「ポトスライムの舟」2010/03/17 23:59

 生活するために仕事するんだか、仕事するために生活するんだか。
 今期の芥川賞は受賞なし、だったんですが。
 これは、図書館で昨年の文芸春秋三月号を借りてきて読んだ、第百四十回の受賞作。
 津村記久子作品は初めて読むのですが、なんていうか、大阪人、同年代の女性が書いたなあって、ヒシヒシと感じます。身につまされることも多々あり。
 モラルハラスメントに耐えられずに「心の風邪」になって対人恐怖症ぎみになったり、その反動で仕事しないことに不安を感じる超貧乏性だったり、それでいて日々の生活を維持するためにせっせと働くことに虚しさいっぱいになったり、しかもメッチャ働く割に懐があたたまるような実感が乏しいワーキングプア状態だったり、主人公のナガセの感じること、取り巻く環境が、実にリアルです。
 ナガセに限らず、登場する女性たち(女性しかでてきません)は皆それぞれそれなりに善良に真面目に己の道を歩き、多かれ少なかれ不安定さを抱え、ぐらついたり苛立ったりしながらそれでも何とか前向きに生きていこうとしている、普通の人たち。
 そう、みんな「前向き」に生きていたいのです。ヤなことあったからって、グレてしまうわけにいかない。具体的には、ある人は自分の店を経営(最初は年中無休で)したり、ある人は離婚して子育てと仕事復帰を目指したり。
 そして主人公のナガセの場合は、世界旅行をするための「貯金」を目標にしているのですが、ここでポイントになるのは、「世界旅行をするために貯金がんばる」のではなく「ちゃんと日々をがんばるために貯金するようにした」ってとこですね。
 前向きになりたいってことはつまり、人生の虚無をなんとかして埋めたいってこと。分かるんですよねえ、分かっちゃうんですよねえ、そういうのも。
 でも正直、そんなん分かりたくないような。自分も人生に虚しさ感じてるってことですから。

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