「時が滲む朝」2010/06/06 23:57

「狼が犬になっているぞ」とメールを送ると、
「狼の成長した姿さ。市場経済の秦都では愛嬌のある可愛らしいものが売れるんだ。非現実的で孤高な狼は、俺の胸の中にしまってある」と返って来た。

 ちょっと記憶があやふやな上記の文章ですが。そういう話です。
 高校時代からの親友同士が、念願の大学進学。ここから希望に満ちたキャンパスライフが始まるのですが、彼ら二人に限らず、中国の大学生めっちゃ本読んで勉強します。バイトとかコンパとか全然なし。早朝から勉強し、詩の朗読に嵌ったり有志で文学サロンを開いたり、文系アカデミックな学生さんたちのその根底にあるのが、しっかり勉強してこの国の役に立つ人材になろうという志!もう驚くというか感心するというか。
 で、そんな純粋な熱意は、勉学から民主化運動に移行していくのですが、ご存知のとおりの天安門! 運動は挫折し、酒場で運動を批判されて喧嘩になって、大学も退学という転落人生の始まり。
 彼らの情熱は、その後何年もかけて、少しずつ折られていったように思えます。一人は自分がかつて批判した政府の元でデザイン業として成功する。もう一人は日本に移住して現地中国人の団体に参加しますが、運動の矛盾や金儲けの場となっている現実が見えてきます。あの情熱は、なんだったのか。昔はただ純粋に、人を、祖国を愛する青年でいられたのに。
 現実を生きるのに、若き日の高揚した気持ちが置き去りにされてしまう。彼らは尾崎豊を歌い、その熱を吐き出していく。(尾崎に限らず、作中に詩がたくさん出てきます)
 熱くて、飽きることなく一気に読めましたが、たくさんの要素がぎゅっと押し込められた作品で、長編小説としてじっくりしっかり書いてもらいたかった気もします。

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