「鳩笛草」2022/01/23 21:57

表題作の他に、「燔祭」「朽ちてゆくまで」2編収録。光文社文庫プレミアムって要するに、新装版ってことでしょう。
予知能力、発火能力、他者の心を読む。宮部みゆきのエスパー物。主人公が特殊能力持ちって昨今のエンタメ作品では珍しくもないのですが、物語の巧みさで、とても面白く読ませてくる。前世紀の作品で昭和の香りにちょっと笑っちゃうけど、古臭い感じでもなく。
しかし、ストーリーは、愉快でも痛快でも面白おかしくもないのですね。3人のヒロインはそれぞれ、どこか孤独の影が付いてくる、マイノリティー扱い。事件の真相を追う形式であるけれど、核となるのは彼女たちの苦悩なのだから。
特殊能力で大活躍する話が世に溢れるからこそ、この切り口が逆に新鮮。

「護られなかった者たちへ」2022/01/23 21:59

重い。タイトルからして重そうで、中身も看板を偽ることなくちゃんとヘヴィです。
津波被害で、身も心も、空間全体がボロボロに痛めつけられた光景。そして年月が過ぎ、この地で陰惨な連続殺人が起きる。
観る者の感情を突き刺す始まり方で、しかし物語の中心に据えられたのは生活保護制度という社会問題でした。瀬々敬久監督はそういう社会派サスペンスのイメージ強いなあ。
このお話のどの辺りがノレないかというと、「確かに可哀想だけど制度の窓口担当者に恨みをぶつけてもしょうがないよ」という道理があるからで、では大切な人を失った悲しみをどう扱えば良いかってなると、そこに絶対の正解はないのでしょう。重い、重いよ。
ある登場人物が訴える。声を上げてください、人間捨てたもんじゃない、助けてくれる人がきっといる。
全くその通りで、みんなで助け合えばいいことなんですが、しかし、どうもこの国では、SOSの声を聞いてくれる善良な人ほど、自身の窮地に助けを求めるのを遠慮するような気がします。