「プレゼント」2020/04/02 23:14

懐かしくって再読。若竹七海のミステリは、ときどき無性に読みたくなる。
NHKのドラマ版は主人公が必要以上にぶっきらぼうで態度悪くて首を傾げたのですが、可愛らしさよりシニカルを全面に出す姿勢はよく伝わります。そう、このシリーズは葉村のキャラクターが命。
ドラマ版は第一話のみ中公文庫から、それ以降のお話は文芸春秋社から。
初めて読んだのは確か私が高校生の時、葉村はまだ二十代半ばのフリーター。他の探偵キャラと変わりばんこで主人公をやる短編集で、表題作の「プレゼント」も彼女が主役じゃなかった。それが出版社を変えて単独主役の短編集「依頼人は死んだ」が、さらに長編の「悪いうさぎ」まで出て、正直嬉しかった。
気に入りのキャラクターだったのです。昔読んだときはタフでクールなイメージが強かったけど、改めて読むと結構情に篤く義理を重んじる人物だと思いました。
女探偵が挑むのは、事件と言うより、狂気だと思う。あるいは極端なエゴイズム、当人は真剣に自分に正当な言い分があると信じて他者を攻撃し踏みにじる。その姿は滑稽でもあり危険でもありおぞましくもある。葉村はそれに振り回されたり首をつっこんだりして、実はけっこうダメージを負います。
傷つくから共感が生まれ、それでも潰れないから応援したくなる。

「八年越しの花嫁 奇跡の実話」2020/04/06 23:34

2017年のヒット映画。普段こういう難病お涙頂戴的恋愛映画はあまり見ないのだけど、ノーカットTV放送だったから。
ドラマの「恋つづ」では計算されつくされた圧倒的な色気を出していたけど。この映画のような素朴系でも、ただ何気なく立っているだけで絵になる。佐藤健の格好良いこと。
しかしより難易度の高い演技を見せたのがヒロインの土屋太鳳ちゃんでした。彼女は「るろ剣」の操ちゃんでもイイ味出すなと思っていたけど。元気な状態の勝気な姿と、脳の病気を患った姿の落差。昏睡状態でもただ寝ているだけじゃなくて、手に不随意運動があるのだねえ。奇跡的に意識が回復してからも、定まらぬ視線、回らない口で歌い、動かない四肢でリハビリ。
女優としての美しいポーズをかなぐり捨てて、リアル難病患者を演じる。
そんなピンポイントな記憶喪失あるのかしら?とも思ったけど(この物語がどの程度実話に忠実なのか……)
難しい病気で先の見えない状態でも。
常に心にある、相手への思いやり、愛情。

「魔女の宅急便」2020/04/18 17:20

昨年の今頃は図書館で借りた原作小説シリーズを読んでキキちゃんの成長に感動し、魔法の不思議にトキメいていたものですが。
ジブリ映画版は、設定だけ借りてストーリーはほぼ別物なのですが、これはこれで面白いのです。ビジュアルが付くと、ヒロインの幼さがつきつけられる。この幼さで独り立ちってかなり大変なことで、原作にあった「おすそわけシステム」は緩すぎるからか、ふつうに料金徴収する宅急便稼業になっていました。
田舎から都会へ、夢がふくらんだり、失敗したり、素直だったり、こじらせたり、頑張ったり、助けられたり、スランプだったり、そしてクライマックスのデッキブラシ飛行。キキちゃんの一喜一憂が、なんか微笑ましくなってくる点は原作のイメージと重なるなあ。
黒猫の軽快な足取りとかでっかい犬さんの頼もしさとかエンディングでチビッ子が黒服ブラシでコスプレしてたりとか。
感動と、楽しい要素満載の映画。

「名探偵コナン 紺青の拳」2020/04/18 17:29

昨年の劇場版コナン。今年の劇場版は公開延期(映画館も次々休館で開いててもお客さんに足を運んでもらえない)で、夏休み映画とかになってしまうのかしら……
実は京極さんはけっこう好きなキャラクター。格好いい。にもかかわらず、登場するたびになんか笑えるという一粒で二度オイシイ人物。最強の空手家なだけあって、全てを力技でねじ伏せる、常軌を逸した強さに笑ってしまう。
尋常ではない点では怪盗の変幻自在も博士の発明品もたいがいなのに、どうして京極さんだけここまで(笑)になってしまうのだろうか……
物理的に最強な相手に対し、精神攻撃という敵サイドのやり方は、言われてみれば常道なんだけど、めっちゃ効果的だった。縁起担ぎとかも気にする人なんだなあ。
舞台となったシンガポールはひどいことになる。劇場版コナンは画面を派手にするために必要以上な破壊行為に走りがちで、犯人たちが超迷惑な頭わるい人になってしまうのが残念。
オールキャストとかじゃなくて、今回みたいに登場人数絞った(少年探偵団ほぼ出番なし)方が面白い。お嬢様の前髪下ろしたお顔が新鮮。

「密やかな結晶」2020/04/20 22:48

そういえば、この作者はアンネ・フランクのファンだったなあ。嵐のような外界から身を隠す、ひっそりとした空間で息を殺して、支援者とのみ交流する。その閉塞感を、苦痛と言うよりもむしろある種の快感として描く。
人は案外、恐怖も不自由さも受け入れて、楽しんでしまうのだろう。
小川洋子の94年の作品、ブッカー賞の候補、なのでまだ受賞したわけじゃないのだけど、最近では珍しく明るいニュースだと思って、学生の時以来の再読(内容はすっかり忘れていた)。
おそらく日本と思われる島では、次々と「消滅」が起こる。帽子や、カレンダーや、香水や、ラムネや、小説や、小鳥や、左足など。それは物理的であり自然現象でもあり、人々の中から概念ごと失われてしまう。しかし、消滅してしまったものを捨てずに覚えている人々もいて、それを狩り立てる秘密警察が存在している。……なんとなくだけど、英国知識人の好みそうな設定だ。
この辛気臭い小説を読んで改めて思ったのが、私は昨今はやりの「不要不急」という言葉が嫌いであるということだ。
百歩譲って不急であることは認めても、簡単に不要って言うな!図書館も高校野球もコンサートも映画も飲み屋も不要なんかじゃないぞ!ちゃんと「お急ぎの要件でなければ遠慮してね」って言ってよ!