we ダンス?」「マイ・フェア・レディ」をおさらいして観ればなお楽しめそうです。
 突然ヒロインが歌い出すのにびっくりしましたが、すぐに入り込めました。楽しいから。「Shall we ダンス?」は中年男の新たな青春を描いていましたが、「舞妓はレディ」は15、6の少女を周りの大人たちが助けて鍛えて、成長させていくシンデレラストーリー。そういう意味では予定調和な物語なのですが、歌とダンスを花街の世界に取り入れて、それがとっても自由。ミュージカル仕立てっていうか、ボリウッド映画っぽい。
 サントラの購入を真剣に検討したくらいなのですが、こういうのは画面上のダンスシーンが無いと曲だけではイメージ変わったりするからなあ。
 主役の上白石萌音さん、全く知らない俳優さんでしたが、歌も踊りもお上手。「マイ・フェア・レディ」のイライザは激しくおきゃんな性格でしたが、春子ちゃんの方はおぼこい感じの娘さんで、硬い表情で言葉少なだった田舎娘が、洗練されてなおかつ初々しい可愛らしさも残した舞妓さんへとステップアップする様は、分かっていても感動的。
 それから、長谷川博己の格好よさ大爆発です。こんな素敵な言語学者さんに教えてもらえるんなら、京言葉でも薩摩弁でもマスターしましょうってもんです。
 他に田畑智子、竹中直人、富司純子など、安定した存在感の役者さんたちが目白押しで、歌って踊って盛り上げてくれました。
 観終わった後もテーマソングが耳に残ること請け合い。楽しい映画でした。

「毎日かあさん」2014/01/05 15:37

 新春恒例ですが、年末年始にTV放送された映画を見まくっています。
 
 ホームドラマ、なのですが。
 何が凄いって、小泉今日子演じる「かあさん」がたいへんスーパーです。
 絵の仕事がしたい、という若い頃からの希望通りに漫画家になってバリバリ働いて家を建てて。
 この家が、立派で。日当たり良くて暖炉らしきものがあって、小さい子供が二人もいるのにとっ散らかった感じがしません。なんていうか、銀行でもらったタオルとか使ってなさそうなキレイさです。
 子供たちが寝る前には好きな酒を飲みつつ絵本を読んであげて、徹夜明けでも一緒に遊んであげて、どんなにアホでも「子供は叱らない、ほめて伸ばす」主義。漫画家という特殊な職業であっても「母」の肩書があればママ友仲間から浮いてしまうことはないようすで、他のママさんたちと一緒に子供やダンナの悪態で大盛り上がり。
 アル中で何度も入退院繰り返す夫に小気味よく悪態ついて離婚届突きつけて、それでも「お酒やめたら戻っておいで」と言えてしまう格好よさ。
 ベストマザーにも程があるっていうか。ここまでパワフルで懐広くないと「かあさん」になれないものなのか。
 映画的脚色で、大変理想的な「かあさん」ができあがっていました。
 一つ惜しかったのが、ヒールが高すぎたことでしょうか。仕事でお出かけ時なのでキチッとした服装なのは分かるのですが、四十過ぎの母親に、あのピンヒールはなんかアンバランス。
 徹夜明けでよれっとした格好していてもさすがに魅力的だった小泉今日子が、オシャレな靴によってかえって安っぽく見えてしまった皮肉。

「もう一人の息子」2013/11/18 22:36

 赤ん坊取り違え問題。っていうと、最近の「そして父になる」とネタがかぶりますが、大きな違いは、問題発覚時に赤子は18歳まで成長していることと、彼らの一方はイスラエル人で、もう一方がパレスチナ人であることです。
 でも、いち早く仲良くなっていったのが二人の母親だったってのは、「そして父になる」とおんなじです。母親にとっては、自分の産んだ子供も長年育ててきた子供もどっちもカワイイ。そんな感覚は、万国共通なのでしょうか。
 しかし、お国事情が違うと、人の感じることも違ってきます。「ユダヤ民族ではない」ことでアイデンティティー喪失してしまったり。「土地を奪った奴ら」と知られて、仲良しだった兄貴からいきなり冷たい態度をとられたり。
 ちゃんと現地でロケをしてスタッフもイスラエルやパレスチナの人たちが含まれますが、フランス映画です。
 たいへん無茶でハードな設定なのに、レヴィ監督は、割と穏やかな作品にしてしまいました。フランス人女性っぽいっていうか。
 もしも、家族だけじゃなくて隣近所友人にも「正体」が知られてしまったりしたらエライことになりそうですが、そんな破滅的な展開はなく、もっと地味で淡々として、しかし影のように2組の家族から離れない現実、として描かれます。
 二人の息子たちは、もちろん葛藤はあるのですが、どちらもけっこう物わかりが良いです。自分のもう一つの家族、もうひとりの自分を、きちんと受け止めたうえで、今の自分を生きて行こうとします。
 そもそもユダヤ民族とアラブ民族、容貌からもっと早く異民族ってことに気付かないのもなのか、って思っていたのですが。・・・・どちらも、同じ東洋系で、うんと違うことはないのだと、主張しているのか。

「マーラー 君に捧げるアダージョ」2011/05/21 17:14

 女にとって大事なのは、仕事か、家庭か。

 MAHLER AUF DER COUCH……カウス椅子の上で、マーラーさんがフロイトさんの心理分析を受ける話。
 表現方法が独特で、映像は夢の中のようにリアリティが薄い。現在と過去の回想、インタヴュー風状況解析でブチブチと話が切られてしまっていて、最初ひどく入り込みにくかったのですが、「フロイトの心理相談なんやし、これはリアル風景じゃなくてフロイトさんによる心象風景の再構築として観たらいいのか」と割り切ってからは大丈夫になりました。
 マーラーの生誕150年、没後100年記念作品。スウェーデン放送交響楽団をはじめとする音楽はとっても豪華だったですが、残念ながらマーラーさん個人の好感度はガクンと下がってしまう映画でした。
 たとえ本当のことだったとしても、「君の音楽の才能はたいしたことないから、私のパートナーとして妻になってほしい」ってな態度はいかがなものだと思う。激しく傷つきながらも、マーラーに従ったアルマさんでしたが、どんどんストレスがつのっていきます。
 マーラーさんは考え方が古すぎた。彼なりにアルマさんを愛していたわけですが、彼女の苦悩を知りもせずにいい気なもんだとしか言いようがない。
 結局、奥さんに浮気されて苦しむマーラーですが、そこへ、フロイトさんが逆転の一言を。
 最終的には美しく愛に満ちた感じで終るのですが、しかしやはり「いい気なもんだなあ、この男」と、釈然としないモノが残ってしまう。

「名探偵コナン 天空の難破船」2011/04/17 16:40

 こないだ映画館に行ったら、過去のコナン劇場版全作品のポスターを一覧にして張り出してあった。G.W時期の恒例作品、ずいぶんたくさんありますね。毎年、よくネタを捻り出してくるものです。
 見たことあるやつも、無いやつも、見たような気はするけどよく覚えてないものも。
 でも、大概は、劇場ではなくTV放映で観てます。

 ハイ・ジャックはされても、難破したわけではありませんでした。
 コナン君は爆弾処理までできちゃいます。賢いだけでなくて、あのボディでちゃんとアクションもやって、ほぼ一人で複数のハイ・ジャック犯たち(プロの傭兵)を倒しているからスゴイもんです。
 メカを駆使しての戦闘は派手だけどけっこうコミカルっていうか、銃弾が発射されてもそれで主人公が致命傷を負うわけありませんからね。で、一番印象的だったのはコナン君がごくシンプルに空飛ぶ飛行船から放り落とされてしまったシーンでした。あれは怖い、普通は助からない。
 怪盗キッドが新一君と同じ顔してるってことは、もう完全にネタなんですね。「怪盗キッドって新一だったの!」思いっきり騙されて悩みまくった上にセクハラ被害にまであってしまった、気の毒な蘭ちゃん。
 面白かったけど、正直、有名人を声優起用するためだけのゲストキャラって、要らないなあ。
なんか冷めちゃう。

「MW」2010/10/10 23:54

 昨年の夏に観た映画。
 最近観た「大奥」に出演した玉木宏と、「十三人の刺客」に出演した山田孝之が共演。
 山田孝之も嫌いじゃないんですが、玉木宏と比べるとなんか華やぎに欠いて見えるんだよなあ。




 手塚治虫80thアニバーサリーって、他にもいい作品はありそうなものなのに、あえてコレですか。原作未読ですが、読みたいような避けたいような。
 稀に見る真っ黒なダークヒーローなのに、それでも格好よく見えてしまうのが凄い。
 玉木宏の演技力が秀逸でした。怖い。復讐のために殺すっていうよりむしろ、殺すために殺す。もちろん凄まじい恨みとか執念とかも察することはできるのですが、ことさら情感に訴えることなく、また小難しく哲学語ってシラケさせることもなく。「毒ガスを吸って」「モンスターになった」それで納得させられる狂気の姿。
 決して楽しい気持ちにはならない。
 演技といいカメラワークといい音楽といい、冒頭の島民虐殺全部焼却シーンからずっと、大きな分厚い甕の中に閉じ込められたような息苦しい感じで引っ張っていくのですがそれが途切れたのが船のシーン。
 それまで悪意以外の人間性を全て殺ぎとって、計算高く落ち着いて(けど冷たい感じとも違う。目に力が篭るから)行動してきた主人公が、ほんの短い間だけ動揺を見せた。子供の頃共に島を逃げてきた「相棒」を、勢いに任せて海に突き落としてしまった時。
 そこからはあんまり怖くなくなって、わりと普通にクライマックスへ。

「名探偵コナン 漆黒の追跡者」2010/04/17 21:31

 昨日は冷たい雨降りでしたが、今日は春らしい、いい天気。
 洗濯物をたたみつつ、昨夜録画してあった金曜ロードショーを観てた、土曜の午後。

 嘘みたいに毛利探偵事務所に関係のあった刑事さんが勢揃い、な広域捜査本部とか。
 とにかくツッコミどころ満載ですが、秘密の組織なハズなのに、あんなにも派手な動き(ヘリで京都タワーを銃撃、その後嘘みたいな反撃を受けて墜落)を見せてしまって、事件後どういう形で処理されたのか、後日談が非常に気になります。
 コナン君も単独でドンドン動いていたし、どう言い訳したのでしょう。私の好みでいえば、探偵といえば相棒が必須で、誰かと組んで事件を追って欲しかったかなあ。
 登場人物がたくさん出てくる劇場版コナンですが(そして、話の焦点がボヤケてしまうことが多いような)、MBPは、蘭ねえちゃんへ。東京からコナン君探しに速攻で京都まで移動した行動力と空手アクションに拍手。
 今年も映画やるそうで(今年はキッドですか)、バンバンCMやってますが、まだ続いているんですねえ、コナンって。もういい加減、黒の組織と決着つけてほしいんですが。